キミにささげる鎮魂歌
本作品は、7/31まで募集している
「第一回AWs小説コンテストぷち(AWsコンぷち1)」
に応募した短編です。
https://www.anotherworlds06.com/campaign/AWsCon/AWsCon1.html
世界観を知らなければ、
初見では少し理解が難しいかと思いますので、
簡単ですが、説明用のTIPSを本編前に書きました。
読まなくても問題ないように本編を書いていますが、
読んだ方が、すんなりと話に入りこめると思います。
TIPS:科学統一世界
複数の世界観を同時に有するマルチワールド、AWsの世界の一つ。
科学があらゆる困難、差別、紛争を解決した平和な世界で、
科学により解決できない “ 神秘 ”を扱う “ 魔女 ” だけは排除対象とされている。
――そんな矛盾した未来の世界。
TIPS:魔女
2016年生まれの少年少女。
彼らは第二次性徴期以降に “ 魔法 ” を発現する可能性がある。
それまでは普通の人間と同じ扱いを受けている。
TIPS:魔法
現実世界を書き換える超常技術。
魔女は一語で表せる “ 属性 ” とそれにまつわる “ 魔女名 ” を持ち、それに紐づく “ 神秘 ” を使える。
それでは、本編をどうぞ。
◆
科学により、あらゆる困難、差別、紛争が解決された。
そして世界に平和が訪れた。
科学万能主義の巨大連合政府――科学統一政府。
2032年現在、その傘下には、ほぼすべての国家が加入している。
科学がもたらした恩恵は大きい。
政府主導のもと治安は圧倒的に良化し、街から監視カメラが姿を消した。
科学がもたらした恩恵は平和だけではない。利便性もだ。
網膜映像投影型の超小型ARウェアラブル量子通信デバイス “ オーグギア ” 。
イヤーフックやピアス、イヤリング等の形をしたその端末によって、
人々は瞬時に各種情報にアクセスできる。
かくいう私も身につけているんですよ。
左耳につけたダイヤ型の透明なイヤリング。
これが私のオーグギアです。
どうですか?
腰まで届く銀色のゆるふわロングヘアを、耳上でゆるく結んだハーフツイン。
光を受けるたびに少し透ける髪と、アクアマリンの瞳。
水色のキャスケットを被った、華奢で儚い薄幸の美少女。
そんな私によく似合う、とても素敵なイヤリングでしょう。
兄妹で一対のイヤリングになっていて、私のお気に入りなの。
平和で活気にあふれた街並みを眺めていると、
過去に戦争があったなんて、まるでおとぎ話のように感じてしまいます。
それなのに――
この平和な街の喧騒は、どこか自分とは無関係な世界の出来事のようで。
私はキャスケットのつばを軽くおさえながら歩き出しました。
大通りから離れた小路を抜け、オーグギアが示す穴場のカフェへ入ります。
ラテアートが美しい、静かな憩いの場所なんです。
ハート模様のラテアートと、白く透き通るレアチーズケーキ。
午後の陽射しが差し込む窓辺に座り、ゆったりとした時間が流れます。
(贅沢な時間の過ごし方だわ……)
微睡に身を任せようとした、その瞬間――
遠くで、かすかな喧噪が聞こえました。
周囲のお客は誰も気づいていないようです。
もしくは、気にする必要がないのでしょう。
私はコーヒーとケーキを平らげ、音のした方向へ歩き出します。
次第に人の気配が薄れ、喧噪の源へ辿り着いたとき――
そこには、小柄な少女と、それを追う複数の影がいました。
追われている少女は――魔女。
衣服は破れ、全身が傷だらけです。
それを追う影は――魔女狩りの連中。
全身を覆う黒い無縫ローブ「カウナケス」。
閉じた瞼の模様が描かれたフードは顔を完全に隠し、
手には先端に瘤のついた二又の槍「トゥクルの槍」。
顔は見えないのに、
その奥に “ 醜く歪んだ笑顔 ” が浮かんでいることは容易に想像できました。
(やれやれですわ。
私の待ち人では、なかったみたい。)
科学はあらゆる問題を解決した。
しかし、科学で解決できない “ 神秘 ” を扱う “ 魔女 ” だけは排除対象にされている。
魔女狩りは、警察手帳を持った国家の犬どもだ。わんわん。
魔女――2016年に生まれただけの普通の少年少女。
“ 魔法 ” さえ発現しなければ、普通の人間と同じ扱いを受けて生きていける存在。
少女を襲う畜生どもを前に、
私はマークスマンライフル「SCAR-H」を構えます。
魔女狩りが好んで使う銃の一つです。
(ま、アイツらは街中でこれを使えないんですけどね。
補給前なので、無駄な弾は打ちたくありませんが……仕方ないですね。)
先頭の魔女狩りに照準を合わせる。
――ワンショット。腹部に命中。
――セカンドショット。後続の頭部に命中。少し逸れました。
十分な威嚇射撃を終えた私は、少女の進路を逆算し、路地裏で待ち構えます。
駆け込んできた彼女の手を引き、通路の奥へと引きずり込みました。
「ご安心なさってください。敵ではありませんよ。」
恐怖で震える彼女に優しく声をかける。
「え……? あ、あの……ありがとうございます! でも、一体どうして……?」
どうして……か。
魔女以外の悪い奴らを駆逐することが俺の使命だ。
だから、本来なら魔女を助ける理由なんてない。
ないはずなのに――
虐げられる彼女に、妹の姿が重なって見える。
俺は、魔女を助けることで、
ヤツらに殺された妹を助けた気になりたいだけなのだろう。
「気にすることはありませんよ。
私、悪い奴らが大っ嫌いですの!」
彼女にも魔女狩り連中にも、俺の “ 本当の姿 ” は認識できていない。
―― “ 妹の姿 ” で周囲を欺いている、そんな俺の姿は。
「迷惑をかけてはいけない」と同行を拒む彼女と逃避行を続ける。
しかし、数の差は圧倒的で、やがて追い詰められてしまう。
魔女狩りどもは槍で地面を叩き、威圧しながら近づいてくる。
勝利を確信した目。本当に下種な野郎どもだ。
「あ、あの……。
この子は悪くありません。私が脅して同行させただけです!
