第37話
「なんできみは、無茶なことしかしないんだ!」
みなさん。
私、叱られています。
事件を解決したのに、上司に怒られています。
ひどいです。ブラック企業です。
「紫と勝手に契約したことも、息吹を使った強化法も、今回の神降ろしも! 下手したらきみが死んでたんだぞ!」
「まあ、それはそうなんだけどね。ごめんなさい」
「まったく反省してないね?」
「正直、緊急避難みたいなもんだと思ってる」
どどーんと私は胸を張った。
深夜の若松公園。
ニセ土方が起きるまで、私たちはベンチに座って談笑している。
怪我をしているわけでもなく、たんに妖刀に食われた分のエナジーが自然回復するのを待っているだけなのでとくに治療などはおこなわれていない。
まーあ、私のエナジーをわけてやる義理もないし、ぶっちゃけ神降ろしで疲れたしね。
公園で寝ていて強盗にでも遭ったらかわいそうだから見守っているだけで、それ以上のことをしてやるいわれはないのだ。
取り憑かれていただけとはいえ、何人ものあやかしを斬ってるからね。こいつ。
見ていたらがっつり蹴りたくなるっていって、熊吉親分は柚小那を連れて帰っちゃった。
だから公園に残っているのは、私と丹籐寺、そしてクマぬいモードの紫だけ。 こんな夜中に、男男女でも女男女でもたむろっていたら通報されちゃうからね。
カップルの方が怪しまれない。
いちゃついてるだけって見れるだろうから、邪魔してくるのはペッパー警部くらいだ。
「茉那ふるすぎ。だれも知らないよそれ」
ウシぬいがつっこんでくれる。
誰も知らないってことはないと思うけどなあ。
「しょうもないバカ話ではぐらかさない」
びしっと丹籐寺に怒られちゃった。
しょぼん。
でもね、私としては譲れない部分もあるわけよ。
紫との契約は自衛のためだったけどさ、ドラキュラとの戦いやニセ土方
との戦いって、丹籐寺けっこうピンチだったじゃん。
強いから、そう簡単には負けないとは思うよ?
もしかしたら、わたしが手を出す必要なんてなかったかもっていう気持ちもあるよ?
だけどさ、まがりなりにも上司にあたる人が、血を流しながら戦ってるのを、バカボケーっと見てるだけなんて女がすたるじゃん。
ヒーローに守られてるだけのヒロインって好きじゃないのよ。
「なので、所長がピンチになったら、私はためらわず最善と信じる道を選ぶのだ」
どどーんと胸を張る。
そして丹籐寺が頭を抱えた。
「なんで……きみってやつは……」
「それを回避したいなら、所長はピンチにならないことね。どんな強敵が相手でも余裕で勝っちゃって。そしたら私も無茶しないよ」
「……鋭意努力するよ」
「よろしい」
ふふっと二人、ちいさく笑い合う。
「あのぉ……ここはいったいどこなんでしょうか……?」
ものすごく申し訳なさそうな声が聞こえた。
ニセ土方くんだ。
目を醒ましたんだね。
でも、なんでそんな、邪魔しちゃってごめんなさいみたいな顔をしてるの?
辻斬り事件は解決した。
犯人はニセ土方で、妖刀化した和泉守兼定に操られていた、という顛末である。
おそらく、という域を出ないけど、これもドラキュラが仕込んだ種っぽい気がしてるよ。
ああ、ニセ土方くんはキツネにつままれたように顔で帰って行ったよ。
彼は旅行者で、函館にきたところまでしか憶えてないって。
なので、どうして兼定を持ってしまったのかは謎のまま。
だからこそ、ドラキュラが黒幕なんじゃないかって想像する余地は充分にあるわけだ。
いまもどこかの空の下、私たちの悪戦苦闘をニマニマ笑いながら見ていると思えば、拷問にかけてやりたくなっちゃうよね。
「ちなみにどんな拷問?」
くあ、と、あくびしながらウシぬいが訊ねる。
まるっきり興味ありませんって態度だけど、じっさいまったく興味ないんだろう。
じつは私も興味ない。
「一晩中、エンドレスで生命賛歌を聴かせてあげるとか」
なので適当なことを答えておく。
ニセ土方事件から一週間、函館の町はひとまず平和である。
と、思った瞬間、私のスマートフォンが振動した。
フラグってやつですね。
画面を見れば、高校時代の友人の名前が表示されている。成人式以来だから、かれこれ五年は会っていない。
「才原じゃん。どうしたの? 突然」
「左院。ちょっと相談に乗ってほしいんだけど」
おやおや?
深夜に電話で頼み事をするほどの仲ではなかったはずだけどね。
友人ではあったけど、今でも付き合いがあるってほどでもない。お歳暮を贈りあったりもしていない。
「お金なら貸さないけど?」
「あんたは! あたしのことをなんだと思ってるんだ!」
怒られちゃった。
「旧友が夜中に電話したら、たとえば失恋しちゃったのとか心配しなさいよ」
そういうもんだろうか。
五年も会ってない友人にするような恋愛相談なんて、たいした悩みでもないと思うんだけどね。
「えっと、すぐに紹介できそうなイケメンなら、三人くらいかな」
「……あんたってやつは! ああもう!」
怒りながら笑ってる。
相変わらず忙しいやつだ。
才原静流って風流な名前の女とは、高校の三年間ずっと同じクラスだった。
毎年クラス替えがあったのに、なかなかの腐れ縁だといえるだろう。
で、彼女は森町の役場に就職して函館を離れちゃったから、つきあいとそこで終わった。
車で一時間もかからないけど、生活の場所が違うと会う機会もないからね。
「呪いの家があって、取り壊せないのよ……」
ひとしきり笑ったあと、才原が話し始める。
「なんでそれを私に相談しようと思ったんだか」
「あれ? なんでだろ? なんか左院のことを思い出して……」
戸惑った気配が、電話越しに伝わってきた。
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