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White hole〜少女が大人になるまでの話〜  作者: おゆわり
1.深く無感の青春時代【white heart】
17/38

1-17

凛子から昼ご飯を一緒に採れないと連絡を受け、佐奈は暗い顔をした。


「凛子も来ないって…、」

「あんま気にすんなよ。」


虎は頭を撫でる。


それでも佐奈の不安は消えなかった。


「私…新太と那智なんて嫌い。大嫌い。凛子かって…」

「…無理すんなよ。」


佐奈は確かに無理をしていた。


自分の思い通りに動かなかった上、自分を無視し始めた新太に恐怖心を抱いていたのだ。


それは那智に対してもそうで、遂に凛子まで離れていくのではないかと悪い想像ばかりしてしまう。


彼らが自分を嫌いだと思って苦しむくらいなら、自分が彼らを嫌いだと口にしてしまう方がいっそのこと楽だった。


「嫌いじゃないだろ。」

「っ…。」


そんな強がりも虎には通用しない。


嫌いなんて口から出任せ…嘘に決まっている。


「本当はこわい、だって可笑しいよ…凛子が…、」


言いたい事は沢山あったが、佐奈はそれ以上言葉にしなかった。


凛子に対する負の感情を知られるのは自分自身のプライドが許さない。


確かに凛子は名前の通り凛としていて美しい。


それは佐奈も認めているが、認めているからこそ羨ましくて、同世代の女の子として自分の方が勝っていると思いたい部分もあった。


「大丈夫、俺が居るから。」


こんな風に虎はいつだって側にいてくれた。


なのに佐奈の心には響かない。


何も感じなかった。


「なんで…?虎が、虎が離れていかない保証なんてないよ…そんなのない、」

「あのな…俺は佐奈が好きなんだ。それに凛子はタイプじゃない。」

「じゃあ、私と似た子が現れたらどうするの?虎はきっと私なんて捨ててどっか行っちゃうんだよ。」

「なぁ…どんな言葉が欲しいわけ?どうすれば俺を信用する?」


疑い深く聞いてくる佐奈に虎は苦しい顔をした。


幼い頃から守りたくなるくらい強がりて弱虫な佐奈を知っている。


だからこそ佐奈の抱える何かを剥いでやりたかった。


「わからない…。私はきっと、誰も信用出来ないから…。」

「そんな悲しい事言うなよ。」

「、そうだね。虎のこと…信じるよ。」


佐奈は控えめに笑ってみせた。


そして思う。


信用出来ないと。


それは誰よりも信用しているからこそ、失う事を恐れている証拠だった。



那智が久々に学校を訪れたのは金曜日の二限目だった。


「髪の毛切っても不気味だな。」

「……。」

「聞いてんのかブス。」

「おはよう。久し振りだね。」


最早恒例の日奈への罵倒をスルーしていたが、どこか覇気のない那智に挨拶を返した。


那智は驚きつつ日奈の前の席に座る。


二人のクラスには不登校者が一名とサボり魔が複数名、保健室登校が二名存在し、日奈の周りにその生徒達の席が配置されていた。


なので那智が日奈の目の前を陣取っても何ら問題は無い。


「また読書な。馬鹿の癖に。」

「……席、行かないの。」

「別に。俺がどこに座ろうがお前には関係ねぇし。」

「……。」


答えになっているようでなっていない。


日奈は考える事を止めて本に視線を戻した。


「藍原久し振りー。てーかまた来て早々苛めてんのー?ホント芳野ちゃん好きだねぇ。」


笑いながら横槍を入れてくる生徒、彼は真野謙二郎と言った。


そんな彼に続いて便乗してきた他数名もニヤニヤと笑っている。


那智はとてつもなく嫌な気分になって、露骨に不機嫌な態度をとった。


「別に。俺のストレス発散の邪魔すんな。」

「ハハ、わりぃわりぃ。」


那智の冷たい視線には気付かず、謙二郎達は自然と離れていった。


「どうよ最近。…アイツ元気か。」


しばらくすると那智は片手で頬杖をつきながら小声で聞いた。


今までの流れで必然的にアイツが佐奈を指していることを理解する。


「わたしには少し元気がないように見える。那智君、喧嘩したの?」

「……。」

「もし言いたい事があるなら、正直な気持ちを話して安心させてあげて。」


日奈が何も事情を知らないと思っている那智はいつも以上に不機嫌となる。


知ったように言われるのは気分が悪かった。


「俺が何言いたいのか知らないだろ。俺の言葉で佐奈が安心出来る保証はないぞ。」

「それでも…分からないものに怯えるより、分かって傷付いた方が安心出来るんじゃないかな。」


どう言うことだろうかと出掛けた言葉を飲み込む。


