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メモリー8

 グロウ・イェーガーが到達した部屋は物置部屋らしく、とても役に立つとは思えないガラクタや埃を被った書類が乱雑に山積みとなっていた。

 物置というよりゴミ置場のようだ。

 つまるところ、行き止まりである。


「この場所に何があるの?」


「この先に用があるのよ」


 幼女のカノがとことことガラクタに歩み寄る。

 ガラクタの一部に手をかざすと、床に描かれていた『魔法陣』が反応し地下へ続く隠された階段が現れた。


「隠し通路? 何なんだ、ここは?」


「『教団』の所有施設よ。ここだけじゃなく、この町の全てが『教団』に支配されているの。つまり、この町に居る限り、『教団』から逃れることは出来ないわけよ」


「そんな……って、何でそんなことを知っているんだ?」


「私達は何でも知ることができるのよ。さぁ、行きましょう」


 意味深な言葉を残し、『キャスト』で手元に灯火を作り階段を下りていくカノ。

 グロウは疑問を抱きつつも階下へ下りるべく階段へ足を踏み出した。

 階段はコンクリートで出来ており、使われていないはずが埃一つ無く綺麗なものであった。

 階下に辿り着くと、カノは迷うこと無く鉄扉で設えられた部屋を開けようとドアノブを引っ張る。が、僅かに動くだけで開ききることは叶わない。

 小さな女の子が必死にドアを引っ張る様は、何故だか可愛らしくも微笑ましくも思い見守ることに徹してしまっていた。


「よいしょっ、よいしょっーーーーふぅ、ダメね。この体じゃ、力不足もはなはだしいわ」


「えっと、手伝おうか?」


「その必要は無いわ。マスターの『エナジー』も貯まってきたことだし」


 そう告げると、グロウの体から黄緑色の透明なゲル物が現れ女性の姿を形取った。

 エルフ耳をした褐色肌の美女。スレンダーな体に似合わぬ大きな双房が目を引く、妖艶な紫色のビキニアーマーを装着した女騎士は、恭しくグロウへ一礼する。


「イェアリ・ク。マスター、ここは私共にお任せください」


 ブロンドの長髪を揺らしながら、騎士のカノが踵を返して鉄扉へ歩み寄る。

 幼女のカノでは開けるに苦労する鉄扉も、騎士のカノがドアノブを引っ張ると轟音を立てながら苦もなく開け放たれた。

 二人は中へ入っていく。

 グロウもそれに続いて入り、戸棚や机がひっくり返された光景を見て驚いた。まるで巨大な何かが暴れたかのように、あちこち破壊されて左手の鉄壁には横穴が空けられていた。


「ここは……武器保管庫か何か?」


「その通り、貴方に必要な物がある場所よ」


 騎士のカノが壁際にある壊れたロッカーの方へ歩いて行くと、衝撃で曲げられたドアを力付くで抉じ開ける。

 すると、納められていた銃器や防具が転がり落ちてきた。


「マスター、こちらへどうぞ」


 騎士のカノに呼ばれ、落ちた銃器の側まで歩み寄る。


「この中からお好みの武器をお選びください」


「選べって言われても…………」


 グロウは散乱する武器のもとへ赴き、腰を下ろして吟味する。

 近くに寄ってみて分かったことは、武器のほとんどが壊れていることであった。ロッカーごと破壊されていたようで、ライフルやショットガン類はバレルが折れ曲がり、サブマシンガンはフレームが割れたりしている。

