勘違いなプレゼント
―恋は盲目。ベッタベター―
ふといつもの帰り路。面倒な授業を片付け、今週への別れを告げてきた私は、いつものように商店街を歩いて回る。特に買いたい物は無いんだけど、そんなのは気にしちゃ、BAD。ウィンドウショッピングなんて洒落た名前で今日も店を次から次へと回ってみていると、ふと一つの店が目に止まる。特に目に付くような物は置いてないはずなのに、その店が今日はやけに気になって。じーっと目を凝らしてみれば、大きなウィンドウの奥に楽しそうな見知った顔。
「あれ…?和紀…?何であんな所に?」
結代 和紀。『性別:男子』なアイツが何であんなファンシー(笑)なアクセサリーショップになんて居るのかと、よくよく目を凝らしてみると、ふともう一人、楽しそうな見知った顔を発見。和紀と笑顔で話しているソイツは、中々にいい雰囲気で。傍から見たらまるでそういう関係のようで。
「…美和まで一緒?一体どうして…?」
美和。私の親友とも呼べる人間1号。小さい頃から仲良しで、もう相手の知らないところは無いってくらいにずっと一緒に居たわけだが…居たはずだが…
「まさか…美和と和紀が…」
知らなかった。あの二人がそんな関係だったなんて。
楽しそうな二人に、一刻も早く此処を離れたくなるが、しかし何故か私は、そこに根でも生えてしまったのかのように動く事ができず、その場にただただ立ち尽くす。
結局私は、二人がその店を出るまで、その場を動けずに居た…あぁ…心がモヤモヤ…
その夜私は、布団の中で泣いた。 和紀への想いを知った。
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翌日、翌々日の休みは結局一度も家から出る事は出来ず、休みを無駄にしてしまった自分を罵りながら月曜を迎えた。朝、かなり早くに目が覚めてしまった私は、まだ誰も登校してないような時間に学校へ行った。当然、教室には誰も居らず、一人ですることも無かった私は、机に伏して寝る事にした。うとうと…
ウトウトしていた私は、マナモードにしていた携帯の着信になど気付かず、気付けばそのまま寝ていた…
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「葉月~!起きろ~!起きるのだ~!」
バンッ!と背中を叩かれ私は目を覚ました。恨めしげに後ろを見ればそこには、親友2号。ニコリといつもの笑みを浮かべた彼女は、そのまま、私の前の席へと移動する。
「愛…起こし方、酷いよ…?」
「え~、だって揺すっても起きなかった…ってそのクマ、よっぽど寝不足か。果たして葉月ちゃんは、昨日の晩、ナニをしていたのかね?一体ナニをしていたんだい?ん?」
「別にナニも…っていうか、そんな酷い?」
「うん。そりゃもう。隠しきれてないもの。本当に大丈夫かい?何処か具合が悪いのかい?それともあれかい?もしかして、恋の病、なんて~?」
恋の病。その言葉が私の胸を抉る。
笑顔で「な~んてね♪」なんて言っている愛の顔を思わずまじまじと見つめてしまう。
「ん?何だい、そんな見つめないでおくれよ。と言うよりそんな睨まないでおくれ?私なんかしたかい?」
「…愛、あのね?」
「ん?どうした、どうした?私に話したいことかい?嬉しいね。どんどんおいで!」
「うん…あのね…?」
気付けば私は愛に商店街での事を話していた。誰にも話すつもりなんか無かったし、胸の中に仕舞っておくつもりだったのに、一度声にしてしまうと、次々に言葉が飛び出してくる。
気付けば私は、愛に全部話してしまっていた。
「…なるほど。葉月がカズのこと好きなのは知ってたけど…美和まで、とはね…モチモチだ、カズ…」
「モテモテ、ね…ていうか、知ってたの?アンタ?」
「うん。ていうか、美和も知ってたはずなんだけど。葉月って、カズの前じゃなんかこう、可愛くって可愛くって仕方なくてさぁ。私と美和でこう、ニシシッ、って感じだったんだけどなぁ~…」
「…美和が…」
正直、ショックだった。皆は気付いているのに、当の本人がずっと気付いてなかったことにもなのだが、ソレよりも何よりも、美和が、私の気持ちを知っていて、それでも何も言わずに和紀とああやってたことに。
「だよね~。美和がそんな事するとは思えないんだけどな~…葉月、見間違いって事は…」
「無い。絶対無い」
「だよね~…でも、やっぱり信じ…て、噂をすればハゲですな」
「影でしょ…で?何かあったの?」
「ほら。美和ちゃんのご登場ですぜ?旦那」
「?!美和!?」
「ふふふ…面白くなってきたぜ…お~い、美和~!」
「あ、愛!」
「おう。オハヨーな、お二人さん。で、何?私が聞いちゃまずーいようなお話でも?」
「うむうむ。たった今、葉月と二人でね~」
「そうかそうか。なんだよ葉月?恥ずかしがらずに私にも教えろよ~なんだ?好きな人でも出来たか?」
「…!」
「あ、美和、それは…」
「ん?私なんか、て葉月!?」
気付けば私は教室を飛び出していた。美和は知っているはずなのに…それなのに、なんで…!
