メモリー50
グロウ・イェーガーのシールドが教祖の放つ水流を防ぐ。
水が一気に蒸発する中、教祖はし『転移』の『キャスト』でグロウの背後へ瞬間移動し、水の刃で背後から貫かんと振りかぶった。グロウはまるで背中に目が付いているかのように、『カミラ』の銃口を左の脇から覗かせ、火炎を纏う『エナジー』で編まれた弾丸を乱射する。
教祖は身体を水に変えて回避し、グロウから距離を取るように『転移』の『キャスト』を行使した。
「逃がすか!」
グロウは『カミラ』を構え直すと、更に銃撃を繰り出す。
「逃げる? なめるな!」
教祖は更に『キャスト』を行使すると、今度は反対にグロウへ急接近する。
「誰が貴様などに背を向けるか!」
驚愕するグロウに、教祖の触手に変じた右手が横一文字に振るわれる。
その手は高圧で流れる水を纏い、まるで刀剣のような鋭さでグロウを襲った。
咄嗟にシールドを構えたことで、『魔法陣』が起動し火炎による防護膜が生成され、水とぶつかり合ったことで水蒸気爆発が起こった。
「うわっ!」
「格下が調子に乗るな!」
爆風に体勢を崩すグロウであるが、シールドと『キャスト』による防御のおかげで無傷であった。
対する教祖は水蒸気爆発をもろに喰らいつつも、敢えて防御せずに身体を千切れさせながら、身体をよろめかせるグロウへ追撃をかける。
水の刀剣が縦横無尽に走る。
その度にグロウのシールドが『キャスト』を発動させ、水蒸気爆発が巻き起こる。爆風に煽られ構えるだけで精一杯のグロウは、バックステップで距離を取ろうと試みるも『転移』を連続して行う教祖から逃れることができない。
「旦那、教祖は邪神と適合率を上げてきてる! 攻勢に転じないと!」
カノ・ルージュが警鐘を鳴らすように声を上げるが、グロウとてそんなことは分かっていた。
「グロウ・イェーガー! 貴様さえ死ねば、私はーーーー!」
「しつこいーーーー!」
グロウは『カミラ』を変身させつつ、教祖の刀剣が離れる一瞬の隙を狙った。
横薙ぎに振るわれた水の刀剣が炎の防護膜により吹き飛ばされた瞬間、グロウはあえて泥濘に倒れる。それを好機と見た教祖は、グロウを串刺しにせんと腕を振り上げた。
「死ね! アルビノ!」
水の刀剣が心臓を突き刺さんと振り下ろされる瞬間、シールドを外したグロウは『カミラ』の銃口を教祖へ向けトリガーを引き絞る。
『エナジー』で形成された弾丸が撃ち出され、醜悪なタコの怪人の眼前で何十という数のペレットに分裂する。
ペレットは教祖に命中するとタコ頭を吹き飛ばし、粉々に砕いた。が、時間が巻き戻るかのように被弾箇所が再生していく。
「無駄なこと!」
「そうかよーーーー!」
しかし、撃ち出された『エナジー』で生成されたショットシェルは一発ではない。
まるでアサルトライフルよろしく、矢継ぎ早に次から次へとショットシェルが撃ち出され、教祖の身体を粉々になるまでペレットが引き裂いて行く。
フルオート式ショットガンに変じた『カミラ』は右手の中で暴れ狂い、狙いも何もあったものではない。が、この至近距離では狙わずとも撃てば当たるし、ルージュの権能を自由自在に操ることのできるグロウは、ペレット一つ一つを教祖へ命中させるように操作するなど容易いことであった。
「ガァァァァァーーーー!」
「このぉぉぉぉぉーーーー!」
ペレットは教祖を容赦なく砕く。
しかし、倒せるような様子は無く、グロウの『エナジー』が尽きるが先のような手応えの無さであった。
既に教祖は邪神との適合率をある程度上げてしまっており、『再生』に権能のほとんどを傾けることで、やがてフルオートマチックのショットガンから放たれる『エナジー』で編まれたショットシェルのダメージを凌駕し始める。
「イェアリ・ク! このままじゃ旦那の『エナジー』が持たない!」
「マジかよ! なら、最大火力で勝負だ!」
あまりの状況にグロウはシールドを地面に打ち付け、『キャスト』を発動させると泥濘が爆発した。
跳ね上がる土と水蒸気が教祖の視界を遮る中、グロウは立ち上がりながら『カミラ』をランチャー形態へ変化させる。が、銃撃の手を止めてしまったのは悪手であった。その隙を突いて、教祖は瞬く間に身体を再構築してしまったのだ。
「私の勝ちだ!」
