メモリーend
『カミラ』から放たれた『エナジー』の弾丸は、リリの頭を撃ち抜くことは無かった。寸でのところで銃口が逸らされ、弾丸は木製の床に被弾し木材を焦がし貫いたのみに終わった。
困惑するグロウ・イェーガーの前には、白銀の髪をツンテールにした幼女が立っていた。
「ごめんなさいね。私達のマスターが助けた命なの。殺させるには少し早いわ」
幼女、カノ・セイフが不適に笑む。
グロウはセイフの能力で銃口を無意識に逸らしてしまったのであった。
「分かってくれるかしら?」
「『ウォッチャー』の思し召しなら」
グロウは肩を竦めると、『カミラ』をホルスターに納めた 。
「ここの僕は君のお気に入りなんだね?」
「妬かないの」
「妬いてないよ」
セイフから顔を背けるように踵を返して部屋を出るグロウに、カノが寄り添うように着いていく。当然、セイフも後ろを歩いている。
部屋の外に溢れていた泥人形達は、リリが倒れたためか消え去っており、暗闇と静寂に満たされた通路が広がっていた。
一行は月明かりを頼りに、家屋から脱出すべくゆるりと歩いていた。
「彼女は『聖剣』に刺された。放っておけば死ぬことになるけど、それはいいの?」
「えぇ、そこまでの義理は無いわ。『催眠』で操られたフリして私達のマスターを殺そうとした悪い娘には、お仕置きが必要よ」
「それってこの世界の僕は知ってるの?」
「いいえ、知らないわ。局所的な地震を起こして教会の天井を落とし、教祖を事故に見せ掛けて殺したことも知らないわ」
「教えなくていいの?」
「今のマスターは余計な心労を抱える余裕なんて無いわ。まぁ、いずれ知ることになるでしょうけど、今は自然に委ねましょう」
「『ウォッチャー』らしく、傍観ってことね」
「棘のある言い方ね? けど、今の私達はカノ・セイフ。カノの一人であり、カノ自身でもある」
セイフがそう告げた瞬間、グロウの隣を歩いていたカノが頭を抱えた。
カノという邪神は食を選ぶ。
何でもかんでも取り込むことはせず、必要な能力と必要な対象をきちんと選んで捕食するのだ。『ウォッチャー』を捕食などできるわけは無く、ましてや好んで食べたりはしないだろう。
それなのに勝手にカノの中に割り込まれては、頭痛を抱くのも無理はない。
「あぁ、そうそう。その盾、譲ってくれないかしら?」
「え、何で?」
「私達のマスターに必要だからよ。どうせ一杯持ってるんだから、一つくらいいいでしょ?」
「気に入ってるのに……」
グロウはシールドを外してセイフへ手渡す。
『ウォッチャー』でないと言いながらも、『ウォッチャー』としての権能は感じるためにグロウは拒否権を行使できない。カノ・セイフという幼女に対しては、『オリジン』のグロウは反論も抵抗もできないのだ。
「さて、僕達はこのまま次の任務に行くよ。『ウォッチャー』、いや、ミズキ。こっちのグロウによろしく」
「気を付けてね、グロウ。あっちのミズキによろしく」
そうしてオリジンのグロウ・イェーガーはカノを連れて別の世界へ旅立って行った。
セイフはしれっとこの世界のグロウ・イェーガーと合流し、傷心のグロウがアヤ・ライトニングに慰められている様子を温かく見守っていた。
「二人のアルビノはそれぞれ別の結末を迎えた。方や命を救われ、方や命を害され。二人の違いは何だったのか。ただ人として平和に暮らしたかった二人を分かつは、果たして。ーーーーフフッ、やっぱり観察は面白いわ」
セイフは不適に笑むと、黄緑色透明のゲル物へと変貌し、姿を消すのであった。
◇感謝を込めて
メモリーズはこれにて完結とさせていただきます
こんな作品でも、昨年の九月から執筆を始め今年の四月までかかりました
投稿は一ヶ月で終わるとは、呆気ないものですね
ともあれ、私の目的である長編作品の完結を達成できたことは、何より成果と言えましょう
最後になりましたが、ここまで読んで下さった方々には感謝してもしきれません
本当にありがとうございました
また別の作品でお会いできれば幸いです




