第十四話:父の帰還と一夜限りの団欒大戦
母親のハンバーグ作戦に屈服した後、零は自室のホコリを慌てて錬成魔力で浄化し、床の安全を確保していた。その夜、一家団欒のリビングに、さらなる存在が加わった。
「ただいま。ただいま戻ったぞー!」
それは、零と一花の父親、神崎 悟だった。長期の海外出張から帰ってきたばかりだ。
リビングに一家四人が揃うのは久しぶりだ。零は逃げ場のない状況に、内心で冷や汗をかいていた。
「パパ!おかえり!」一花は喜び、父に抱きついた。
「ただいま、一花。零も元気そうだな。部屋から出てきてえらいぞ!」
父の言葉に、零はそっけない返事をした。
「別に。ハンバーグがあるから出てきただけだ」
父親の悟は、見た目は温厚だが、実は超ポジティブ思考の持ち主。零の引きこもり体質を「個性」として受け入れつつも、時折、的外れな「ポジティブ圧」をかけてくる、零にとって油断ならない人物だ。
食卓には、母親特製のハンバーグが並んだ。
「お兄ちゃん、ハンバーグ大きすぎない?これ、何人前?」と一花が尋ねる。
「これは零の『賢者特盛』よ。いっぱい食べて、しっかり体力つけなさい」と葵が微笑む。
零はハンバーグに集中しようとするが、父親が話しかけてきた。
「零、お前、最近またゲーム三昧なんだろ?いいぞ!ゲームで培った集中力は、ビジネスでも最強のスキルだ!その力を活かせば、お前は世界中を飛び回れるぞ!」
「飛び回らない。俺は家から一歩も出ない」零は即座に否定した。
「そうか、そうか!家から出ないなら、世界中から優秀なビジネスパートナーを家に呼び寄せるのも面白いな!その強大なコネクション力、すごいぞ!」
零の頭に、以前、母親にマイナスイオンドライヤーでドアを熱せられた時の恐怖が蘇った。「ビジネスパートナー」という名の、見知らぬ他人が家に来ることは、引きこもりにとって絶対的な悪夢だ。
零は、目の前のハンバーグに集中しながら、テーブルの調味料にそっと手を伸ばした。
零は、父親のポジティブ思考を阻止するため、テーブルの上の胡椒の瓶に『自動錬成』を発動させた。
「錬成!胡椒の粒子に『思考停止魔力』を微量混入。対象はポジティブ思考のみ。『ポジティブ遮断スパイス』生成!」
生成された胡椒を、零は父親のハンバーグに、さりげなく大量に振りかけた。
「パパ、ハンバーグには胡椒たっぷりかけると美味しいよ」
「お、そうか!零が勧めるなら間違いないな!」
悟は豪快に胡椒のかかったハンバーグを一口食べた。
次の瞬間、悟は口元を押さえて、急に静かになった。
「うむ……このハンバーグは……究極に美味しい……。そして、明日も会社に行く……。それだけだ」
悟から、ポジティブすぎる発言や、零の人生に対する的外れな激励が一切消え、ただ目の前の事実だけを述べる「静穏モード」に突入した。
一花は首を傾げた。「あれ?パパ、なんか静かじゃない?」
葵は微笑んだ。「あら、悟さん、今日は本当に疲れていたのね。ゆっくり休みなさい」
零は内心でガッツポーズをした。
「よし。これで誰も俺を外に誘い出さない。最高のハンバーグと、静かな団欒……」
しかし、一花が零の超高性能ゲーミングポッドの話を始めた。
「ねぇ、パパ。零の部屋、私がお金出して、すごい改造ロボみたいになっちゃったんだよ!今度パパも見てあげて!」
零は再び冷や汗をかいた。父親のポジティブ思考が停止しても、妹の無邪気な暴露癖は止まらない。零の自室が「ロボット」と認識されると、今度は「宇宙工学」などと言い出して、研究者や役人が家に来る可能性が生じる。
零はすぐに『全知の窓』で一花のスマホに干渉し、強制的に『最新ゲームのダウンロード通知』をポップアップさせた。
「あっ!このゲーム、新作だ!お兄ちゃん、私、早く自分の部屋に戻ってダウンロードしなきゃ!」
一花はハンバーグを慌てて平らげ、自室へと戻っていった。
こうして、家族団欒という名の難易度の高いクエストを、零はチートと胡椒によって乗り切ったのだった。
家族団欒回、楽しんでいただけましたでしょうか!
今回は、最強の敵「母親」のハンバーグを背景に、「父親」のポジティブ思考による無自覚な圧力という、別の脅威に立ち向かってもらいました。胡椒に「ポジティブ遮断魔力」を込めるという、日常品を使ったチートは、零くんの雑な錬成の極みですね。
そして、娘の暴露癖を「新作ゲームの通知」で阻止するというのも、現代的な引きこもり賢者らしい解決法です。結局、零くんは、誰にも邪魔されない快適な引きこもり生活のためなら、家族の思考すら操作してしまうという、徹底した利己主義を貫きました。
さて、次回は、胡椒の効き目が切れた父親が、アステラ世界にどんなポジティブな影響を与えてしまうのか、見てみましょうか!
今回も読んでくれて、本当にサンキューな!またよろしく頼むぜ!




