第51話ランガの森ダンジョン編㉜
「はぁはぁ……今度こそ倒したわよね?」
「ええ、マリアのおかげよ。お疲れ様」
床にしゃがんで息を切らしているマリアにベネディクタが手を差し伸べる。マリアがベネディクタの手をギュッと握り、ゆっくりと立ち上がった。
「ほらベック、しっかりしなさいってば」
気絶しているベックの頬をシルフが小さな手でペチペチと叩く。
「ん……うぅん」
「こっちも大丈夫よ」
ベックの意識が回復したのを確認し、シルフがマリアたちに声をかける。
「ホントに死んでるよな? さっきの二の舞はごめんだぜ」
「安心して。チビデブから魔力は感じられないから」
シルフの言葉にベックが安堵の表情を見せる。
ベックが動かなくなったミラーに近づき、額に埋め込まれた漆黒の魔石にゆっくりと手を伸ばした。
「全員動くなっ!」
ダンジョン内に突如大きな声が響く。
最下層入り口からダンテスと彼の部下たちが現れた。
ベネディクタがレイピアを構える。
「全員武器を捨てろっ」
ダンテスが叫びながら人質となったオリバーに剣を突きつけた。
「俺に構うなっ。ヘルトリング中隊長、自分のなすべきことをするんだ!」
「黙れっ、下級貴族がっ。武器を捨てなければコイツを殺す」
ダンテスがオリバーを殴り、ベネディクタたちを脅迫する。
「ベネディ、アイツの言う通りにしましょ」
「……分かったわ」
マリアに説得され、ベネディクタがレイピアを床に置く。
「そこのお前っ、ミラー大隊長から離れろ!」
「はいはい、これでいんだろ」
ベックがミラーのそばから離れて床に剣を置いた。
「なあシルフ。魔法でどうにかできないか?」
ベックが小声で尋ねる。
「ダメよ。攻撃魔法を使ったらオリバーを巻き込んじゃう」
「だよな……」
ダンテスが部下を引き連れ、倒れているミラーへ近づく。
「大隊長、なんという姿に……」
植物性モンスターと化したミラーを見つめ、ダンテスが絶句する。その巨体は肉がズタズタにそぎ落とされ、腹部に大きな空洞ができている。
「貴様らの仕業かっ?」
「モンスター化して襲ってきたの、その大隊長さんなんですけど」
マリアが抗議する。
「ミラー大隊長は額に埋め込まれている魔石によってモンスター化したのよ。詳しくは分からないけれど、初めからその魔石の存在を知っているみたいだったわ」
「魔石だと……」
ダンテスがミラーの額を見つめる。吸い寄せられるように、ゆっくりと魔石に手を伸ばす。その刹那、魔石が小さな黒い光を発した。
「イタっ」
ダンテスの指先が裂傷し、一滴の血が漆黒の魔石にこぼれ落ちた。
ミラーの体から1本の細いツルが伸び出し、ダンテスの首を串刺しにした。
「がはっ……」
ダンテスの首から血が噴き出る。
巨大なツルの先端が大きな口を開き、ダンテスを丸呑みにした。
ミラーの腹部に空いた穴がふさがっていく。
「おいおい、嘘だろ……」
驚愕のあまりベックがその場に立ち尽くす。
「ベック、走って! チビデブからなるべく離れて!」
シルフの声で我に返ったベックが、マリアたちのもとへ走り出す。




