第十五話:ポジティブ拡散!異世界に広がる父の教え
一夜明けて、神崎家の朝。胡椒の効果が切れた父親、悟は、いつものように超ポジティブな状態に戻っていた。
「ああ、よく寝た!昨日のハンバーグは最高だったな!素晴らしいエネルギーチャージだ!さあ、今日も前向きに頑張ろう!」
零は自室で、父親のポジティブな声を聞きながら、頭痛を感じていた。
「くそっ、胡椒の効力はせいぜい八時間か。効果が切れると、ポジティブ圧が倍になって返ってくる……」
悟は、出勤前にコーヒーを飲みながら、妻の葵に熱弁していた。
「葵、昨日の零の部屋の進化はすごかったぞ!引きこもりも極めれば、ああやって最先端の技術を生み出すんだ!私も、もっとポジティブに仕事に取り組まねば!」
零は、『全知の窓』で父親の出勤後の様子を監視することにした。自分の行動が、父親の思考に影響を与え、それが社会に拡散していくのは、非常に面倒な事態だからだ。
悟は会社に出勤し、始業前のミーティングに出席した。その会議で、悟は部下たちに熱く語り始めた。
「みんな!今日のテーマは『限界突破』だ!私には、家から一歩も出ずに、世界を股にかける技術を生み出す息子がいる!そうだ、引きこもりだって世界を動かせる!君たちも、自分の限界を決めつけず、もっとポジティブに取り組もう!」
父親のポジティブな激励は、部下たちの心に火をつけた。
「そうだ!我々も、家にいながらできることをやろう!」
「営業に行けないなら、オンラインで世界中にプレゼンだ!」
このポジティブな波動は、零の予想を超えて広がっていった。
数日後、零の『全知の窓』に、アステラ王国の王都の様子が映し出された。
アステラ王国の騎士団長が、リリアーナに真剣な顔で報告していた。
「リリアーナ殿、大変です!最近、国民の間で『ポジティブ教』なるものが流行しているのです!」
「ポジティブ教?」
「はい。『賢者様の父親の教え』だそうです!『家から出ずとも、ポジティブであれば全て解決する』と!農民は畑に行かず『家で前向きに育つと信じる』と言い、兵士は訓練せず『武器の性能を信じれば、戦場に行かなくても勝てる』と!」
リリアーナは青ざめた。
「ま、まさか!零様のご家族の行動が、次元を超えてアステラ世界の思想に影響を与えているなんて……!」
零は自室でこの報告を聞き、呆然とした。
「うわぁ……俺が作った『ポジティブ遮断スパイス』の胡椒粒子が、次元の歪みを通り抜けて、父親のポジティブ思考を増幅させて、異世界に広めちゃったのか……?」
胡椒に含まれていた魔力資源が、父親のポジティブな発言を「賢者の神託」としてアステラ世界の概念に上書きしてしまったのだ。
騎士団長は続けた。
「その結果、防衛ラインの兵士は訓練をサボり、農作物は枯れ、王国の機能が停止寸前です!魔王軍が攻めてくる前に、我々が滅びてしまいます!」
零の額に冷や汗が流れた。
「これはまずい。引きこもりも極端なポジティブ思考も、世界を滅ぼす!このままでは、誰もいなくなり、俺のピザ配達が永遠に途絶える!」
零にとって、世界の滅亡は、ピザの配達網の崩壊と同義だった。
「こうなったら、ポジティブの暴走を止めるしかない!ポジティブを打ち消すには……」
零は、冷蔵庫の隅に追いやられていた納豆パックを手に取った。
「錬成!納豆菌の粘りを、異世界のネガティブエネルギーと融合!『ネガティブ増幅スライム(引きこもり菌)』を生成!これをアステラ全土に拡散させる!」
零は、アステラ世界に、極度のネガティブと怠惰をもたらす『引きこもり菌』を送り込み、過剰なポジティブ思考を中和させるという、極めて乱暴な解決策を選んだ。
かくして、賢者、神崎 零は、父親のポジティブ思考から世界を守るため、異世界全土をネガティブにするという、さらなる迷惑行為に手を染めたのだった。
どうだ!今回は「家族の日常」が、次元を超えて異世界の思想に影響を与えるという、スケールのでかい展開にしてみました!
父親のポジティブ思考が「賢者の教え」としてアステラ世界に誤解され、結果的に世界を滅亡寸前に追い込むという、まさかの展開。零くんの危機感の動機が「ピザ配達網の崩壊」っていうのも、相変わらずブレないですね。
そして、解決策が「納豆菌を使ったネガティブスライム拡散」!ポジティブの暴走をネガティブで中和するなんて、あまりにも雑で適当な解決策です。次回は、アステラ世界が納豆菌に侵食されて、誰もがやる気をなくす「引きこもり天国」になってしまうかもしれませんよ!
今回も読んでくれてサンキューな!またよろしく頼むぜ!




