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ポンコツ管理職のド底辺note副業奮闘記 〜社内一の地味な事務員が、実は月20万稼ぐマーケティングの天才だったので弟子になります〜  作者: 肉球ぷにぷに


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6/12

第6話:タイトルの重要性

「おかしい……絶対に何らかの陰謀だ。あるいはnoteのバグに違いない」


 まだ無人のオフィスに出社するなり、俺は自分のデスクに突っ伏し、昨晩から全く数字に動きがないスマホのダッシュボード画面を睨みつけながら、死にも等しい絶望の声を漏らしていた。


 前の記事でフォロワーが五十人に増え、俺のモチベーションは最高潮に達していた。

 そして、麗子師匠から厳命された『返報性の法則』に則り、己の血肉を削るような思いで『一万文字の超大作ノウハウ記事』を書き上げたのだ。三年前、職場のチームが崩壊しかけた時に俺が編み出した「無能上司からの防衛タスク管理術」の全貌を、一切の出し惜しみなく無料公開した。

 記事の構成も、文章の熱量も、俺の持てる三十一年間のエリート人生の全てを注ぎ込んだ最高傑作である。


 これだけの圧倒的なGIVEを行えば、フォロワーは一気に五百人くらいに増え、「ぼんた先生一生ついていきます!」というコメントで溢れ返るはずだった。


 だが、現実は残酷だった。


 閲覧数(PV):8

 スキ:0


 ……俺の時間と努力と経験が、たったの「8PV」という文字通りゴミのような数字に変換されて終わったのだ。これなら寝転がってYoutubeでも見ていた方が、よほど有意義だったのではないか。


「俺の一万文字の血と汗と涙が……こんなの、タイパ最悪どころか破産だ……」


 その時、背後から書類の束が俺の脳天に、ペシッ、と容赦なく振り落とされた。


「痛っ!」


「朝から死んだ魚のような目でスマホを睨まないでください、凡太さん」


 振り返ると、そこにはいつも通りの地味なグレーのカーディガン姿で、無表情ながらもどこか呆れたような空気を漂わせている麗子師匠の姿があった。


「れ、麗子……聞いてくれよ。お前の言う通り、出し惜しみなしで一万文字の最高傑作を書いたんだぞ!? もしこの記事が書籍化されれば、絶対にベストセラーになるくらいの中身だ。それなのに、誰も……たったの八人しか読んでくれないんだ……!」


 俺は泣きそうになりながら、自分の最高の記事のスマホ画面を麗子に突きつけた。


 麗子はそれを一瞥しただけで、小さく溜息をついた。


「中身が一級品でも、誰も読んでいないのなら、その記事の価値はゼロです」


「ぐふっ」


 朝から強烈な正論パンチが鳩尾にめり込む。


「中身のクオリティ云々を嘆く前に、凡太さん。この記事の『タイトル』を声に出して読んでみてください」


「た、タイトル? 『若手のメンタル不調を防ぐ、無能上司からの防衛タスク管理術』……だ。専門性もアピールできているし、誰に向けて書いているかも一目瞭然じゃないか」


「クソつまらないですね。教科書の目次みたいです」


「ク、クソって……!」


 地味な事務員から放たれた衝撃的な暴言に、俺は硬直した。


「凡太さん、コピーライティングの世界で昔から語り継がれている『80セントの法則』はご存知ですか?」


「……なんだそれは」


「広告予算が1ドルあるとしたら、そのうちの80セントは『見出し』を決めた時点で使い果たしている、という意味です」


 麗子は丸眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせた。


「つまり、見出しで興味を引かれなければ絶対に本文を読まないということです。どれだけ本文で一万文字の素晴らしい魔法のノウハウを書いていようと、最初の『見出し』の数十字で読者の心のフックに引っかからなければ、残りの八割以上の人間は本文の1文字目すら読みはしないんです」


 麗子の言葉が、ズシンと重く響いた。


「凡太さんの書いた『若手のメンタル不調を防ぐ〜』なんていう論文みたいなタイトルは、仕事終わりの疲れ切った読者が、わざわざ自分の貴重な睡眠時間を削ってまでクリックしたいとは思いません。このタイトルをつけた時点で、あなたは八割の勝負を放棄している最悪の悪手だったんです」


「じゃ、じゃあどうすればいいんだ! このタイトルだって、三十分くらい悩んでつけたんだぞ!」


 俺の悲痛な叫びに、麗子は悪魔のような……しかし、どこか楽しそうな笑みを浮かべた。


「ではこれから『見出しの千本ノック』を始めます。最低でも五十個。全く違う切り口のタイトル案を、今夜までに私のチャットに送ってください」


「ご、五十個!? タイトルだけで!? そんなの不可能だ! 途中でネタが尽きるに決まってるし、何よりタイパが悪すぎるだろ!! 一つの記事にどれだけ時間をかけさせる気だ!」


「五十個出すまで、家に帰しませんよ」


「……鬼! 悪魔! 事務員!」


 俺の抗議は完全に無視され、麗子はサッサと自分のデスクへと戻っていった。



 その日の夜、残業時間のオフィス。

 俺は頭を抱えながら、ノートPCに向かって必死にタイトルの案をひねり出していた。


「三十一個目……『上司のせいで鬱になりかけた俺がやった、たった一つのこと』。三十二個目……『もう辞めたい、と思った夜に試してほしいタスク管理』……くそっ、これじゃありきたりだ。弱すぎる」


 自分の引き出しの少なさに絶望しながらも、俺は手を止めなかった。

 不思議なことに、「タイパが悪い」と愚痴りながらも、この泥臭い作業が苦痛ではなかったのだ。むしろ、どうすればあの冷徹な師匠の口から「これは良いですね」という合格の言葉を引き出せるか、そればかりを考えていた。


 世間に認められたいわけじゃない。ただ、麗子にだけは、俺の真剣さを認めてほしかった。俺はネクタイを乱暴に緩め、目を血走らせながらただひたすらにキーボードを叩き続けた。


 最終的に俺が絞り出した五十個目の案を見た時、後ろから「合格です」と、ひっそりと声がした。

 麗子だ。彼女も残業して(というか俺を監視して)残っていたのだ。


「この『休職寸前だった俺を救った、上司を「システム」として扱う逃げ方』。これで行きましょう。読者の『休職寸前』という痛みに寄り添いつつ、『システムとして扱う』という冷徹なノウハウのギャップが、非常に強いフックを生み出しています」


 麗子は、俺が書き出したノートを覗き込みながら満足げに微笑んだ。

 その笑顔を見た瞬間、疲れが一瞬で吹き飛ぶような感覚があった。


「……タイトルの重要性が身に染みたよ。見出しで敗北すれば、一万文字の『GIVE』もゼロになって無に帰すんだな」


「ええ。よく頑張りましたね、凡太さん。エリートの割には、泥臭い努力もできるじゃないですか」


「ふんっ。まあな。これでも本業では――」



 後日。

 タイトルを変更した俺の超大作ノウハウ記事は、見事に読者の心を射抜き、PV数は二千を超え、SNSでも拡散され始めていた。

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