それはつまり、喧嘩を長引かせて不安にさせるぐらいなら、傷つけてでも話し合った方が納得出来るという訳だ。


「チッ……、」


那智は突きつけられた正論に苛立ち、わざとらしく日奈の机を後ろに押すと、前を向いて眠る体制に入った。



「なーち。久し振り。」

「…おー。」


放課後、那智は凛子に捕まった。


運が良ければ誰とも会わずに帰ろうとしていた那智は、罰が悪そうに目を逸らした。


「元気?」

「…ふつー。」

「でも、最近どうしてたの?学校来てなかったみたいだし。」

「別に意味ないけど。」


何も聞くなというオーラを出す。


それでも凛子は気にせず会話を続けた。


「本当に?何かあったんじゃないの?」

「何か、ねぇ…。」

「…那智も、本当は何かあったんでしょ?私で良ければ話聞くよ?」


那智は腕を組んで床を見た。


話すつもりのない相手に干渉される事が不愉快で、暴言を吐きそうになる。


嫌悪感たっぷりなオーラを出しても話を聞き出そうとしてくる凛子に苛立った。


「話すことはなんもない。」

「でも、皆最近可笑しいよ。私だけ仲間外れみたいで寂しい…。」


触れて欲しくないと顔に書いてあるのは凛子も分かっていた。


それでも動く口が止められない。


この理性が効かないのはある意味凛子の癖だった。


「何でも話すのが友達なのか?」

「そうじゃないけど…」

「友達だから話さなきゃいけないなんて決まりないだろ?そう言う束縛みたいなやつ嫌いなんだけど。」

「…でも、」

「話したくない。」


冷たい口調に凛子はハッとした。


踏み込み過ぎた事に気付いた時には既に遅く、那智は苛々しながら凛子の横を通り過ぎていた。


「那智っ…ごめんね、」

「……。」


追いかけて謝っても返事はない。


あまりの早足に凛子は立ち止まった。


「ごめんなさい…。」


那智の後ろ姿に謝りながら後悔の念に苛まれる。


結局、話を聞きたかったのは自分が満足したいが為だった。


自分の好奇心の為に…安心の為に、那智を怒らせてしまった。


凛子は急に那智という存在が怖くなって、もう二度と話す事はないのかもしれないと漠然と思った。


以前より那智とは性格が合わないと感じる節があったため、今回の事で那智への苦手意識が更に強まった気がした。



「なぁ。」


日奈の目の前に頬杖をつく那智。


何の気紛れか、休みが空けてからもう2日ほど日奈の目の前を占領している。


「お前学校楽しいか。」

「…普通だよ。」

「ダチ居ないのによく平気で居られるな。やっぱ馬鹿か。」

「……。」


那智はそう言いながら自分の発言に呆れていた。


『俺も大概バカだ。』


那智がこうして日奈に構うのには理由があった。


クラス替えをしてからというもの、那智が一人なのを良いことに周りに人が集まってきた。


元々愛され体質な那智と仲良くしたい人は多く、自然と人が寄ってくる。


初めこそそれなりに高いテンションを取り繕って過ごしては居たものの、作りものが続くはずがなかった。


それを幼馴染み組と揉めて何かを諦めてから拍車がかかったように人と関わる事に疲れてしまっていた。


それでいて日奈と関わるのは、一言でいうと害がないからだ。


自分に興味を持たず、適度に相手をしてくれる日奈が今の那智には必要だった。


「佐奈と家で話すか。」

「たまに。」

「本当かよ…。どんなこと話すんだ?」

「佐奈ちゃんの好きなこととか。」

「へぇ。」


那智は疑い深く日奈を見る。


佐奈と日奈が会話を交わしている光景が全く想像出来ない。


しかし、日奈の発言は事実だった。


日奈から話しかける事があれば佐奈から話しかける事もある。


とは言え、佐奈の話のほとんどは自慢話が大半をしめているが。


日奈が佐奈の恋愛事情を知っているのはその為で、那智との関係もそれなりに知っていた。


「まだ仲直りしてないの?」

「……うるせぇ。つーか喧嘩してないし。」

「そっか…。でもね、佐奈ちゃんは那智君を好きだから、普通に話し掛ければ大丈夫だよ。」

「…何だそれ。アイツが俺を好きだって感じた事ないけど。」


適当に言うなと那智は思った。


好いていてくれたならここまで揉めていない。


「好きだよ。だから傷付いてる。」

「お前は知らないかもしれねぇけどな、アイツは誰にでも股開くような奴なんだ。」

「…それでも、那智君は特別だから。」

「どうだか…つーか反応薄。」


佐奈の性癖を話せば驚くと思っていた那智は、日奈の反応の薄さにつまらなさそうな顔をした。

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