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メモリー47

 グロウ・イェーガーが放った弾丸は、上空で余裕をかます教祖の頭部を見事に撃ち抜いた。

 『クラウン』の中に残していたバトルライフル『スカーレット』の四倍率スコープ越しに教祖を確認するも、撃ち砕かれた頭部は直ぐに回復してしまっていた。


「やっぱり効かないよね、今更だけどーーーー!」


 驚愕しながらも、銃撃を再開する。

 セミオートに設定されたライフルから断続的に弾丸が弾き出される。

 まるで暖簾に腕押しをしているかのように手応えなど全く無いが、少なくともアヤ・ライトニングと『キティチーム』から注意を逸らすことはできたようで、教祖はコウモリのような羽根を羽ばたかせるとグロウへ向かい急降下してきた。


「クソッ、速い!」


「役立たずの分際で、何故、貴様は動いている?」


 教祖は眼前に迫ると触手の拳打を繰り出す。。

 グロウはライフルを両手で保持する関係から左の二の腕に上げていたシールドを構え、その拳を受け止めた。

 『キャスト』を何重にも重ね掛けしたシールドと、『身体強化』の『キャスト』で補強した身体を持ってしても、その一撃は重たく、無力にも簡単に吹き飛ばされる。


「誰の許可を得て動いている?」


 静かな怒りを乗せて、追撃の『キャスト』が繰り出される。

 濃縮した水の弾丸。

 体勢を立て直すもそこそこに、グロウはシールドでそれらを受け流しつつ『加速』の『キャスト』を行使し駆け出した。マガジンが空となった『スカーレット』を放り捨て、ヒップホルスターから『カミラ』を引き抜き、『加速』の中で『エナジー』による弾丸を撃ち放つ。


「なるほど、『エナジー障害』か。外部に『エナジー』が流れず蓄積する病気ならば、私の『キャスト』が通用しない理由も納得が行く。『キャスト』にしても内部で完結してしまっていれば、外に出たところで辿ることはできないわけか」


 得心する教祖は、身に振り掛かる『エナジー』による弾丸を避けもせず、自身が発する『エナジー』で無効化する。

 グロウは更に速度を上げ急接近し、『カミラ』の銃口を教祖の頭部へ突き付ける。


「蛮勇のつもりか?」


「このーーーーッ!」


 至近距離で撃ち出されるマゼンタ色の弾丸。

 しかし、僅か数ミリの距離だというのに、放たれた『エナジー』の弾丸は尽くが無効化されていった。


「それはただの無謀だ。無能なアルビノよ、身の程を弁えろ」


 教祖が右手を横薙ぎに振る。

 ただそれだけでグロウは吹き飛ばされ、『身体強化』の『キャスト』で身体を保護していたにも関わらず、内臓から骨に至るまでダメージを負い激しい痛みを被った。

 泥濘を転がり吐血するグロウに対し即座に『自己回復』の『キャスト』が施されるも、直ぐに立ち上がることはできなかった。


「分からぬことと言えば、もう一つある。グロウ・イェーガー、貴様は私を本当に恨んでいるのか?」


 音もなく飛翔し接近した教祖は、触手に変貌した左手でグロウの胸元を掴み上げる。

 身体に浮遊感を覚えた頃には、足は地上を離れ宙吊りの状態となっていた。


「貴様は私に勝てない。しかし、カノならば違う。貴様が本当に私を恨み、殺そうとしているならば、カノが反応しこうも無様を晒すことは無かっただろう。何より、貴様からは憎悪を感じない。いや、内側に対しては別か。なるほど、そういうことか」


