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メモリー9

 グロウ・イェーガーはカノ・セイフとラピスに連れられ、保管庫に空いた横穴へ足を踏み入れ、真っ暗な廊下を歩いていた。

 先頭のラピスが明かりを『キャスト』で生成し先導しながら、グロウとセイフが続く構図だ。

 通路は想像よりも広大で、幅もトラック一台が通れるほどに余裕がある。一体、何が行われていた施設なのかは、想像すらできない。

 しかし、ラピスの明かりが床や壁を照らす毎に、乾いた血飛沫が視界に入る。が、不思議と死体は存在せず、結婚のみが惨劇を物語っていた。

 推測するに、ここは人道的な施設では無く、何か取り返しの付かない失態をやらかしたのだろう。

 グロウはこの先に待ち受ける怪物の正体を考察する度、とても勝てる気がせず気が重くなる一方であった。


「ここの人達は、これから戦う怪物に襲われたの?」


「そうよ。まぁ、襲ったのは子供の方だろうけど」


「子供?」


「えぇ、彼女は出産し怪物の群れを作るのよ」


 最悪の情報だ。

 ただでさえ勝機は無いに等しいのに、さらに勝機が下がってしまった。

 それでも歩みを緩めないカノを見るに、グロウでは思い付かない勝算があるのだろう。黙って着いていくグロウは、ふと前方の暗闇に何かが蠢いた気配を感じた。

 二人のカノも同じらしく、ラピスは右手に『魔法陣』を描き、セイフはグロウのシャツの裾を掴んで身を寄せる。


「マスター、因みにこの個体に戦闘能力はほとんど無いわよ」


「まぁ、さっきので大体の予想は付いてるよ」


 苦笑するグロウはハンドガンのセーフティを外し、暗闇へ銃口を向ける。

 セイフは戦闘向きでないことは、抱えて逃げ回るうちに理解できている。ただ防御系『キャスト』の腕前は目を見張るもので、いざというときに身を守ることは容易にやってのけるだろう。

 グロウがセイフへ気を配る必要は無いだろう。が、どうしてか彼女に対して、身を呈してでも守り抜かねばならないという気持ちが溢れて止まなかった。幼女の見た目であること以外に、何かトリックがあるのだろう。

 そんなことを考えつつ、グロウば無意識のうちに左手でセイフの肩を抱いて庇っている自分に気付いた。


「…………行きます」


 ラピスが呟いたかと思うと、『キャスト』を行使し前方に火球を放った。

 それは何かに衝突し、激しい火柱を上げると共に悲鳴のような金切り声が通路に幾つも木霊する。


「何だ!?」


 グロウは炎に照らされた怪物の姿を目にした。

 巨大な蛇人間であった。

 全長二メートルほどの蛇人間は、上半身は人間の女性、下半身が蛇という異形な姿をしていた。

 過去に書物で読んだラミアという化け物に酷似している。

 その蛇人間、ラミアは複数存在したらしく、炎に炙られなかった個体が壁や天井を這うようにこちらへ迫る。いや、むしろラミアの赤一色の眼球は、グロウを真っ直ぐに見詰め捕食せんとしているようだった。


「我等がマスターには手を出させません」


 ラピスが『キャスト』を手繰り、広範囲の火炎を放出する。

 ラミアは次々と焼かれ、煤となって転落していく。


「これ、僕がここにいる必要無くない?」


 圧倒的な火力を目の当たりにして、非力な『エナジー障害』の少年がこんな危険な場所に居る意味に疑問を抱くグロウ。

 あの様な特別な力を見せ付けられ、グロウはどことなく寂しさを感じていた。

 と、そんな最中、不意に嫌な気配を背後に覚え、セイフを抱き締めるように身を屈めた。

 直後、ラミアの一体が頭上を掠めた。


「奇襲か!」


 背後にラミアが何体も現れ、異様に長い舌を揺らして襲い掛かって来た。

 グロウはハンドガンを構え発砲する。

 幸いにも九ミリ弾で十分対応できるようで、数体のラミアを難なく倒すことができた。が、襲い来ていたのは尋常でない数だった。

 暗闇から次々に蛇人間が出没してくる。


「これって確実に僕を狙ってるよね!?」


「そうね、彼女らは人間を捕縛して母親に供物として捧げるよう造られているのだもの」


「何だそれ!? ひょっとしなくても、僕って撒き餌!?」


 セイフは何も言わなかったが、恐ろしいほど美しい不適な笑みで理解した。


「マジかよ!」


 応戦するグロウは小脇に抱える幼女を化け物の群れに放り投げたい衝動に駆られるが、どうしてか左腕は守ろうと必死に抱き締めている。

 そうこうしているうちに、ラミアの一体がグロウの弾丸をすり抜けて飛び掛かってきた。


「ヤバいッ!」


 咄嗟にセイフの盾になるよう身を乗り出すグロウ。確実に殺されると分かっていても、体がそういう風に動いてしまった。

 恐怖に震えるグロウだが、不意に鳴り響いた銃声にラミアが粉々に砕け散った。

 驚いて銃声のした方へ視線を向けると、一人の女性がポンプアクション式のショットガンを構えて立っていた。


「イェアリ・ク! アタシらの旦那には指一本と触れさせないよ!」


 黒いタンクトップの上にチェックのシャツにジーンズの短パン姿という見た目のブルネットの女性は、特徴的な言葉を発したところからカノの一人であることを窺い知れた。


「そらそら! かかって来な!」


 ショットガンでラミアの軍勢を圧倒するブルネットのカノ。

 グロウは注意がカノの方へ向いている隙に、ハンドガンのリロードを済ませる。が、最早、グロウの出番など無さそうであった。


「確かに撒き餌として使ったけど、私達のマスターをあんな薄汚れた怪物崩れに触れさせるなんて、考えただけでも世界を滅ぼしてしまうわ」


「何とも恐ろしい発言だけど、僕のことを守ってくれるってこと?」


「そういうことよ」


 セイフはイタズラが成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべる。

 とんだお転婆娘と呆れるグロウは、最早、自分が攻撃に加わることは無くなったことでカノとラミアの戦闘を見ていた。

 ショットガンによる無駄の無い銃撃は、確実に蛇人間の数を減らしていく。

 よく見ていると、散らばる弾丸が全て一体のラミアに当たるようコントロールされていた。何かしらの『キャスト』が込められているようで、ラミアを撃破してなお勢いを失わなかった弾丸が背後のラミアを撃破する。

 その戦い方は常人には真似できない代物だっだ。

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