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函館怪談 ~こちら駅前あやかし探偵社~  作者: 南野 雪花
第4章 シランパカムイと魅せられ人
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第16話


 そして翌日である。

 私たち三人は、それなりに山歩きができそうな服装で、朔也の借家を訪ねた。


 あ、三人ってのは私、丹籐寺、濡れ女モードの紫ね。

 神様に会うのにウシぬいだとふざけてんのかって怒られそうだし、牛鬼モードだと戦闘力が高すぎて喧嘩を売りにきたって思われちゃうんだそうだ。


「濡れ女は戦闘じゃなくて色香と話術に特化したあやかしだから、朔也がぽーっときちゃうかもね」


 とか笑っていてたけれど、朔也は普通に形式的な挨拶をしただけだった。

 とくになんの感慨もなく。


 まあ、昨日私に対してもそうだったんだけどね。

 紫ほどの美貌にも無反応である。 


「くふふふ。口ほどにもなかったね。紫」

「く! これで勝ったと思わないことね。マナ」

「楽しそうですね。お二人とも」


 変なポーズをつけてバカ話を繰り広げる私と紫を、生あたたかい目で晴太が見守っていた。

 何の団体なんだって話である。 


 ともあれ、私たちと朔也、晴太の五人で山に入る計画だ。

 女子供が三人というなかなかに尖った編成だが、その女子供のうち普通の人間なのは私だけである。


 ようするに、最も体力がないのが私ってこと!

 とっても悲しい事実だ。





 朔也の借家から二台の車に分乗して三十分ほど林道を進み、ちょっとしたスペースに車を止める。


「ここからは歩きになる。左院くんはしんどくなったらすぐに言うようにな」

「了解。所長」

「あたしには言ってくれないのぉ? 丹籐寺」


 神妙に頷く私と、すぐに混ぜ返す紫だった。


 まったく緊張感がないけど、ここから先は人間の領域ではない。もちろんあやかしの領域でもない。

 さすがこの人数でわいわい進めばヒグマと出くわすことはないだろうが、出会っちゃったらけっこう詰みだ。


 そして歩くこと十五分ほど。

 ぽっかりと開けた場所に出る。


「ここは……あのときと同じ……」


 呟いた朔也が呆然と呟いた。


「こんな近くにあったのか……」

「そんなわけないじゃん。神域を開いてもらったのよ」


 なに言ってんだこいつ、という顔で、ぱたぱたと紫が手を振る。


 シランパカムイが顕現するために必要な力場(フィールド)なんだそうだ。本当は森の中であればどこでも開くことができるらしいんだけど、あんまり人里から近いと目撃者が出るかもしれない。


 それである程度、森の深いところまで移動したのである。

 あくまでも私がいける程度の深さね。


 朔也が狩りをしているような場所と比較したら、こんな近くでって印象になってしまうのはやむを得ない。


 そしてがさがさと下草を踏みしめながら、正面にシカが現れる。

 立派な角を持った牡鹿だ。


「久しいな、調停者よ」

「ノンノも気そうでなによりだ」


 シカが喋ったことに驚きは示さず、丹籐寺はにこやかに挨拶を返す。


「喋った……」

「普通のシカじゃないことは、朔也くんだって気づいていたでしょ。あれだけ神々しい姿だもの」


 とんとんと朔也の腰を叩き、私は彼を正気に戻してやった。


森の神(シランパカムイ)。個体としての名は(ノンノ)というらしいわ」


 昨日のうちに受け取っている情報を教える。


「神様だったのか……」

「意外だった?」

「いや、むしろしっくりくる」


 ふうと大きな息をつく。


「こやつがわしの姿を見たいとぬかす若人か」


 そうこうするうち、丹籐寺との会話を終えたノンノが近づいてきた。


 近くで見ると本当に大きい。

 体高は百八十センチくらいありそう。


「さ、朔也と申します」


 声をうわずらせながら、若きハンターが頭を下げる。

 威に打たれたって感じだね。


「いつだったか、顔を合わせておるな」

「はい……」

「わしに惚れたか?」


 いうがはやいか、ノンノは人の姿に変化した。


 いや、人とはちょっと違うかもしれない。

 シカの被り物で顔はちゃんと見えないけれど、身体は淡い緑に輝く植物のような、光の帯のようなモノが絡みついて裸身を隠している。


 基本的には人間っぽいけど、これを人間だと思う人は、たぶん世界に一人もいないんじゃないかな。


「では、さっそくするとするか」

「な、なにを……」


 あまりの事態に、朔也は語彙力を失ってしまっている。

 まあ、そうだよね。


「決まっておろう。オチュー(セックス)だ」

「なんでやねーん!」


 あんまりな発言に、思わず裏拳ツッコミを入れてしまった。


 上手いことシカの被り物に命中し、ずるっとずれちゃう。

 朔也の目が点になり、紫が腹を抱えて笑い出す。


「神にまでツッコミ入れちゃったよ! さすがマナ!」


 ひーひーと息も絶え絶えだ。


「いや、だっていきなりそれを提案するとか」

「しかしな、マナとやら、大事なことではないか。性生活に喜びを見いだせない夫婦関係など地獄だと思うぞ」


 よいしょと被り物を直しながら、ノンノが反論する。


 そうかもしれないけど、ちょっと生々しすぎるんじゃないか?

 大丈夫か? この神様。


「あの……俺、そういうのはちょっと……」


 朔也もドン引きしちゃってるよ。

 物理的に、一歩後退してるし。


「そうか。久しぶりに若い男を性的に食えるかと思ったのだが残念だ。では、さらばだ」


 ふたたびエゾシカの姿に戻り、ノンノは森の中へと消えていった。


「な、なんか嵐みたいな神様だったなぁ……」


 私が呟くと、朔也が熱心にこくこくと頷いている。






「なんか、なし崩しに解決しちゃったね」

「ああ。わしに考えがあるから任せておけとかノンノが言うから任せてみたら、これだよ。びっくりだわ」


 ハンドルを握る丹籐寺も微妙な顔だ。


 一応は依頼達成である。

 朔也がシランパカムイに向けていた情熱は、すっかり冷めてしまったようだ。


「ドン引きだったもんね。でもさ、エッチな格好の女が目の前に現れたんだから、がばっと抱きついちゃう可能性もあったんじゃない?」


 私は首をかしげた。


 あれが考えだというなら、ずいぶんと賭けの要素が強いように思う。

 もしかしてノンノの中でも、朔也はOKのラインだったのだろうか。


「それはないわよ、マナ。あの子は女に興味がないもの」


 後部座席から紫が笑う。


「そうなの?」


 たしかに紫の色香にも反応してなかったけど。


「あやかしは基本的に好きな姿に変化できるわ。本質から遠い姿は霊力の消費が大きいからあんまりやりたくないけどね」


 一度言葉を切って、意味深な表情を浮かべる。


「そして晴太はショタの姿だった。」

「え、じゃあ……」

「朔也の好みストライクの姿ってことよ。あれが」


 つまり、この一件って、ノンノに朔也をとられると思った晴太のやきもちから出た話ってことか。


「他人の恋路に挟まるのは、なんだか疲れるものだな。左院くん」


 やれやれと丹籐寺が肩をすくめる。


「そのへんは、人もあやかしも神様も一緒ね」


 私も同様のポーズをした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 神様と人のオチューは結構どの国でも伝わっていることが多いけど、ここまであっさりなのはどういう事かと思いきや… なるほどなるほどそいうことですかw
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