第61話ランガの森ダンジョン編㊷
ベネディクタは1人で薄暗い森を歩いていた。獣の声も鳥の鳴き声も聞こえない静まり返った森の中をひたすら突き進んでいく。
(私はどこへ向かっているの? そうよ。マリアを助けに行かないと!)
ベネディクタが走り出す。
暗がりの先に、マリアを抱えて走る兵士たちの姿が見える。
あと少しで追いつける距離がなかなか縮まらない。
(マリア! マリア!)
ベネディクタがマリアの手を掴もうと必死に腕を伸ばした。
「マリアァァァ!」
「ベネディクタ、動いちゃだめだ。大丈夫だからじっとして」
起き上がろうとするベネディクタの両肩をハルトが掴んだ。
「……ハルト」
「ああ、俺だ。火傷と裂傷の大けがだが応急手当は済ませた。大丈夫だよ」
「オルトリンガム中隊長は?」
「どうにか生きてるぜ」
オリバーがベネディクタの顔を覗き込み、笑顔を見せた。
「ヘルトリング中隊長ぉ。ご無事でなによりですぅ」
「みんな……」
ベネディクタの部下たちが彼女を囲んで涙を流す。
「俺が捕まる直前に、こいつらを逃がして待機してもらってたのさ。ダンジョンが崩壊する前に、俺たちを救い出してくれたんだ」
「みんなは私の命の恩人だ。本当にありがとう」
ベネディクタが部下たち一人ひとりの手を握り感謝の言葉を述べる。
「そんな、もったいないお言葉。中隊長が命がけで戦ってる間、自分たちは隠れていることしかできませんでした。情けない限りです」
「そのおかげで、私は生きてここにいる。みんな立派に任務を果たしてくれた。ありがとう」
ベネディクタの優しい言葉に、兵士たちは笑顔を見せた。
「ダンジョンで何が起こったか、シルフとオリバーから聞いたよ」
「急いでマリアを助けないと!」
「ベネディクタ、落ち着いて」
よろめきながら立ち上がり、歩き出そうとするベネディクタをハルトが制止する。
「今追いかければ間に合うわ!」
「そんな体じゃ無理だ。まずは体力を回復させ、準備を整えるのが先決だ」
「ハルトの言う通りだぜ。幸い敵は、俺たちが生きてることを知らない。チャンスは十分にあるさ」
オリバーに説得され、ベネディクタが地面に腰を下ろす。
「マリアを拉致した部隊は、シルフとノ―ムが追跡してる。あの2人ならすぐ見つけてくれるはずだ」
ハルトの言葉を聞いて、ベネディクタの張り詰めていた表情が和らいだ。
「そう、シルフとノ―ムが……それなら安心ね。マリア、待っていて。必ず私が助けに……」
ベネディクタの声が小さくなり言葉が途切れる。ゆっくりまぶたを閉じた彼女は、そのまま気を失った。




