お隣の男の人。1
神城慎之介=神城慎。
名前を短くして、呼び方を変えただけ。
だけど、案外ばれないものみたい。
ちょびっと変装すれば、一緒に街を歩いていても気づかれそうになっても「慎ちゃん」と呼べば人違いか、で済ましてくれるから。
慎ちゃんとの出会いは、それこそ私がママのお腹に中にいたころから、らしい。いかんせん私としては物心ついたころには当然のようにいた、兄のような存在なのだ。
ちょっと人よりいい顔で、ちょっと人よりいい声で、ちょっと人より私に優しくて。
ちょっと…否、大分人より歌が上手かった。
ピアノ教室を開いている慎ちゃんのおばさんのおかげで絶対音感を持った私たちだけど、慎ちゃんは私がまだ10歳になるかならないかの頃に曲を作るのにハマって、慎ちゃんが大学生になって成人式を迎えるころには、なぜかメジャーデビューなるものを果たしていた。
そのころの私は、というと正直高校受験の真っただ中で、受験がすべて終わった後にその話を事後報告されたんだけれど。あまりのことに開いた口がふさがらない、を私は実践してしまった。
そんな慎ちゃんもCMソングや映画の主題歌などを任され、挙句顔がいいから、とドラマにも出演して、デビューから3年経った今ではオリコンチャートをにぎわすアーティストへと変貌を遂げたのだ。
芸能人と大学生という二足の草鞋を彼は無事卒業し、今年の4月からは芸能活動一本で頑張ってる―ようだ。
なぜ、ようだ、なのかというと。
この半年、いまだに実家に住んでいる慎ちゃんとはすれ違うくらいの接点しか持てていないから、なのだ。