捕まえるなら、私だけにしてください!!」
どうやら彼女は私の心配をしてくれているらしい。
本当に優しい子だ。
彼女の配慮を無駄にしないよう、
俺はゆっくりと魔女狩り連中に近づき、ヤツらの頭に手を触れる。
相手は膝から崩れ落ち、失禁しながら泡を吐く。
叫び声は出ず、短いなき声のあと、静かに壊れていった。
なんということはない。
俺は “ 認識 ” の魔女。
相手の脳に “ 妹の死に際の苦痛を一秒に凝縮して ” 流し込んだだけ。
狩る側と狩られる側が入れ替わった戦場。
全員が正気に戻る前に、俺は魔女狩り全員を倒した。
「え……。
何が起こって……?」
混乱する彼女に、一言だけ伝えてその場を離れる。
「さきほどは、かばっていただきありがとうございました。
それでは、待ち合わせがありますので、私はこれで失礼しますね。」
彼女は、何か言いたそうにこちらを見る。
でも、何も言えなかった。
俺が “ 魔女 ” だと気づいたかもしれないが、一緒にいることは危険につながる。
彼女と別れ、少し物思いにふける。
彼女を助けたことを、妹は喜んでくれるだろうか?
妹が殺された日。
妹は、何一つ恨み言を言わなかった。
ただ、静かに俺の名前を呼んで――幸せを願った。
周囲に人がいないことを確認し、俺は魔法を解除する。
街中に監視カメラはない。
しかし、人々のオーグギアの視界情報は政府に共有される。
俺のオーグギアは “ 認識 ” をいじり不都合な情報を渡さないようにしているが、
他人の視界に俺の姿が映るわけにはいかない。
「――記憶は形を変え、世界の姿は揺らぐ。
“ 認識 ” の力よ、静かに世界を塗り替えろ。」
銀髪の麗しい少女の姿は消え、
黒髪ロングで灰色の目をもつ長身の痩せた男の姿が残る。
左耳にあったイヤリングは、いつの間にか右耳へと付け変わっていた。
「何をしてるんだろうな、俺は。」
魔法を使い続けた代償なのか。
後ろで束ねた黒髪の先端は妹と同じ銀色へと変わり、
声も妹の愛らしい声に近づいていた。
俺という存在が、妹と一つに混ざりあっていく。
――それでも。
――許さない。
――俺はこの世界の在り方を許さない。
妹は魔女狩りに殺された。
悪いことはしていないのに、ただ “ 魔法 ” が使えるだけで。
科学で説明できない “ 神秘 ” を扱う俺達は “ 恐怖 ” であり “ 脅威 ” なのだろう。
人の皮を被った虐殺者たちは言う。
「魔法は科学で解明できず、危険だから排除するしかない」と。
だから俺は、ヤツらに反逆することを決めた。
この世界に対抗することを決めた。
妹が生きていた頃にお世話になったレジスタンス――
アケメネス・ホラの皆には悪いと思っている。
消滅の魔女と呼ばれていた妹が生きていたら、
やさしい彼女は復讐なんて望まないだろう。
だけど、止まるわけにはいかない。
これが俺の――
いや、俺達の戦争だ。
風が吹き、銀色の髪が揺れる――
それは、妹と同じ髪の揺れ方だった。
お読みいただきありがとうございます。
ダークファンタジー風の物語でしたが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
別作品ではありますが告知です。
8月1日には「転生×学園×ダンジョン系」ラブコメを連載予定です。
本作を気に入っていただけた方は、そちらも覗いていただけると励みになります。
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