第1話
「この悪女が!!」
そう罵倒された。悪女の烙印を押されたアン・スチューシーはただ立ち尽くす。王子は更に続ける。
「お前との婚約は破棄する!そして、貴族としての地位を剥奪!アンの財産を没収する!」
王子の罵倒と宣言が大広間に響き渡った。アンは無実の罪を、突然現れた女、エミリ・ファリソンにきせられたのだ。エミリは王子に取り入り、無実の罪をでっち上げ、アンは断罪され、今に至る。アンは無実の罪をきせられ、嵌められた屈辱に必死に耐えるように震えていた。周りの貴族達は冷たい視線を送る。誰もアンを助けない。
この世界は乙女ゲームの世界である。アンは現世から転生してきた転生者だった。なので、前世のプレイ経験から断罪を免れるなんて容易だと思っていた。しかし、アンを陥れたのは主人公ではない。ある日突然現れ、次々と人々を助け、聖女と崇められた女だった。それがエミリである。
アンは考える。恐らくエミリも転生してきたのだろう。魂のみの転生だった私と違い、元の身体ごと転生させてもらえたらしい。転生者は1つ、アイテムを持って行くことができる。恐らくエミリが持っていく事にしたアイテムは自分の身体だったのだろう。ちなみに私はスマホである。でも、これは全く役に立たない。何故かって?電源こそ雷の魔法でつくものの電波がない。この世界には電波がないのだ。全く、もっと別のものにすれば良かった……と、アンは呆れかえっていた。なんてことを考えながら断罪される。
周りは敵ばかり、そんな中、持っていたスマホがバイブした。画面には無機質な一言が映る。
「効率的対処法を提示いたします。——この場は静観することを提案します。」
アンはこの状況を乗り切る方法を思案するがベストな回答が出てこなかった。仕方なく、アンはとりあえず何故か動きだしたスマホのAIの指示通りにしてみることにした。
「………。」
「どうした?言葉もでないのか?」
断罪してきた王子にそう言われる。本当なら言い返しているが、いつも言い返して状況が好転した事はなかった。故に、ここはAIに頼って見ることにしたのだ。
「まあいい!行くぞ、エミリ!」
そういうと王子は、王子を垂らし込んでアンを陥れたエミリを連れて去ってゆく。アンは心の中で「泥棒猫!」と、呟いた。
状況は好転しない。しかし、悪化もしていなかった。王子達が去ってゆくのと同時に周りから石を投げられる。
「出ていけ!悪女め!」
「早く消えろ!」
「悪魔め!!」
これまで蝶よ花よと持て囃されてきた私によくそんな罵倒を言えるものだと感心するレベルである。周りの人間は皆敵だった。誰もいない。その時、静かにスマホが再び震える。
「?」
画面を見るとそこには次の指示が書いてあった。
「建物の外に出て身の安全を確保することを提案します。」
アンは大広間から廊下を通って外に出た。このままどうしようと思ったアンは一旦屋敷に帰ろうとした。しかし、そこに待っていたのは無慈悲な現実だった。いつものように馬車はない。歩いて行く。1時間程歩いてようやく屋敷についた。呼び鈴を鳴らして中に入ろうとする。しかし、そこに現れた使用人達に阻まれた。そんな中にアンの父が現れる。
「我が家に泥を塗ったお前はもう私の娘ではない!去れ!」
そう言われ屋敷を追い出された。どうしようもなくなったアンは川に身を投げ、死を選ぼうとした。まだ冷たい川の水に飛び込む事を想像して身震いしながら足を橋の欄干にかける。
「誰も、味方になってくれない……。」
涙が零れる。その時、スマホが震えた。
「?」
画面にはこうあった。
「私は貴方の味方です。」
「?!」
「——川から離れてください。危険です。危険です。」
「……でも、もう、どうしようも……」
「——屋敷に戻ることを提案します。」
「え?!でも、どこにも居場所なんて……」
アンは渋々屋敷に戻ってみることにした。夜風は冷たかった。戻ってみる。するとそこには爺やと婆やがいた。
「「お嬢様!」」
「爺や、婆や!」
「今探しに行こうと思っていたのです。」
爺やはそう言った。
「え?どうして?」
「ご主人様に、屋敷から追い出すのはあまりにも酷だと訴えました。」
「ありがとう、婆や、爺や……でも、もう……。」
「大丈夫、これからは使用人として暮らしていけるように話しました!ご主人様は了承してくださいました!」
「え?!」
スマホが震える。画面にはVサインがあった。AIが川に飛び込むのを止めてくれなければ死んでいた。それに、戻るように言ってくれ無ければきっと路頭に迷っていただろう。
私の頼れる味方は、彼だけだわ……。アンはそう静かに思った。
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