2-16
卒業式の数日前になっても日奈の未来は決まっていなかった。
進学の道は絶たれ、就職先も未定である。
征志や夏目の伝手で働くことも出来るが、日奈は卒業してから決めれば良いと楽観的に考えていた。
「芳野さんの親って結構ユルい系~?それとも金持ち特有のやつ~?」
「…私が甘いだけ。」
「意外だねぇ。割と真面目そうなのにー。」
この半年間、謙二郎は気が向いた時にだけ図書室へ出向いていた。
そして日奈と話す度に就職の話題を出したが、最後の最後まで進展は見られなかった。
そもそも日奈にやる気がないのは明白で、那智のように口うるさくしても意味はないだろうと謙二郎は結論づけていた。
「金欲しいなぁ…俺何にもないわぁ。」
「でも、真野君は沢山の事に興味があって凄いよ。」
「そう?普通だと思うけど。」
謙二郎は日奈に会うと、最近起こった出来事や興味を持ったものを必ず報告していた。
そんな自分にはない感性を、日奈は陰ながら感心していたのだ。
「私には何もないのに…。友達になってくれてありがとう。」
「……。」
「普通に、話し掛けてくれてありがとう。」
日奈の、今にも消えそうな透き通った声は、謙二郎の心をくすぐった。
穏やかで優しい声が染み渡るようにジワジワと広がっていく。
「真野君、元気でね。」
「……、」
何か返事をする前に日奈が立ち去っていった。
卒業式まで後僅か。
例え数日を残していたとしても、もう彼女と話すことはないのだと悟った。
謙二郎は俯いて何故か憂鬱な気持ちになる。
あの暖かな気持ちはなんだろう。
たった一瞬…今は消えてなくなったあの感情は何だったのかと、切ない気持ちになった。
「何もない…。」
謙二郎は日奈の生態を最後に分析した。
本人が何もないと語ったように、確かに日奈には何もない。
でもそれ以上に何か特別な何があったように思えた。
「何もないけど…不思議で面白い子。」
謙二郎は日奈への感情を、そんな解釈で終わらせる事にした。
何もないと語る彼女の奥…目には見えない深い何かを、どうしても優しい言葉で表したかった。
端から見れば寂しく思える部分を補うように。
日奈は決して寂しい子じゃないと謙二郎は思いたかった。
冷たい布団に身を投げる。
そして真っ白な天井を見上げ、そこに居る誰かに日奈は話し掛けた。
「もう居ないけれど…今でもここに居る。」
日奈にしか分からない証明を、呟くように優しく語る。
その透き通った声は、何もない白い部屋へ吸い込まれていった。
息を吐いて目を瞑り、そこには居ない誰かにソッと優しいキスをする。
目を開けるとそこは真っ白な世界。
ベッタリ塗られただけの殺風景な世界があった。
「愛してる。」
その冷たい光景に日奈は愛の証を見た。




