間違えて召喚されたそうです。謝られても困るので、家に帰して欲しいです…
飯野雪は戸惑っていた。
無理もない。
彼女は昨夜、自室のベッドで休んだ。いつも通りのクッションが身体を包み、布団が温もりをくれていた…のが。
「申し訳ありません!!」
シスター服というのだろうか?アニメか漫画でしか見た事のない衣装を纏った、歳の頃13、14歳の女の子が(何故か)土下座してくるのだ…。
「えーと…」雪が説明を理解したところ、こうだ。
いま、この世界(ネクシファ、というらしい)は魔王に支配されている。
唯一対抗出来るチカラを持つとされる聖女の魂が、魔王の時魔法により、時空を越えて、異世界で転生してしまった。
だが、国中の魔導師や少しでも魔法を扱える者ならば、と、集められ、研究を続けた結果、<聖女様を召喚>出来る事がわかった。
そして、昨夜、その儀式を行ったのだが…。
「どうやら…魔王に邪魔されたようで…」
目に涙をいっぱいに浮かべたシスター服の少女―ルリ、というそうだ―は、見かけによらず、この国随一の魔力の持ち主で、今回の召喚の儀、一切を任された。ところが魔王に邪魔をされ…
「…まったく無関係で無力な私を喚んじゃったって事?」
雪は訊いた。
コクコクと頷く、ルリ。
「話はわかった。じゃあ、帰して」
雪が言うと「えっ?」とルリが声をあげた。
「だって、私、ここにいたって無駄でしょ? さっさと帰して。で、今度こそ、本物の<聖女様>を召喚したらいいじゃない」
と雪が畳み掛けると、何やらモジモジし始めた。
「それが…そのぅ…」
告げられた言葉に、雪は倒れ伏した。
喚ぶ事ばかり考えて、戻す方法を考えていなかったそうだ。
んなアホな!中和剤作らずに毒作るようなもんじゃないの!
「…私、どうすりゃいいのよ…」雪が嘆息すると、
ルリが「それをいま、会議中でして…」と恐る恐るといった感じで言った。
と。ノックの音。
開かれる扉。恭しく礼をして入ってくる執事然とした格好の男性。
「飯野雪様の処遇ですが…」
みなに緊張が走る。誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
「帰る方法がない以上、喚びだした責任として、城で面倒を見る。ついてはタダ飯を食べさせる余裕はない為、メイドとして、下働きを命じる」
…はぁぁ?勝手に間違えられた挙句、働け?
舐めとんのか、ワレ?という言葉が一瞬脳裏をよぎったが、口に出すのは慎んだ。
こうして、飯野雪の異世界でのメイドライフが始まったのだった…。
雪は夕日に向かって、叫ぶ
「さっさと、帰してー!!」
容赦ないメイド長がやってきて、「真面目になさい!」と叱りつける。
こっそりとエプロンのはしで涙を拭う雪だった…。