「葉月!ちょっと待てって!」
「嫌!離してよ!」
「ちょ!?暴れるな、落ち着けって。どうしたんだ、一体?」
「どうしたもこうしたも無いよ!美和が…美和が和紀と…私の気持ち知ってるくせに…!」
「…お前、何を…」
「金曜日!商店街!アクセサリー!」
「!?葉月、お前居たのか!?」
「…離して!」
ぶんっ!と腕を払ってそのまま学校を飛び出す。後ろを振り向けば美和が繰り返し何か呟いていた…
「違う…違うんだよ、葉月…」
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キーンコーンカーンコーン…
遠くでチャイムの音が聞こえる。
美和を振り切って学校を飛び出した私は、近くの公園に居た。
する事も無く、何となしに携帯を開いてみれば、そこには2通のメール。美和と愛からのメール。
何となく美和のメールは見る気になれず、愛のメールを開く事にする。
するとそこには、私自身すっかり忘れていた一年に一度の記念日の知らせ。
『HAPPY BIRTH DAY 葉月~!』
誕生日オメデトウ。私自身、すっかり忘れていた。そういえば今日は、私の誕生日だった。色々な事に頭がいっぱいで、すっかり忘れて…そう思うと、何故か涙が出てきた。ぽろぽろと雫がディスプレイに落ちていく。震える声で「ありがとう」と呟きながら、美和のメールは見ずに携帯を閉じようとする。すると、そんな私を咎めるかのように、肩に手が置かれる。ビクッとしながら振り返れば、そこには見知った顔。
「…葉月、お前こんなところで何してんだよ…不良か?」
「和紀…どうして…?」
「どうしても何も、美和と愛に『葉月がどっか行った。捜してこい』って言われて、慌てて飛び出してきて、捜してやったんだろうが。まったく、お前授業放って、何考えて…葉月?」
「あ、あ、あぅ…あぅ…」
言葉を出そうにも言葉にならない。色んな感情がごちゃ混ぜになって、もう何がなんだか分からない。
暫くその状態だった私が、発した言葉はたった一言。
「ごめんなさい…」
「…まぁ、美和も怒るなって言ってたし…訳ありなんだろうけど…」
「ごめんなさい…」
「…はぁ…もう疲れた。俺もこのまま、学校サボる」
そう言って、隣に座った和紀は、どうやら最初からそのつもりだったようで、荷物を持っている。だからと言ってそれを、咎めるわけにも、指摘するわけにも行かず私は、ただ下を見つめ、うつむくだけ…
「なぁ、葉月?」
どれくらいの時間がたったのか。暫くして和紀は空を見上げながら、痺れを切らしたかのように始める。
「お前、何で飛び出したんだ?何かあったのか?昨日だって家行ったのに、具合が悪いって出てこなかったしさ…」
「…昨日、来てたの?」
「あぁ。ついでに言うと、一昨日も行ったぞ~。結局、お前は出てこなかったけどな~」
「………」
「まったく…いつもの食べ歩きで、腹壊したのか?お前は、金曜日にいつもいつも…」
「そういう和紀はさ、金曜日何してたの?」
「俺かぁ?俺は別に何もしてねぇ…」
「嘘吐き」
「はぁ?俺は別に嘘なんて…」
「嘘吐き。金曜日、美和と楽しそうにしてたくせに…」
言うつもりなんて無かった。なんでもない風に装っておけばよかった。
私が金曜日の事を言った途端、和紀の顔が、強張るのを確かに感じた。
「…お前、見たのか?」
「見たよ。美和と楽しそうにアクセサリー選んでたよね?どう?いい物は見つかった?」
嫌だった。こんなに醜い自分がとても嫌だった。それでも口をついて言葉は出た。
「二人して、用事があるって…ああいうことだったんだね」
「…あちゃ~…スマン、美和…バレちまってましたぜ…って言うかもしかしてお前、それで美和となんかあって、学校飛び出してきたのか…?」
「…そう、だけど…」
「何でそうなるんだよ…」
「…!だって、私は、和紀が美和と一緒に居るのが、~~っ!!」
「…何?」
「な、なんでもない…」
危なかった。思わず、暴露してしまうところだった。いや、したほうが良かったのか?
