メモリー46
アヤ・ライトニングは『聖剣ミズキ』を振るい、教祖の右腕を叩き斬る。
確かな感覚、そして刀身が腕を断ち斬った様を目の当たりにしても、直ぐに再生してしまいダメージはほとんど無い。
そして接近戦は教祖の間合いでもあり、穢れた神秘の『エナジー』を纏った一撃がアヤへ繰り出される。間一髪、鞘の神聖に満ちた『エナジー』でそれを弾くと、返す刀で胴体を逆袈裟に斬った。が、それは身体が水になって避けられてしまった。
「無駄だ! 貴様の『聖剣』など、我が神の前には無力!」
再出現した教祖が『エナジー』によりう生成した水を濃縮し、ビームのように撃ち放つ。
アヤはそれを刀身で受け止めるも、あまりの威力に身体ごと弾かれてしまった。
邪神に反応して『聖剣』の『加護』が発動し人智を超えた身体能力を付与されているアヤは、吹き飛ばされながらも体勢を即座に立て直す。そして『加速』の『キャスト』を行使すると、一瞬の内に教祖まで距離を詰めた。
「こんなのはどうかしら!」
余裕の表情をタコ顔に浮かべる教祖に対し、アヤはと『ミズキ』の刀身へ『キャスト』を付与しながら横一文字に振り抜く。
刀身は教祖を斬り裂くが、先ほどと同じく水となって回避される。が、刀身に纏わせていた『エナジー』が雷電に変わり教祖へ電気ショックを浴びせた。
「■■■■■ーーーー!」
この世のものとは思えない咆哮を上げながら、教祖は泥濘に倒れる。
アヤの放った一撃はただの電撃ではない。『聖剣』が放つ浄化の光を孕んだ電撃は、教祖に取り憑く邪神には効果覿面。身を焦がす聖なる雷に、教祖は泥の中を転げ回っている。
「このアマ…………!」
ようやく激痛から解放された教祖は、恨めしげにアヤを睨む。
対するアヤは『ミズキ』を正眼に構え、次なる攻撃に備えた。
「嘗めないで。私はグロウより強いし、優しくは無いわ」
「そのようだ……」
次の瞬間、何の前触れもなく地面の汚泥が跳ね上がった。そしてその雫の一つ一つが鋭い刃となり、一気にアヤを襲う。
「だが、私は貴様より強い……!」
為す術無く身体を貫かれるアヤ。
痛覚は自動的に切断されたため、痛みによる思考停止に陥ることは無かった。しかし、間髪無く放たれる水滴の刃に、容赦なく身体は刻まれ肉は削がれ骨は砕かれる。
「このまま無様に死ぬが良い!」
「イェアリ・ク。それは我らが主の意に背く」
不意に少女の声が聞こえたかと思えば、サブマシンガンの銃声が轟いた。放たれた弾丸は全て教祖の身体へ撃ち込まれ、回避のために身体を水へ変化させたことでアヤへ放っていた『キャスト』を中断せざるを得なくなった。
自由を得たアヤは即座に身体を回復させ、再出現した教祖へ追撃をかける。
『ミズキ』の刃が閃き、雷となって教祖を斬り裂く。先ほどと同様、教祖は身体を水へ変えた先に雷に焼かれることとなった。
「あれは自律制御の『キャスト』なのね。どうりで発動を予知できないわけだわ」
同じミスを二度した教祖に対し、身体を水へ変換する『キャスト』の弱点を見出だしたアヤ。と同時に、そんな高度な『キャスト』を連続して行使する教祖という『ウィザード』に、改めて脅威を覚える。
「この年増、何を苦戦している? 歳のせいで動きが鈍ったか?」
悪口を吐きつつカノ・スペックがアヤの傍に寄ってきた。
「うっさいわね。急に高度な『キャスト』を使われて、咄嗟の対処ができなかったのよ。あいつ、何であんな『キャスト』を使えるのに温存するみたいなことするのかしら?」
「知ったことか。奴が手加減をするなら、その隙にさっさと殺すぞ」
そう告げるとスペックは『融合』の『キャスト』を行使し、アヤとリンクさせる。
「手伝ってくれるなんて意外ね?」
「我らが主の指示だ。そうでなければ、貴様などと三度も交わるものか。反吐が出る」
「全く、口が悪いわね。まぁ、背に腹は代えられないわ」
アヤも同様に『融合』の『キャスト』を行使する。
瞬間、スペックが黄緑色透明のゲル物へ変化し、アヤへ纏わり付いた。次いで身体の中へ染み込んで行くと、アヤの服装と『聖剣』が変化していく。
黒い忍装束に二振りの小太刀。
『聖剣ミズキ』に選ばれたアヤが邪神カノという神性を取り込んだ姿。
母国の暗殺者の記録を喚び起こした強化形態だ。
「よし、行くわよ!」
「イェアリ・ク。手を貸すんだ、必ず勝て」
アヤは小太刀を逆手に構えて走り出す。
『キャスト』を使わず『加速』と同等の速度で駆け抜け、雷撃から逃れた教祖へ斬りかかる。が、今度は『結界』の『キャスト』によって、二つの斬撃は防がれてしまった。
