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一日目

鳥の鳴き声、気持ちのいい風、ふかふかの布団。目を開けると豪華な天井が視界の全てを覆った。


(そういえば、昨日突然ここに来ちゃったんだよなあ)


体を起こすと小さな子供でも分かるぐらいの高そうな机やソファがあり、窓から空を見れば雲一つない綺麗な青空が広がっていた。だが、今の華にとってその綺麗な青も憎らしくて仕方がない。それもそのはず、花嫁にすると勝手に連れてこられ、知らない土地、知らない人、知らない国で過ごさなければならないのだ。不安に思うのも無理はない。これからどうするかを考えていれば、部屋の扉がコンコンとノックされた。


「はい」

「ハナ様、起床のお時間でございます」


扉を開けて部屋に入ってきたのは、メイド服を着て茶髪の三つ編みをした女性だった。


「本日より、ハナ様の身の回りのお世話を致します。アナスタシアと申します。早速ですが、お顔を洗ってお着替えを致しましょう」


華の頭の中は大混乱。今まで世話係なんていた事もなければ、名前に『様』を付けられることもなかった。そうこうしているうちにあっという間に髪の毛とメイクまで終わってしまった。


「あの、アナスタシアさん」

「はい、いかがいたしましたか?」

「これから何をするんですか?」

「ハナ様の本日のご予定は、午前は座学で、午後はアレン王子とのお茶会でございます。」


アナスタシアはニコニコと可愛らしい顔で答える。座学、これは花嫁になるために勉強しろということだろう。一番問題なのは王子とのお茶会であった。あのドヤ顔のウザい王子と話すなんて、ストレスが溜まって発狂してしまうかもしれない。もしかしたら、イラつきすぎて殴ってしまうかも。いや、既に王様を殴っているからこれに関しては問題ないだろう。華が早く考えなければいけないこと、それは


(いつ逃げ出そう)

「初めの座学はこの王国についての簡単な知識ですので私がお教えいたします!そんなに険しい顔をしなくても大丈夫ですよ。6歳ぐらいの子供でも知っていることなのでハナ様ならすぐに覚えられます!さあ、お部屋を移動しましょう」

(勉強が嫌なんじゃなくて、王子と会うのが嫌なんです!)





「・・・・そして、こちらが図書館となっております。この図書館は王族のみの使用可能となっておりますので、華様もぜひご利用くださいね!」

「いや、まだ王族じゃないんですけど」

「こちらの窓から見える訓練場では騎士の方達や王子様もいらっしゃるので、いつでも王子様の姿を見ることが出来ますよ!」

(あれ?この人も話聞かないの?)


色々と話しているうちに大きな扉が見えてきてしまった。部屋に入る前になんとか逃げ出さなければ、座学が終わったあとそのまま引っ張られてお茶会に行かないといけなくなるだろう。アナスタシアが話に夢中になっている間にどこか身を隠せるところを探す。左を見ると窓が開いていた。華は窓の縁に脚をかけた。危険な行為だとしてもやるしかない。幸い、窓のすぐ側に大きな木があるからその木をつたって降りればいい。華は覚悟を決め、木へ飛び移りアナスタシアが気づく前に地面に降りようとした。だが、足を滑らせ体の重心が後ろへ傾いてしまう。


(あ、やべ──────)


痛みを覚悟したとき、ふわっと誰かに抱きかかえられた。目を開け、上を見ると金髪で青い瞳の整った顔をした少年がいた。お礼を言おうと口を開けた瞬間


「全く、俺の花嫁はどれだけお転婆なんだろうな?」


彼はそう言って華の小さく可愛い唇を奪った。


バキィッ──────

「はあ?」


王子は華麗に吹っ飛び、華はその場に落ちてしまった。そして上の窓から


「ハナ様〜〜〜〜、もう!勝手に居なくなられては困りm、!アレン様!?」





アレン王子が気を失って治療を受けている間、華はアナスタシアから自身の部屋で説教を受けていた。


「もう!華様はすぐ手が出るんですから!花嫁だから許されているものの、一般人だったら大罪人として処刑されていますよ!」

「私悪くないもん、あっちが急にキスしてくるから。あと、花嫁じゃない」

「近いうち式を挙げるんですから今花嫁と呼んでも問題ありませんよ。式を挙げたらキス以上のこともするんですから、今のうちに慣れておかないと!」

「ここって地獄だったりする?」


ファーストキス。だれしも初めてのキスは好きな人としたいだろう。それをあの男は簡単に奪っていったのだ。華のタイプの人はある程度の常識人、一途に恋人を愛す人。華と出会う前のアレン王子を知れば、きっとドン引きして視界にも入れたくなくなるだろう。元の世界には帰れない。帰ったとしても、また、つまらない日々が待っている。花嫁でなければ、一般市民としてならこの世界にいたい。もう、今日はゆっくり休もう。そうアナスタシアに伝えようと口を開いた時、部屋の扉を誰かが叩いた。


「やあ、ハナは居るかい?話をしたいのだけど」


扉を開けて入ってきたのは、頬にガーゼをし、白いシャツを身にまとったアレン王子だった。アナスタシアは気を利かせ、お辞儀をしてから部屋を出ていった。アレン王子は華の向かいの椅子へ座り、微笑む。


「君の右ストレート見事だったよ」

「?」

「見るのもいいけど、実際に殴られるのも興奮するね」

「?」

「やはり、俺の花嫁は君しかいないと確信できたよ。結婚式はいつにする?俺は今すぐにでも挙げたいんだが、女性には色々と準備が必要だろう?できれば君がつける宝石は俺に決めさせて欲しいんだ。ちょうどアカデミーは夏休み中でね、その間に挙げられたらいいんだけど、夫婦になったとしても、俺は一ヶ月後にはアカデミーに戻らなくてはならない。残念だがずっと一緒にいることができないんだ。そこで君さえ良ければ僕と共にアカデミーへ行かないか?ずっと城に居るよりは楽しいと思うぞ!」


この男は何を言っているんだろうか。整った顔をしてこんな変態だったのか。はっきりと言わなくては。花嫁になるつもりも結婚式を挙げるつもりもないと。華はアレン王子の顔を両手で掴み目を合わせた。


「私は、花嫁にもなりませんし結婚式も挙げたくありません!そもそもあなたは私のタイプじゃないんです!」


アレン王子は目を見開き、口を開け・・・・・・・・・顔を赤くしていた。それから、下を向き何か考え込む。顔を上げて華の手を取りながら、


「それなら、俺が君のタイプの男になればいい話だな。君に相応しい男になって見せるから、それまで他の男に目移りしないでくれよ?」


アレン王子は手の甲にキスをして、この世の誰よりも愛おしく、幸せそうに笑った。そして


バキィッ──────


「そういうところが嫌いなんだよ」


アレン王子、本日二度目の気絶。佐藤華、本日二度目の右ストレート。


この一方通行の愛はいつか報われる時が来るのだろうか。

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