「…それで?お前と美和に一体何があったんだ?ん?」
「…喧嘩した」
「喧嘩ねぇ~…はぁ…やっちまったなぁ…」
「………」
再び訪れようとする沈黙に、私は耐えられなくなり、この場を離れようとする。すると和紀はそれを感じたのか、私が立ち上がる前に、その沈黙を破る。
「…葉月、今日は何の日だ?」
「…?」
「…分からないのか?」
「うん」
「マジで?」
「…うん」
「お前な…自分の誕生日くらい、しっかり覚えておけよな…」
「へ?誕生日?」
今日は自分の誕生日だと、またまたすっかり忘れてしまった私は、一体今日が、何の日かなんて分からず和紀に心底呆れた顔をされてしまう。でも。コレは仕方ない。だって、過去一度も、和紀が私の誕生日を祝ってくれた事はないんだもん。恍けてるわけじゃないのです。
「まったく…そんなんじゃ、勘違いも当然か…?」
「…勘違い?」
「まったくな…ほれ、プレゼントだ」
「へ?」
「だから、プレゼントだ。嬉しいか?嬉しいだろう?良いか?コレは、俺と美和で選んだんだ。分かるな?」
「…?」
急にこんな物渡されても、訳が分からない。
「はぁ…だーかーらー、金曜日、俺と美和が二人で一緒にいたのは、お前へのプレゼントを選ぶためだってことだよ。俺一人じゃ、良いの選べるか不安だったから、美和に着いて来て貰ったんだ。お前が、どんな風に見たのか知らんが、ただそれだけの話なんだ。分かったか?」
「………」
つまり何だろう。あの時二人は私へのプレゼントを探していたわけで?それも、和紀が一人じゃ不安だったからで?つまり二人は、そういう関係なんかじゃなくて?つまりは全部、私の早とちりで…!?
「まったく…お前が一体どんな想像をしたのか知らないけど、絶対にありえねぇーっての…俺と美和がそんな関係になんて、なるわけがねぇーって」
「…なんで?」
「なんでってお前、そんなのどうでもいいだろ…?」
「なんで?」
「…言わなきゃだめか?」
「………」
「…あぁ!分かったよ、言ってやるよ!良いか良く聴け?俺と美和はそんな関係には絶ッッッ対にそんな関係にはならねぇ!何故なら、俺が…!」
そこで、わざとらしくタメを作る和紀。思わず和紀のほうを見れば、和紀の顔はすぐそこで。というよりもう、くっついていて。
「お前が…葉月が好きだからじゃ~!」
「~~~っ!!?」
「なぁ、葉月?お前は…って、葉月?葉月!?」
「~~~っ!!?」
もう何がなんだか分からなくて、頭が真っ白になっちゃって、ぐっちゃぐっちゃだけど、けど、それでも不思議と私の心は満たされていて。それでも、頭が処理落ちしてしまって、私は気を失ってしまった。
バタンキュー…
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結局としてその後学校へと戻った私は、何度も何度も美和に謝って、絶交なんて事にならなくて済んだ。そんな私を愛は、終始ニヤニヤと見ていた訳で。…どうやら、美和から話は聞いていたらしい。
そして和紀はと言うと…
「遅ぇーぞ、葉月。呼び出しておいて、遅れんなっての」
「ゴメン!美和と愛沈めんのに時間かかって…」
「お前な…で?話って何だ?ま~た、気絶でもすんのか?」
「…和紀」
「な、何だ?」
「私ね、和紀のことがね?」
「お、おう」
「ずっと、ずぅーっとね、好きで…」
「葉月~!オメデトウ…?」
「あ、コラ、愛!ごめん葉月!ささ、続けて続けて?」
「…和樹?」
「なんだ?」
「行ってくる」
「あぁ。お前の気持ちは確かに受け取った。俺もだ、葉月」
「うん…じゃあ、後で、ね」
「あぁ。殺ってこい」
「うん」
「え、あ、あの葉月サン?悪いのは愛だからさ?私のことは見逃しておくれ?」
「問答無用。共犯だ、共犯!」
「うにゃぁぁぁぁぁぁ…」
「ふぅ…さて、愛?主犯にはもっともーっと重い罰を、だよ?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ…」
ていう感じで、中途半端ながら、何とか思いを告げることが出来た私の隣には今、和紀が居て。
私は今、とっても幸せで。何か色々あったけど、本当に良かったなぁーって。
「あのね、和紀?」
「ん?どうした?」
「私、今ね…」
私は今、とっても幸せです…I Love You!