「何とも醜悪な! 聖なる剣と邪なる神を混ぜ合わせるなど、不遜にもほどがある!」
「立場は違うけど、その意見には同意するわ!」
『加速』の『キャスト』を行使し、神速の斬撃で教祖の『結界』を斬り刻む。
一秒の間に百を超える刃を受けた『結界』は容易く破壊され、百一回目の刃が本体を斬った。が、今度は『転移』の『キャスト』によりかわされてしまった。
しかし、アヤは逃がさない。
『千里眼』と『未来予知』の『キャスト』を重ねて行使し、教祖の出現するポイントを絞る。おおよその位置を掴むと、右手の中にクナイを三本生成し予測位置へ投擲する。
次の瞬間、クナイが飛翔する場所へ教祖が出現した。
「何!?」
驚愕する教祖へクナイが突き刺さるも、やはり身体が水へ変換されてダメージは通らない。が、クナイの中に隠していた『エナジー』が爆発すると共に雷撃へと変じた。
水を通して電撃が迸り、教祖は咆哮を上げて身を焼かれることとなる。
「まだまだ!」
アヤは更に速度を上げ、雷に打たれて暴れる教祖へ肉薄する。
「必殺!」
驚愕に眼を大きく開ける教祖の眼球ごと、アヤの二刀小太刀は邪神の憑依で変異した肉体を細切れに斬り裂いた。
神速で百、二百と繰り出される連撃は、瞬く間に千を超えておぞましい肉体を文字通り肉片へと変えていく。
やがて強大なる邪教徒の祖である教祖は、原形すら残らず呆気なく死に絶えたのだった。
「フッ、タコワサにでもしてやるか?」
「やめて、居酒屋で食べる度に思い出しちゃうでしょ」
教祖が消え去り世界に静寂が訪れる中、皮肉っぽく告げるスペックに、アヤは嫌な想像をしてしまい半目になって突っ込みを入れる。
「指揮官!」
そんなアヤの元に、半魚人の兵士と交戦し殲滅し終えた『キティチーム』の面々が集う。
「こちらは敵勢力の殲滅を確認しました。――――教祖は?」
「死んだはずよ」
『キティチーム』の隊長の報告を聞きながら、周囲を見渡す。泥濘の世界は相変わらずだが、教祖の放つ嫌な気配は無くなっていた。
遠くの方でグロウ・イェーガーが黒い騎士と銃撃戦を行っている様子が見える以外に、敵性存在は認知できなかった。
「あれだけ『聖剣』で斬ったのだから、死んで貰わないとね。――――さぁ、坊やの手伝いに行くわよ。さっさと片付けて元の世界に戻りましょう」
「了解! ――――『キティチーム』、聞こえたな? 行動開始!」
アヤと隊長の指示で行動を始める『キティチーム』だったが、不意に嫌な音が周囲に響いた。
何事かと周囲を見渡すと、隊員の一人が血を流して倒れていた。
「何だ!?」
「総員、周辺警戒を! 我々は攻撃を…………っが!?」
慌てて指示を出す隊長だったが、直後に同じく全身から血を吹き出して倒れた。
それを皮切りに『キティチーム』の全員が同じように血を吹き出し、地面に倒れて行く。
『聖剣』の『加護』によって護られていたアヤはわずかなタイムラグがあったため、急いで『結界』の『キャスト』を行使して『キティチーム』の全員を防護膜で包み込む。が、そのアヤでさえ、血を吹き出して膝を着いた。
「何が……起こって…………?」
「イェアリ・ク! 教祖がまだ生きてるぞ!」
スペックが驚愕の声を漏らし、アヤは空を仰ぐ。
雨雲に覆われた曇天の空には、タコのような顔をしコウモリの羽根を羽ばたかせた教祖の姿があった。
何らかの『キャスト』を行使しているのか、手元に『魔法陣』が展開されている。
「あの程度で我が神を滅ぼせたと思ったか? 笑止! 矮小にして不遜な下等生物ごときが、思い上がるな!」
更に『キャスト』が強められ、アヤの身体から血飛沫が上がる。
そこでようやく理解した。
教祖の行使する『キャスト』は、人体から常に放出される微弱な『エナジー』を辿り、内部から攻撃するものだ。故に『結界』では守りきれず、このままでは大量出血か内蔵の損傷で『キティチーム』のメンバーは助からない。
何とか思考を巡らし打開策を案じるが、その間にも『キャスト』は強まり一刻を争う状況に陥った。
「ハハハッ! 貴様には何もできない! さぁ、怯えろ! 恐怖しろ! 無力を感じながら死んでいけ!」
教祖の高笑いが響く。
『エナジー』を辿り与えられる攻撃に倒れるアヤと『キティチーム』を嘲笑う声は、曇天と泥濘に挟まれた世界を震撼させているような錯覚さえ覚えた。
一発の銃声が嘲笑を遮るまではーーーー。