「しまっーーーー」
そして後退しようとしていたグロウの胸部を、教祖の右手、その触手の集合体が貫いた。
ぐちゃりと嫌な音が響き渡り、背中から突き出た触手の中に心臓が握られていた。
「フ、フハッ、フハハハハーーーー! ハハハハハハッーーーー!」
教祖の高笑いが泥濘の世界に響く。
勝利に陶酔した狂ったような笑い声であった。
「ハハハハハハッ、ヒャハハハハハハーーーー!」
虚ろな目を地面に向け、糸の切れた操り人形のように身体をだらりとさせたグロウからは、生気など感じなかった。
まるで潮が引いていくように身体を満たしていたカノ・ルージュの『エナジー』が消えていき、赤かった髪は元の白髪へ変じ、服装も元の『メンズフォーマル』へと戻っていった。
ただ一点、教祖に貫かれた胸部のみが、赤黒く染まっていた。
「呆気ない! 本当に呆気ない! 私に、邪神に逆らう愚か者の末路というのは、いつも呆気なく、そして無力!」
悦に浸る教祖は、しかして気付いていなかった。
虚ろな目をしてうなだれるグロウの唇が卑しいまでに歪み、嘲笑を浮かべていることに。
「紹介するよ」
そして亡骸と化したグロウの向こう側で、『カミラ』にライフル弾を給弾しボルトハンドルを押し込みチャンバーへ装填するグロウの姿があった。
髪を赤く染め上げたグロウの姿を認識した教祖は、タコ頭に浮かべていた笑みを強張らせた。
「彼女が、カノ・クラウンだ」
教祖はゆっくりとグロウの亡骸へ目を落とす。
すると、死んだはずのグロウが顔を上げ、声も上げずに教祖を嘲笑っていた。
やがてその姿は紙細工が劣化するかの如く剥がれて行き、ブルネットのツインテールにピエロのように顔面を白く染め上げ左目の周りに赤い星を描いた少女へと変貌した。服装もド派手な赤色と星の描かれた物に変わり、まるで道化師が嗤うようにいつもの鳴き声を上げる。
「イェアリ・ク! イェアリ・ク! イェアリ・ク! 騙されてやんの! キャハハハハハーーーー!」
「おのれ……おのれェェェェーーーー!」
焦燥に駆られながら腕を引き抜こうとする教祖だが、カノ・クラウンはその腕を決して離さない。
「ザマァ、ザマァ、ザマァ! アタシ達のマスターを見くびるなんて、愚か愚か愚か! キャハッ、お前の負けだ!」
「そして、僕たちの勝ちだ!」
そしてグロウは『カミラ』のトリガーを弾く。
放たれた弾丸は教祖へ命中すると、その身に宿していた邪神が引き剥がされる。
「■■■■■――――!」
「やめろぉぉぉぉぉーーーー!」
必死に邪神を離すまいとすがり付く教祖。
しかし、グロウは絶好のチャンスにも関わらず、止めを刺そうとしなかった。否、グロウにはこれ以上、教祖と邪神をどうにかできる術が無かったのだ。
先程の戦闘で『エナジー』のほとんどを使い切っていたグロウは、ルージュとの融合を保つだけでも精一杯な状態だったのだ。
それに元々、グロウには邪神を滅ぼす力など持ち合わせていなかった。
「今だ、アヤ・ライトニングーーーー!」
邪神を討てるのは『聖剣』のみ。
本当は他にも方法はあるのだろうが、グロウには『聖剣』しか手段は無かった。故にこそ、アヤ・ライトニングの助力を必要とし、また彼女の部隊と行動を共にしていたのだ。
「――――ッ!」
「必殺――――!」
いつの間にか再起し教祖の背後に立っていたアヤは、二刀の小太刀を振るって教祖と分離した邪神を十文字に斬り裂いた。
「■■■■■――――!」
邪神は空間までもを震わせる凄まじい咆哮とも悲鳴とも付かぬ声を上げながら、虚空へと消え去った。
「あぁ! 我が神よ! 貴様ら、何ということをーーーーガッ!?」
それでもまだ元気の有り余っている教祖の顔面に対し、グロウは右ストレートを打ち込む。続け様に顎を目掛けてアッパーを打ち込み、倒れた所で顔面に蹴りを入れ、胸倉を掴んで何度も殴り付ける。
まさにタコ殴りだ。
アヤが目を丸くし、ルージュが感心の口笛を鳴らした。
「き、きしゃま……」
「くたばれ、クソタコ野郎 ーーーー!」
ひとしきり殴りまくったグロウは、最後とばかりにもう一度教祖の顔面を蹴り上げる。
『カミラ』による弾丸で『キャスト』を封じられた教祖に防御手段など無く、呆気なくその身体を泥濘に沈めるのであった。




