お隣の女の子=私。1
学校に着けば、普段と何一つ変わらない日常が待っている。授業をして、時々テストがあって、友達と喋って。何一つ代わり映えのない”日常”。
私、美島碧依は現在17歳の大学受験を来冬に控えた灰色の受験生だ。5月の半ばだから、まだそんなに危機感はないけど。
身長は159cm、体重はヒミツ、胸はそこそこ、ウエストはビミョー、お尻はMサイズが入るくらい。見目麗しい慎ちゃんの隣に立つには気後れする程度の顔に、上の中レベルの成績、運動音痴。特技は絶対音感。という極々普通の女子高生、のはずだ。お隣さんの幼馴染が気づいたら芸能人になっちゃってた以外は。
「やっぱ慎、いいよねぇ」
…たとえ友達との会話の中で慎ちゃんの話題が出ようと、それすら日常の1ページなのだ。
中学時代からの友人である早苗はお弁当を食べ終わった机の上に女性誌を広げて、はぁ、と溜息をついている。雑誌の開いているページは、慎ちゃん―もとい。神城慎が惜しげもなく上半裸を晒しているページ。
おお、慎ちゃんってば逞しくなっちゃって。
といっても比べる対象が、彼が中学生の頃―私がまだ小学生の頃の彼なので、当然と言えば当然なのだけれど。
「色っぽいなぁ…」
「わかる!慎ってどことなくエロいよね!?」
…色っぽいかぁ?
と彼の実情を知っている身としては、皆が”色っぽい”とか”エロい”と称する写真を見ても、うわー、頑張ってるなぁ、としか思えないんだけれども。というかそれこそ物心つく前から一緒で、オネショも、女の子になった日も全て相手にバレてるもんだから、”異性”という目で見れないのよねぇ。
と言っても、初恋は当然のように慎ちゃんだったけれど。
「碧依もそう思うでしょ!?」
「…なにが?」
「まーた聞いてなかったのか」
「もー、ホント碧依は慎に興味ないねぇ」
ドラマも前作チェックして、CDもきちんと発売日に予約しているけど…それは完璧に”身内”の欲目もあるからなぁ。
演技のことはわからないけど、歌だと此処音階ずれたとか気づいて歌番組のあとにメールで指摘したりするけどそれくらいだしなぁ。向こうも演技について私に聞いてきたことないし。まぁ、でもラブシーンとかあるとちょっと複雑ではあるよね。知ってる顔がキレーな女優さんとキスしてたりすると、覗き見してるみたいで。
まぁ、ドラマとかお仕事以外でも慎ちゃんがキスしてるところ、見たことあるけどさ…。
「曲とかは好きだけど、本人は別にーって感じだもーん」
ブス、と最後のウィンナーを箸に指してパクリ。
慎ちゃん、私の学校にもちゃんと慎ちゃんのファンがいるよ、よかったねぇ。
なーんておもってしまう私は、親戚のおばちゃんみたいかも。