 教祖の問いにグロウはただ睨み付けるだけで答えない。

 見透かされたという焦燥をひた隠しにするためであった。


「両親を殺した私を恨まず、その原因となった自らを憎むとはな。しかし、真理を理解したことは褒めてやろう。そうだ、貴様の両親は貴様のせいで死んだのだ」


「うるさい……」


「貴様が我が元より逃げなければ、両親を手に掛ける必要は無かった。カミンスキーが動くことも無ければ、今頃、いつもと変わらぬ日常を過ごしていただろう」


「うるさいんだよ……」


「貴様が逃げたが故に、私は貴様の両親を見せしめにした。貴様の愚行を反省させるためにな。全ては貴様の行動が導き出した結果に過ぎぬのだよ」


「黙れェェェェーーーー!」


 怒りに任せて右拳を教祖のタコ頭に打ち付ける。

 グニャリと嫌な感触が伝わった以外に何もなく、グロウはただ両の瞳から大粒の涙を溢した。

 全て言い当てられたことへの悔しさと、変えようのない現実を突き付けられたことへの恐怖。そして酷い自己嫌悪が涙となって頬を伝う。


「気は済んだか? では、貴様の願いを叶えてやろう。これで自己嫌悪から来る自殺願望に苦しむことは無くなるのだ。感謝したまえ」


 教祖は右手に『エナジー』を纏い、グロウの胸部目掛けて『キャスト』を行使する。

 ウォーターカッターのように高圧力で放たれた水の柱が、グロウの心臓を貫く。


「旦那よ、確かにこいつはうるさいな」


 しかし、水はグロウに届く前に蒸発してしまった。

 『キャスト』がキャンセルされたのではなく、ただ灼熱の炎によって一瞬の間に沸点以上にまで熱せられ、文字通り蒸発、蒸気となって空気中に霧散したのだ。


「何事だ!?」


「いちいち驚くんじゃないよ。旦那の中にアタシらがいるって、忘れたわけじゃあるまいし」


 次いで激しい炎がグロウの中から発せられ、教祖は左手を起点に一瞬のうちに黒ずみとなって焼失してしまった。

 自由を得たグロウは泥濘に倒れ掛けるも、一人の女性が優しく抱き止めてくれた。


「ルージュ……」


「イェアリ・ク。悪いな、旦那の邪魔をしたくなかったが為に、旦那が傷付いちまった。そのお詫びってわけじゃ無いが、教祖のタコ野郎を炙ってやったぜ」


 野球帽を被ったブルネットの女性、カノ・ルージュは朗らかに笑む。


「っで、だ。旦那、奴の言うことに耳を傾けることは無いぜ。八割方は旦那を苦しめるための出任せだ」


「違うよ、真実だよ……僕は、僕の迂闊な行動のせいで父さんと母さんを…………」


「何言ってんだ。そんなの旦那にはどうしようもできなかったことじゃないか。――――ったく、大人が良い様に追い込みやがって」


 ルージュは束の間浮き上がった怨嗟をリセットするように溜め息を吐くと、グロウの頭を優しく抱き締める。

 太陽のような優しい熱がグロウを包み込んだ。


「いいか、旦那。真実はこうだ。――――旦那は教祖に殺されかけた。だから逃げざるを得なくなった。アヤ・ライトニングに助けを求めようにも、あいつも旦那を殺そうとした。だから他に助けを求められず、アタシらと一緒に必死に戦った」


「けど……」


「『シープヒル』から脱したのはアヤの判断に従ったがためだ。そしてあいつを信じたことで『禁忌術式犯罪対策局』に拘束されちまった。そのせいで、『教団』は過激な行動をすることになった」


 ルージュの抱き締める腕に力が籠る。


「旦那は何も悪くない。必死に助かろうと足掻いて、その時その時で最善の選択をしただけだ。悪いのは教祖やアヤみたいな狡い大人だ。アタシらみたいな力に溺れ自分こそが正義と自己陶酔した挙げ句、他の迷惑を考えられなくなったろくでなしが原因で起きた悲劇に過ぎない。誰も旦那を責めはしないし、責められはしない。もし旦那を責める野郎がいやがったら、アタシらがそいつをぶっ殺す。そいつはただ、責任を旦那に押し付けてるだけだからな」


「そうだとしても、僕は選択できた。君達を使えば、もっと上手くできたはずだよ……」


「ただの子供の旦那に、そんな選択をさせるかよ。いいか、旦那。さっきも言ったが旦那は最善の選択をしてきた。その選択は間違っちゃいない。それはアタシらが保証する」


「でも…………!」


「ご両親が無くなったのは、旦那のせいじゃない。悪いのは旦那から選択肢を奪い、利己的に立ち回った狡猾な大人のせいだ」


 ルージュはグロウの身体を少し離し、しっかりと視線を合わせる。


「そもそも、旦那はこんなことに巻き込まれる必要なんて無かったんだ。教祖に生け贄として利用され、アタシらを憑依させられたことが全ての発端で――――それなのに自分が悪いと自身を追い詰め、できる限りの責任を果たそうとするなんて、真面目過ぎるんだよ」


 グロウの流した涙を拭うように、ルージュは頬を優しく撫でる。


「そしてリリを殺さずに助けようとした。アタシらの中でも、そこ選択は物議を醸してるぜ?」


「気に入らないって思ってたよ……」


「あぁ、アタシらは気に入らないだろうさ」


 ルージュはそう言うと、また一歩グロウから離れた。

 まるで離別を意味するような行動だが、不思議と彼女が見限ったなどとは思わなかった。


「けど、”アタシ”は気に入った」


 ルージュはいつものように朗らかに笑む。

 しかし、何処かいつもと違うように見えた。

 カノ・ルージュが笑っていて、そしてルージュが笑っている。彼女は同一であるはずが、全く異なる女性のように思えた。


「ルージュ?」


「お? そろそろタコ野郎が戻って来るぜ」


 振り返るルージュの肩越しに、邪な『エナジー』が渦巻く様子が見えた。

 倒せたとは思わなかったが、あの火炎を喰らってまだ蘇ることができるとは、邪神の蘇生能力は驚異的である。


「旦那、アタシらはあんたに力を与えよう。あいつを凌駕するほどのな」


「教祖と同じく、君達と一体になるってこと?」


「いや、教祖のように化け物になる必要はない。旦那はただ、人間として戦えばいいんだ」


 そう言いながらルージュはグロウの傍らに立ち、身体を黄緑色透明のゲル物へ変化させる。

 いつものようにグロウの身体へ染み込んで行くが、いつもと違い身体の奥底から灼熱の炎が迸り身体が火ダルマと化す。

 しかし、その熱がグロウを焼くことは無く、優しく身体を包み込んでいった。


「これはーーーー?」


「さぁ、アタシらは覚悟を決めたよ! 後は旦那次第だ!」


「僕次第……僕は…………!」


 次の瞬間、カノ・ルージュの炎が曇天を突き破るほど天高く立ち上ぼり、グロウ・イェーガーという存在を変化させていった。


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