episode-10 名も亡き誰か
知られたくないから、知る側になろう。そう思った。
知られるのは嫌だ。
僕は、誰にも知られていなくていい。
注目されるのは嫌だ。
誰も、僕のことをみなくていい。
調べられたくないから、調べる側になろう。そう思った。
調べられるのは嫌だ。
気分が悪いから。
みも知らぬ誰かに、僕のことを知られたくない。
訊きたくないから、訊かれる側になろう。そう思った。
訊くのは、難しい。
誰も、僕の求める答えは持っていないから。
訊かれるのも、簡単じゃない。
何を求めているのか、僕には、解らないから。
だから、僕は、すべてを知っていないといけない。
比べられたくないから、比べる側になろう。そう思った。
比べられるのは、嫌だ。
僕は、すべてにおいて劣っているから。
僕は標準であって標準以下ではない。そう思いたい。
でも、僕はどうやっても標準には届かないから。
僕は、すべてが標準以下で、それでいい。
診られたくないから、診る側になろう。そうは思わなかった。
だって、どうせ診られなければならないのだから。
殺られたくないから、殺る側になろう。そう思った。
死にたくないわけじゃない。
殺されたくないだけ。
死なせたいわけじゃない。
殺したいわけでもない。
でも、殺されないためには、反撃しなきゃ。
それがたとえ、過剰防衛になろうとも。
されたくないから、する側になろう。そう思った。
だから僕は、何でもしなきゃ。
何にもされないためには、何でもできなきゃ。
僕に干渉されないために、僕が干渉しなきゃ。
すべてをされないために、すべてをしなきゃ。
世界に関わられないために、僕が消えなきゃ。
……だから僕には、この仕事が一番だ。