1-06
春の終わり、夏の訪れと共にそれはやってくる。
『悠さん、虎さん、お誕生日おめでとう御座います。』
芳野と昔から親交のある紅林家主催のパーティーは、毎年夏の終わりに開催された。
名目は会社の取引先との交流会。
そして紅林家の息子である紅林悠と虎の誕生日パーティーも兼ねていた。
二人は四つ年齢が離れているが、奇跡的に誕生日が同じ日だった。
「毎年毎年良くやるなぁ、」
「金が有り余ってるんだろ。」
大々的に行われる誕生日会には、那智と新太も呼ばれていた。
「ねぇ那智、おじ様ばっかでつまんない。」
「仕方がねぇよ。芸能界と違って会社の人間なんてこんなもんだって。」
佐奈の誘いで初めて参加した凛子は、若者の少ないパーティーに少々気を落としていた。
綺麗なものが何よりも大好きな凛子らしい感想だ。
やはりと言うべきか、モデルである凛子は嫌でも目立つ。
高校生だと知らない周りの大人達はいつ声を掛けようと瞳孔を開いていた。
『ロリコンが。』
高校生には見えない美貌を振り撒きつつ、内心舌を出す。
凛子は那智の腕に腕を絡ませて恋人らしく振る舞った。
そして絶対に声をかけられないよう那智の腕に自身の胸を押し当てた。
「凛子、佐奈はどこ行ったんだ。今日一緒に来たんだろ?」
密かにおじ様達への抵抗をしていれば新太に聞かれた。
凛子より3㎝低い身長がヒールのお陰でもっと差がついている。
新太は特別綺麗ではないが言うほど嫌いではなく、だからと言って好きでもなかった。
「お父様と挨拶周りだって。」
それを聞いた新太は主役をそっちのけで佐奈と父親を探し出した。
「お久しぶりです。征志おじさん。」
「悠君。大学はどうだい、順調かい。」
「はい!もう二年目ですから慣れてきました。友達や良い教授にも恵まれて、毎日楽しいです。」
そう言って悠は笑った。
隣には弟の虎と紅林の父も居る。
「それよりも佐奈ちゃん、また随分と綺麗になりましたね。」
悠は佐奈に目をやる。
化粧を以前より覚え、髪も染まった佐奈は垢抜けて綺麗になっていた。
悠が微笑むと佐奈は照れて俯く。
虎もイケメンではあるが、悠の180を超える長身と男らしい端整な顔立ち、それを縁取る黒い髪は虎とは違った大人の色気を放っていた。
「悠君は年々男前になっていくね。」
「そうですかね…?いつかは征志おじさんみたいに、渋くてカッコいい大人な男性になりたいです!」
「ハハッ!嬉しいことを言ってくれるね!」
そう言って軽やかに笑い合う。
「しかし悠の言う通り、佐奈さんは本当にお綺麗になっていく。…どうでしょう。是非うちの息子達の嫁に来てくれませんかね?」
紅林の父は笑って話した。
それを聞いた虎は少しムッとする。
『好き勝手に言うなよ。』
父が自分達のどちらかを佐奈の相手にと、真面目に考えていることを知っている。
佐奈の事を嫌いではないが、人に言われて良い気はしない。
「私としても君達が息子になるなら大歓迎だ。」
「パパったら~…もう、気が早いよ…。」
顔を赤らめ恥ずかしそうに佐奈が言う。
その目線の先はずっと悠へ一直線で、チラチラと潤んだ瞳で見ては恥ずかしそうに逸らしていた。
つまり満更でもないらしい。
「そうですよ。父さんも征志さんも気が早いなぁ。」
困ったように笑う悠を横目に虎はコッソリ溜め息を吐いた。
毎年の事ながら拷問を受けているようだ。
早くこの場を離れたい。
そして何よりもこの兄だ。
社交の場では大人しい対応だが、裏では派手な生活を送っているのを知っている。
具体的にどう遊んでいるかは知らないが、よく友人達と遅くまで出掛けて、帰ってこない日も多かった。
そんな人間が良くもまぁ出来た人間だと評されたものだと内心悪態を吐いた。
