第七話:賢者の安寧を脅かす、世界の理
ピザ配達の安全が確保され、零は再び快適なゲーム生活に戻っていた。しかし、平穏は長くは続かなかった。
零の目の前の『全知の窓』に、突如、システム警告が表示された。
【致命的なエラー発生】
対象: アステラ世界全域の「レベルシステム」
現象: 経験値の獲得、ステータスの上昇が停止。生物の成長、寿命の概念に異常発生。
原因: 世界の根源たる『理の楔』の崩壊。
零は眉をひそめた。
「レベルシステム停止?はぁ?何それ、ゲームとして致命的なバグじゃん」
リリアーナが、今度は涙ではなく、恐怖で顔を引きつらせながら魔法陣の部屋に入ってきた。
「零様……!ご報告です!勇者パーティーのレベルが一切上がらなくなりました!病気の治療や作物の生育にも異常が出ています。このままでは、アステラの生命そのものが緩やかに停止してしまいます!」
これまでの魔王軍やダンジョンボスは、零にとって「面倒な雑用」だった。しかし、世界の根本的な「理」が崩壊するという事態は、彼の生活にも間接的だが確実な脅威をもたらす。
「レベルが上がらないってことは、勇者パーティーが育たなくなる。つまり、そのうち俺に『自分で出てきて世界を救え』って要求が来る可能性が高まる。それは最悪だ」
零は重い溜め息をついた。自宅から出ることだけは、絶対に避けなければならない。
「この『理の楔』とかいうヤツは、どこにあるんだ」
零は『全知の窓』でアステラ世界の地脈をスキャンした。異常の原因となっているのは、世界の創造主が残したとされる、アステラ世界の法則を司る巨大なエネルギー体だった。それは、かつて魔王が封印された場所、「時空の狭間」の中に存在していた。
「時空の狭間か。面倒くさい場所だな。直接干渉しようとすると、次元の壁が厚すぎて俺の魔力じゃ弾かれる」
これまでの零のチートは、あくまで「アステラ世界内」の物質やエネルギーを操作することに特化していた。世界の外側にある『理』そのものには、強力な物理的な接触が必要だった。
「どうする……?誰かをそこへ送るには、次元の狭間を通るための特殊な装備が必要だ。錬成するにも素材が足りない」
零は、これまでのように適当なアイテムを転送するだけでは解決できない、真の壁に直面した。初めて、彼の顔から余裕が消えた。
彼の視線が、部屋の隅にある放置された段ボール箱に向けられた。中には、引っ越しの際に購入したが、組み立てが面倒でそのままにされているIKEAの家具一式が入っている。
零の脳裏に一つのアイデアが閃いた。
「よし。俺は行かない。絶対に。だが、俺の分身なら行かせられる」
零は、IKEAの段ボール箱を『自動錬成』の対象に指定した。
「錬成開始。世界の理を修復するための、次元突破型、自律思考式『賢者代理機』を生成する。素材は、アステラの最高級マナ結晶と、この組み立て前の家具一式だ」
光が収束し、段ボール箱の中身が組み合わさって出現したのは、零にそっくりな、しかし全身が銀色の装甲に覆われ、背中には巨大なブースターを搭載した、ヒューマノイド型の自律ロボットだった。
ロボットの瞳が起動し、零と全く同じ、面倒くさそうな声を発した。
「了解しました、マスター。自宅の安寧を脅かす『理の楔』を修復するため、時空の狭間へ向かいます。ただし、組み立ては非常に面倒だったので、分解されたら修理はしません」
零は満足げに頷いた。
「それでいい。行ってこい。頼むぞ、もう一人の俺。このミッションの報酬は、ピザのトッピング全乗せ権だ」
賢者代理機は、零の家の天井を突き破り、轟音と共に時空の狭間へと飛び立った。零は、天井の修理費用をため息交じりに計算しながら、代理機が『理の楔』を修復する様子を『全知の窓』で見守り始めた。
いかがでしたでしょうか。今回は、零にとって最も避けたい「世界の法則の崩壊」という、シリアスな危機に直面しました。
そして、その解決策がIKEAの組み立て前の家具を素材にした自律型ロボット!「自分で動きたくない」という原則を徹底するために、自分の分身を創り出すという、究極の引きこもり合理主義が炸裂しました。
ロボットのセリフが「組み立てが面倒だった」と文句を言うあたりに、零の魂が宿っていることが伺えます。
次回は、この「賢者代理機」が、シリアスな『時空の狭間』で、どんなユーモラスな行動で世界の理を修復するのか、ぜひご期待ください!
読んでいただき、誠にありがとうございます。




