序章9:接触 - 学園都市コロニー・ルウム (9) 二つの世界の交差点
レイの誘いに、アウロラは小さく頷いた。
レイは嬉しそうに微笑むと、
「じゃあ、あっちの店を見てみましょうか」
と、近くのクレープ屋を指さした。
「クレープ、って言うんですか?」
アウロラは、レイが指さしたカラフルな看板を見上げ、少し首を傾げた。
「そうですよ! 色んな種類があって、美味しいんです。食べたことあります?」
レイは、アウロラの反応に興味津々で尋ねた。アウロラは、ゆっくりと首を横に振った。
「…ありません。」
レイは、少し驚いた表情をした。
「そうなんですね! じゃあ、せっかくだから、食べてみませんか? 僕のおすすめ、ありますよ。」
アウロラは、レイの明るさに少し戸惑いながらも、断る理由も見当たらず、おとなしく頷いた。
レイは、アウロラをクレープ屋の列に連れて行き、メニューを見ながら楽しそうに説明を始めた。
「ほら、こっちはいちごがたっぷりで、こっちはチョコバナナ。あ、こっちの抹茶も美味しいらしいですよ。」
アウロラは、レイが指さす色とりどりのクレープの写真を、興味深そうに見つめた。
ネオ・ジオンの施設では、栄養バランスを考慮した味気ない食事がほとんどだった。
こんなにも華やかで、甘そうな食べ物を見たのは初めてだった。
レイが自分の分とアウロラの分を注文し、手渡してくれたクレープを受け取ると、アウロラは少し戸惑った。どうやって食べればいいのか分からない。
レイは、そんなアウロラの様子に気づき、笑いながら教えてくれた。
「こうやって持つんですよ。で、端から少しずつ食べていくんです。」
レイに教えてもらい、アウロラは注意深くクレープを一口食べた。甘くて、色々な味が混ざり合って、それはアウロラにとって初めての味だった。
「…美味しいです。」
アウロラの口から、ぽつりとそんな言葉が出た。
レイは、その言葉がなんだかとても嬉しかった。
クレープを食べながら、二人は並んで歩いた。
レイは、アウロラにルウムのこと、学校のこと、友達のことなどを、楽しそうに話した。
アウロラは、レイの話を静かに聞いていた。
レイの話す世界は、アウロラが知っている世界とは全く違っていた。
争いも、悲しみも、そこにはないような、明るい世界。
時折、レイがアウロラに何か質問をしても、アウロラの返事は短かった。
それでも、レイは気にしなかった。アウロラが時折見せる、ほんの少しの笑顔が、レイには嬉しかった。
二人は、学園都市の夜の賑わいの中を、ゆっくりと歩いた。異なる世界に生きてきた二人が、偶然出会い、短い時間を共に過ごす。
それは、これから始まる物語の、ささやかな序章だった。