あれから佐奈の視線に堪えれなくなった悠は、仕方がないと声をかけた。
「佐奈ちゃん。もしかして場酔いしちゃったかな?少し顔色が…」
「そうなのか佐奈?」
父に聞かれた佐奈は「少しだけ…」と困ったように笑った。
「少し部屋を出ましょうか。父さん、後の挨拶周りは虎とお願いします。」
悠は佐奈をエスコートし、人にぶつからないように気を使いながら部屋を出た。
「顔色…悪かったですか?」
「…良いや。逆に良かったぐらいだな。ずっと真っ赤だった。」
悠は苦笑いで自身に宛がわれている部屋へ向かった。
とりあえず話だけでも聞こう。
「佐奈ちゃんは虎と付き合ってるのかな?」
「え?いえ、虎とはただの幼なじみで…でも、虎は私の事好きだったみたい、今は知らないけど、」
佐奈は困ったように笑った。
「そう、それなら虎に付いて来て貰えば良かったかな。気がつかなくてごめん。」
「いえ…むしろ私は悠さんとずっとお話したかったから…今こうして話せて嬉しい。」
部屋へ着いた早々に、佐奈は悠に抱きついた。
そんな佐奈を少し引き離し、「積極的だね。」と話しかけながら悠は顔を覗き込んだ。
佐奈は羞恥心で頬を赤く染め、恥ずかしそうに俯いた。
ドキドキと心臓の音が止まらない。
「俺のこと好き?」
綺麗に巻かれた茶色い髪を弄りながら耳元で低く囁けば「好きです」と言う可愛い声。
誘導するような甘く優しい音色の問い掛けに、佐奈は今までになく興奮した。
悠は佐奈の言葉に笑みを浮かべ、その身を離した。
「悠さん…?」
"その気"になっている佐奈が、可愛い声を更に甘くさせて自分の名を呼ぶ。
ついつい頭を撫でれば、嬉しそうに佐奈が笑った。
『可愛いなぁ…』
悠の佐奈への感情は子供に向けるソレと同じだった。
可愛いとは思うが、女性としての魅力は感じない。
好奇心で踏み込んだ質問をしてしまったが、そもそも相手は大事な取引先の娘。
どうしたものか…とまったり考えていると、佐奈が悠の脚の際どい部分に手を置き始めた。
「えーっと、佐奈ちゃん?」
「今、辞めようとしたでしょ…分かってる。佐奈、子供だもん。でもね、悠さんとエッチしたいなぁ…?ダメ、だったら…佐奈がするよ?」
泣きそうな…甘い声で言い、潤んだ目で悠を下から見上げながら佐奈はしゃがみ込んだ。
「いや、待って待って!飛躍しすぎじゃない!?」
「悠さんのを、ご奉仕するの。」
「いや、立って!お願いだから!」
悠は大きく後ろに距離を取ってから、もう一度近づいて佐奈に手を差し伸べた。
一体、今時の高校生の倫理観はどうなっているんだと、純粋に慕ってくれてる年下の女の子という印象が疑惑の目に変わった。
「え…どうして?」
「えっと、佐奈ちゃんは取引先のご令嬢だから。」
「でも、お見合いするかもしれないでしょ?」
これは何を言っても"当たり"が出ると気付き、不用意に近づいてしまったことを後悔した。
「佐奈ちゃん…自分の身体を大事にして!」
「でも、私が良いって言ってるんだから良いじゃない?」
「いや、ちょっと…あまり俺のこと困らせないで…。」
正直に妹のようにしか見れないとも言えず、悠は分かりやすくため息を吐いて困った顔をしてみた。
すると佐奈は考えるように無言になり、やがて「困らせてごめんなさい。」と呟いた。
「好きって思ってくれてるのは嬉しいけどね。」
「だったら…」
「簡単に身体を差し出すのは辞めた方が良いよ。」
「…もう良いです。サヨウナラ。」
「待って、どこ行くの?」
「お手洗い!」
佐奈は明らかに不機嫌なのを隠さずに部屋を出て行った。
そういう所が子供に見えるんだよなぁ…と溜息を吐いて、悠も部屋を出ることにした。