第13話
函館に限らないけど、田舎暮らしに自動車は必須だったりする。
東京とか、北海道だったら札幌に暮らしている人には判らないだろうけど、車がないと不便なんてレベルじゃないくらい不便なのだ。
「という言い訳で、歩かないって事実を正当化しているだけなんだけどな」
「それはある」
ハンドルを握る丹籐寺の言葉に、私は重々しく頷く。
函館なんてバスも路面電車もJRもある。
上手く使いこなせば車のない生活は可能なはずなのだ。
にもかかわらず、ほとんどの人は車を使うって選択をしてしまう。私くらいの世代から七十代くらいまで。
「で、運動不足になって、都会より田舎の方が太ってる人が多いんだそうだ」
「よし、その統計をとったやつを私のところ引きずってきて、紫。説教してやる」
「そんなくだらなことに僕の力を使わないでほしいね。むしろそんなくだらない会話に巻き込まないでほしいね」
私の膝のうえ、バッグから頭だけ出してるウシぬいが言った。
ちなみに、人間状態になった紫も車を所有している。すっごい高級車を。
でも免許はない。
なにしろ公安委員会はあやかしに免許を発行してくれないから。
「ないのは免許だけじゃなくて、国籍も住民票もないけどね」
「試験もなんにもないってやつね」
「まあ、あの歌は事実ではあるよ」
日本というのは人間の国だから、あやかしだの物の怪だのの居住権は認めていないのである。
近代日本が建国される前から住んでるあやかしが大多数なんたけど、先住権も認めてもらえない。
むしろ存在すら認めてないから、紫や熊吉親分が函館市役所に住民登録をしにいっても、ぽいっとつまみ出されるだけだ。
「むしろ警察を呼ばれる?」
「で、悪質なイタズラってことで拘置所とかにぶち込まれるんだけど、どういうわけかいつの間にかいなくなってるんだよ。ちょっとした怪談でしょ?」
「あやかしが怪談を語るな」
膝の上のぬいぐるみをぐにぐにしてやる。
今の口ぶりから察するに、あやかしたちはそうやって人間をからかって遊んでるっぽいね。
まったく、性悪どもめ。
「僕はやってないよぅ。そういうイタズラは篠崎狐とかの大好物なんだ」
人間がびっくりしたり怖がったりしたときに発散される精気をいただくんだそうだ。
色香でたらし込んでいただいちゃう紫と、まあどっちもどっちだよね。
さて、私たちは恵山にむかっている。
位置的には渡島半島の東南の端っこ。
太平洋と津軽海峡の両方を望む、風光明媚な場所だ。函館出身のロックバンドが無観客ライブをやった場所としても有名だね。
もちろん私たちは聖地巡礼にいくわけでも物見遊山にいくわけでもない。
仕事である。
この地に住むイワホイヌから、ちょっとトラブルが起きていると連絡を受けたのだ。
あ、イワホイヌってのはアイヌのあやかしでね。
大きな角と歯をもったイタチなんだってさ。
どんな感じなのか私もネットで調べたんだけど、まあ出てくる画像のめんこいのなんのって。
管狐と甲乙つけがたいね!
「それにしても、本当にアイヌのあやかしからの依頼もくるんだね」
「意外だったか?」
丹籐寺がちらっとだけ私に視線を投げ、すぐに前方を注視する。
運転中だからね。
「そりゃあ、アイヌと和人の歴史を多少でも知ってれば」
私は肩をすくめた。
今でこそアイヌ差別はあまりなくなったとされているけどね。私の親とか祖父とか、そのくらいの世代では普通に差別はしてたっぽい。
小学生なんかでも、ちょっと髪が多かったり眉毛が太かったりする子がいれば、アイヌって呼んで馬鹿にしたんだってさ。
まず、アイヌと呼ぶってことが馬鹿にする行為にあたるのが驚きだよね。
当時の日本人は、アイヌ民族を劣るモノとして認識していたって証拠だから。老若男女を問わず。
「じっさい、僕たちも最初はバカにしてたよ」
膝の上のウシぬいがいう。
日本のあやかしとアイヌのあやかしは大昔はけっこう喧嘩とかも多くて、あわや妖怪大戦争ってところまで関係が悪化したりもしたらしい。
それで、丹籐寺たち調停者が函館に移り住んだわけだ。
文字通り調停するためにね。
そこからあやかしたちは、喧嘩ではなく交流を始めるようになっていった。
「で、付き合ってみるとけっこう良い奴が多くてさ。もちろん全員がじゃないよ?」
「それは、人間でもあやかしでも一緒でしょ」
そりが合わない、虫が好かない、とくに理由はないんだけどどーしても気に食わない。なーんて人もいるからね。
元いた職場でも、なぜか一言一言にかっちーんとくる子がいたんだよなー。
おそらくむこうも似たように感じていたんじゃないかな。
互いに、必要以上の接点を持たないようにしていたもんさ。
「大人ですな。茉那さん」
「うっせ」
きししと笑うウシぬいの頭を、ふたたびぐにぐにしてやる。
まあ、万民が仲良しこよしなれるわけじゃないってことを判ってる程度には大人ですよ。
「そのイワホイヌとは仲良くやれたらいいなあ、可愛いし」
「イラストで決めるのはどーかとおもうけどね」
なにしろあやかしというのは、ほとんどが変身能力を持っている。
基本的にはなりたい姿になれるのだ。
ただ、イメージからあまり遠く離れていない姿の方がラクではあるらしい。
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