レイニーカフェ
私の町には、雨の日にだけオープンするカフェがあります。
その名もレイニーカフェ。
看板メニューのオムライスは、半熟のトロトロ卵で、ふっわふわ。
芳醇なコーヒーは、とても飲みやすく、コーヒーが苦手な私も、このお店のコーヒーだけは大好きで、来るたびに注文していたくらい。
高校生の時、私はここのカフェが好きすぎて、マスターのおじさんに聞いたことがあります。
「どうして雨の日だけ、お店を開けるのですか?晴れの日も来たいのに」
マスターのおじさんは、笑って言いました。
「雨の日は、みんな憂鬱な気分になりやすいからね。だからそんな気分を、ふき飛ばしてほしいなって気持ちを込めて、雨の日だけ営業することにしたんだ。今ではSNSとかあるから、わざわざ天気予報を見て来てくれる人もいるけど、天気だけは誰もコントロールできないからね。お店の前まで来て、雨が降るまでずっと待っていたお客さんもいたよ」
「だっておじさんの作る料理すごく美味しいもん。毎日でも食べたいよ」
「どうもありがとう。だけど、レイニーカフェはこれからも雨の日だけ営業するよ。その方が話題性もあって、お客さんもたくさん来てくれるんだ」
「でも雨の日だけの営業で、儲かってるんですか?」
「いや、儲かってはいないかな。このお店は僕の道楽でやっている部分が大きいよ。雨の日に、お客さんの晴れ晴れとした笑顔を見るだけで、それだけで僕は嬉しいんだ」
そう語るマスターのおじさんの顔は、外の雨模様とは違って太陽みたいにキラキラと輝いていました。
それから私は、雨の日にカフェに通い続けました。
料理を食べるだけではなく、マスターのおじさんに会ってお喋りするのがとても楽しかったので。
そしていつしか私は、レイニーカフェの料理を晴れの日でも食べられるようになりました。
夢が叶ったんです。
私たちの結婚式の日は、雲ひとつない快晴でした。