序章10:接触 - 学園都市コロニー・ルウム (10) 別れと小さな約束
クレープを食べ終え、レイはアウロラをいくつかのお店に案内した。
ゲームセンターの前を通った時、レイは少し興奮した様子で
「あ、このゲーム面白いんですよ!」
と声を上げたが、アウロラが特に興味を示さなかったので、すぐに別の話題に移した。
二人が並んで歩くうちに、コロニーのネオンサインが昼間とは違う輝きを放ち、夜の帳が下りてきた。
アウロラはふと空を見上げた。
コロニーの人工的な星空は、現実の星空とは違うけれど、それでも時間が過ぎたことを静かに告げている。
「そろそろ、時間です。ミネバ様のところに戻らないと。」
アウロラがそう言うと、レイは少し寂しそうな顔をした。
「そう、ですよね…」
「今日は、ありがとうございました。」
アウロラは、レイに向かって静かに言った。
その表情は、出会った時よりも少し柔らかくなっていた。
「いえいえ、僕の方こそ、色々話せて楽しかったです!」
レイはそう言うと、少し照れくさそうに、でもどこか思い切ったように言った。そして、ポケットから何か小さなものを取り出した。
「あの…これ、学園祭の入場チケットなんです。もし、本当に都合が良かったら、これ、使ってください。」
レイは、少し不安そうにしながら、小さな紙片をアウロラに差し出した。
アウロラは、それを静かに受け取った。
「…ありがとうございます。」
「はい! もし来れるようだったら、嬉しいな。」
レイはそう言って、ハッとした。
「あ、そうだ! 色々話したのに、僕、まだ名前言ってなかった! 僕、レイって言います! レイ・ナーバス。」
アウロラは少し驚いたが、すぐに答えた。
「アウロラです。アウロラ・レヴィア。」
「アウロラさん、ですね! じゃあ、今日はここで。また、もし会えたら!」
レイは、少し照れながらも笑顔で手を振って、人混みの中に消えていった。
アウロラは、レイの背中をしばらく見送っていた。
胸には、初めて感じる、小さな戸惑いと、渡されたチケット、そして今知ったばかりの名前への、ほんの少しの期待感が混じり合った感情が残っていた。
ホテルに戻ったアウロラは、ミネバが部屋で待っているのを見つけた。
「おかえり、アウロラ。」
アウロラは、今日あったことをミネバに報告し始めた。
「今日、街でレイ・ナーバスという少年と出会い、一緒に過ごしました。」
それを聞いたミネバは、目を丸くして、パッと顔を輝かせた。
「まあ! 男の子と!? どんな男の子なの? 学園祭に誘われたの? チケットまでもらっちゃったのね! それは素敵じゃない! レイ・ナーバスくんっていうの? ふふっ、アウロラにも、やっとそういうお年頃になったのね!」
ミネバは、目をキラキラさせて、頬を少し赤らめ、年相応の好奇心と、からかうような可愛らしい表情で言った。
「ですが、ミネバ様の護衛という任がありますし…」
アウロラは、いつものように言ったが、ミネバはそれを軽く制した。
「あらあら、そんなに堅く考えなくてもいいのよ。たまには、そういうのもいいじゃない。それに、アウロラがレイくんとそんな風に知り合えたなんて、なんだか私も嬉しいわ。もちろん、無理強いはしないわ。でも、もし少しでも興味があるなら、行ってみてもいいかもしれないわね。学園祭、私もちょっと興味あるわ!」
ミネバの言葉に、アウロラは少し驚いた。
ミネバは、いつも自分のことを気遣ってくれる。
アウロラは、手の中の小さなチケットを見つめた。
レイ・ナーバス。
その名前が、モノクロだったアウロラの心に、かすかな色を灯したような気がした。
学園祭。
まだどうするか分からないけれど、アウロラの心には、小さな波紋が広がっていた。




