登校
僕がこの日暮れ荘に住み始めたのはちょうど一年前である。
高校に入る頃、同じ仕事をしている両親がある仕事で海外に行く事になった。
その時、家族全員で海外に引っ越そうという話になったのだが僕はその話を蹴ったのだ。
理由は色々あるが、海外に行ったところで話はどうせ通じないだろう。その結果あちらのハイスクールで惨めなひとりぼっちを決め込んでストレスマッハで死ぬ未来が見えたからとかいうチキン発想は口が裂けても言えない。
日本でも友人がごく少数なのに海外に行って友達百人できるかななどおこがましい。
そんなチキン発想など知らない両親ではあったが、特にそこまで強要はしてこず、あっさりと俺をおいて二人で海外に旅立ってしまった。
本当にあっさりしててなんか息子として複雑な心境だった・・・
もうちょっとこうあるんじゃなかったんだろうか・・・いや僕から断ったんだけど・・・
とまぁそんなことがあり、現在一人暮らしをしている。
一人暮らしには夢があった。誰にもとらわれない僕だけの時間、僕だけの空間、僕だけの城。炊事や家事は、さっき言ったとおり両親が共働きだったので、よくやっていたので、そこそこ自信はあった。むしろ、一軒家からアパートになったので、掃除する範囲も料理の量も少なくなり、個人的には万々歳、楽しい高校生活が今幕を開く!!
はずだったが現実はそこまでうまくできていないらしい・・・
僕が洗面所から部屋に戻ると僕以外の人が見たら泥棒に入られたかと思うほど散らかりようを見せていた。
いや泥棒というよりもハリケーンである。
本棚からはほぼ全ての本が飛び出していたり、ゴミ箱はひっくり返っていたり、どうやって開けたかはわからないが、タンスの一番下が空いていて、僕の服が散らばっていたりなどなど。
さっきは寝ぼけてそのまま洗面所に行って気づかなかったが、帰って来たら昨日あんなにきれかった部屋が一夜にしてこのザマである。
「カエデ・・・」
散らかった僕の部屋の真ん中で、僕の服の上で赤茶色の猫が丸まってぐーぐー寝ていた。
この猫の名前はカエデ。性別はメス。性格はおてんば。
一年前、母さんが一人じゃ寂しいだろうと、僕にプレゼントしてくれたのがカエデだった。
最初の頃はとても大人しかったのだが、いつしか時々夜になると暴れだすという謎の習性をもつようになった。
おかけでいつも朝は掃除から始まるのはお決まりになっている。
「はぁ、このイタズラ娘は・・・」
そう呟いて一歩踏み出すと、突如カエデはハッと目を覚まし、むくりと起き、大きく伸びをして、こちらに向かって走ってきた。
そして、僕の周りを二週すると、頭を足にすり寄せてきた。
「ん?なんだよカエデ?」
そして、数秒すり寄せたあと、開けっ放しの扉から出て行った。
「・・・あ」
逃げられたとわかったのはカエデが出て行って五秒後のことだった。
急いで外へ出たが、カエデの影も形もなくなっていた。
「・・・」
そういえば前もこの手で逃げられたきがする・・・
うぬぬ、猫に二度も同じ手で逃げられると少しへこむ
「・・・そんなことより片付けか」
僕はカエデの今後の対策を考えながら掃除を始めた。
慣れというものは恐ろしいもので昔は三十分もかかったカエデの掃除もものの十分で終えることができた。
どうもカエデは散らかすのにパターンがあるようで、前と同じように掃除をしたらすんなりと終わった。
しかし、また今夜か次の夜には散らかされると考えると少し虚しくなる自分がいる・・・
「キャットフードで釣るか・・・いやただでさえ仕送り貧乏生活なんだからエサは無駄にできないよな・・・」
あれやそれやと考えがまとまらないうちに学校に行く準備が出来てしまった。
「いってきます」
特に意味もなく義務的にそう呟きながら扉を開け外へ出た
階段を下り、ふと日暮れ荘を振り返って外見を見た
あいも変わらず、ボロボロで、ちょっとの地震があったら倒壊してしまうような外見
マンションのようなコンクリートではなく木材建築の家の為かいっそうボロく感じる
先程も言ったとおり洗面所とトイレは共同で、風呂なしの六畳間部屋
今思うともうちょっといい物件にすれば良かったと後悔する自分がいる
じゃあほかのアパート見つけろよと思うかもしれないが、実は父さんが昔からここの大家さんと仲がよく、少し安くで借りれているというメリットがある
ぼっちゃん的に言うなら
「僕のパパと大家さんが知り合いでね!このアパートの部屋安く借りれるんだよ!」
だろうな
規模ちっちゃ!しかも金とんのかよ!このぼっちゃんのパパだめだな!
まぁつまりダメパパの支援が月に一度しかなく、バイト生活な僕にとってはなかなかいい条件なので二つ返事で頷いた結果がこれだよって話
元々安い分、もっと安くなるのは嬉しい限りであるが、もうちょっといい物件の人と交友深めてくれよダメパパ様よ
「行くか」
気持ちのリセットをするかのように呟き、日暮れ荘を背にして歩き始めた。
今の気持ちで学校行っても楽しくない。元々楽しくないのにもっと楽しくなくなってしまう
さっさと行っていつか出世しそうなやつと交友深めて、寝て、寄り道して帰ろう。何それ楽しみ
ちょっとルンルン気分で今日の予定を立てながら、裏で帰って来たら倒壊してませんようにといつものように願いながら歩みを進めた。