 余程、強い力がこの部屋で暴れ狂ったことが予想できた。


「こちらなど、よろしいかと」


 不意に肩に手が回され、頬に頬が寄せられるほど至近距離にカノが迫った。

 ふわりと良い香りが鼻腔をくすぐり、滑らかな肌が感覚を刺激する。アーマー越しに当てられる胸部の存在が、心臓の鼓動を早くしていくのが分かる。

 グロウは極力考えないようにしつつ、指定された銃器を手に取る。汎用的なオートマチック式のハンドガンだ。


「悪くないね。使えるの?」


「いえ、故障しています」


「壊れてちゃ使えないじゃん」


「イェアリ・ク。けど、こうすれば問題はございません」


 騎士のカノは『魔法陣』を壊れた銃器の上に描くと、一瞬の内にそれを解体してしまった。次に同系統の銃器を同じように解体し、使えるパーツを選別していった。

 やがて一挺分のパーツを集約し、再度ハンドガンを組み立てる。


「規格が共通のパーツで再構築したんだね」


「その通りにございます。マスターの手に馴染むよう、調整は加えております」


 騎士のカノがグロウの右手をなぞるように自らの手を重ねる。

 その手付きは艶かしく、また心臓が早鐘を打つ。


「えっと、ありがとう。だけど、カノ、ちょっと近いかな」


「私達は離れてるわよ」


 幼女のカノがしたり顔で笑う。

 からかって楽しんでいるな、とグロウは苦笑しつつ腰を上げた。


「弾薬はどうするの?」


「ポケットの中に」


「ん? あぁ、これ?」


 そう言えば、ハンドガンの予備マガジンを幾つか拝借していたことを思い出した。

 試しにハンドガンへ装填しスライドを引いてチェンバーへ納めてみる。規格が同じだったようで、問題なく装填することができた。


「うん、良い感じだね」


「イェアリ・ク」


 騎士のカノは満足げに微笑む。

 仕様は先ほど『教団』から奪って使用していたハンドガンと同じだ。ただ、スライドやグリップが少し変更されていた。

 華奢なグロウでも扱いやすくなっている。


「カノ、聞きたいんだけどーーーー」


「はい」


「何かしら?」


 グロウの呼び掛けに二人は同時に返答する。

 幼女の方へ声を掛けたつもりだが、同じ個体名称のため両方が応えても不思議ではないし、どちらに話し掛けようと結果としては一緒だろう。が、少し不便さがあることは否めない。


「あぁ、えっと、区別するために名前を決めようか」


「名前ですか?」


「私達は個体は違えど全て一つに集約されているから、識別する名称は必要とは思えないわ」


「それに私共は無限に増殖いたします。一つ一つ名称を考えていては、切りがありませんよ?」


「そうでもないさ。この先、僕が指示を出すことがあるかは分からないけど、個体を区別できた方が何かと便利だよ。ともかく、僕が出会ったカノだけでも名前を付けよう」


 そう告げてグロウは束の間、思考を巡らせて幼女のカノへ向き直る。


「君の名前はセイフにしよう。カノ・セイフだ」


「セイフ? まぁ、マスターが満足ならそれでいいわ」


 肩をすくめるカノ・セイフに笑みを返して、次いで騎士のカノの方へ向き直る。


「君はラピスかな」


「イェアリ・ク。承知いたしました」


 カノ・ラピスは恭しく一礼する。


「ガスマスクのカノは、スペックにしよう」


 あの地下水道で出会った初めてのカノの個体だ。

 名前の由来は適当だ。

 グロウの感じた第一印象と言葉を結び付けただけで、深い意味は無い。けど、我ながら良き名称だと思った。


「そう言えば、私達に何か聞きたかったんじゃないかしら?」


「あぁ、そうだったね」


 セイフの言葉にグロウは膝を折って彼女と視線を同じにし、改めて問いを投げ掛ける。


「君は僕をどこへ向かわせようとしているの? この病院の地下にまで連れてきて、武装までさせて。安全な場所へ避難させるって感じじゃ無いよね?」


「フフッ、安全な場所なんてこの町には無いけど」


「我等がマスターはなかなか鋭い直感の持ち主のようですね。いやはや、頼もしい限りです」


 二人のカノは不適に笑う。

 そしてセイフが蠱惑的な表情で、これからの目的を応える。


「この施設にはある邪神が巣食っているわ。それは私達と似ていて、決して人の世に解き放たれてはならない怪物よ」


「世のため人のため、その怪物を倒せって?」


「いいえ、正義の味方なんて私達の柄じゃ無いわ。ただ、必要だから私達がいただくの」


 舌なめずりしながら、セイフは語った。

 それは幼女の皮を被った怪物の表情と言って、過言では無かった。

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