序章8:接触 - 学園都市コロニー・ルウム (8) レイの胸の小さなざわめき
放課後、いつものカフェで友人たちと別れたレイ・ナーバスは、コロニーの賑やかな通りを一人歩いていた。
夕暮れの光がネオンサインに混じり、街は活気に満ちていた。レイは、特に目的があったわけではないけれど、この賑やかな雰囲気が好きだった。
イヤホンから流れる少しアップテンポな音楽に乗りながら、レイは周囲を眺めていた。
楽しそうなカップル、友達と笑い合う学生、美味しそうな匂いを漂わせる屋台。ルウムの日常は、いつもと変わらず平和で、どこか温かい。
その時、レイの視線は、一つの屋台の前で立ち止まっている少女に引きつけられた。
人混みの中で、彼女だけが浮いているように見えた。
飾り気のない服を着て、少し困ったような表情で、屋台のメニューを見上げている。
周りの人が楽しそうに食べ物を買っているのに、彼女は一人、どうしていいか分からない様子だった。
レイは、その少女のことが、なぜか気になった。
見慣れない顔立ちだった。
もしかしたら、遠くから来たばかりで、ルウムのシステムに戸惑っているのかもしれない。
それだけなら、よくあることだ。
けれど、彼女の佇まいには、言葉にできない何かがあった。少しだけ、寂しそうにも見えた。
普段のレイなら、見過ごしていただろう。
人に声をかけるのは、少し勇気がいる。
でも、あの時、レイの胸には、ほんの小さな、けれど無視できないざわめきのようなものが生まれた。
放っておけない、という気持ち。
それは、レイの奥底にある、優しい気持ちの表れだったのかもしれない。
「何か困ってますか?」
少し緊張しながらも、レイは声をかけた。
少女は、驚いたように顔を上げた。大きな瞳が、一瞬、戸惑いの色を帯びた。
レイは、できるだけ親切そうに、そして明るい笑顔で話しかけた。
少女は、たどたどしい口調で、食べ物を買いたいけれど、どうすればいいのか分からないと答えた。レイは、やっぱり、と思った。そして、少しでも彼女の助けになればと、屋台の食べ物を勧めた。
「よかったら、少し一緒に歩きませんか? 他にも色々お店がありますよ。」
レイは、そう誘ってみた。
一人で心細いかもしれないと思った。
それに、少しだけ、彼女のことをもっと知りたいという気持ちも、レイの中に芽生えていた。
少女は少し迷ったようだったが、小さく頷いた。
レイは、心の中で小さく喜んだ。
自分の小さな勇気が、誰かの役に立てた。
そして、この予期せぬ出会いが、これからどんな風に続いていくのか、レイはまだ何も知らなかったけれど、胸の奥には、ほんの少しの期待感が灯っていた。




