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メモリー45

 出動前、装備を身に付け準備をしていた時のこと。

 グロウ・イェーガーの背後に回ったカノ・ラピスが、弾帯を腰に巻いてくれた。

 『エナジー式ハンドガン”カミラ”』のボルトアクション式の発射機構で使用するライフル弾が、右腰に五発、左腰に五発と納められているベルト型の弾帯だ。


「全部で十発?」


「厳密には五発ずつです」


 そう言ってラピスはグロウに後ろから抱き付きながら、腰に手を回す。


「ラ、ラピス?」


 背中に伝わる人肌の温もりと弾力のある膨らみにどぎまぎするグロウをからかうように、ラピスは左右の弾帯から一発ずつ銃弾を取り出して見せた。


「右の弾薬は『エナジー』で弾丸をコーティングした徹甲弾。相手が『エナジー』による防御措置を取っている場合、コーティングされた『エナジー』が防護膜に穴を空け、実弾の通り道を作るような仕組みとなっています」


 耳元で囁かれ、吹き掛けられる吐息に心臓が早鐘を打つ。

 話の内容を理解することに、通常以上の集中力を必要としていた。


「そして左の弾薬は被弾者の纏う『エナジー』を一時的に無力化する非殺傷性の弾薬です。あらゆる『キャスト』は『エナジー』を用いて行使されます。『エナジー』を封じることは、『キャスト』を封じることと同義となります。『ウィザード』には天敵と言えましょう」


 ラピスは更に身体を密着させる。

 ふわりと甘い匂いが鼻腔をくすぐり、理性が蕩けそうになる。


「しかし、無力化できるのは『エナジー』と『キャスト』のみ。『ウィザード』自身を無力化できるわけではなく、実体を持った武器による攻撃を無力化できるわけではありません」


 ゆっくりと弾薬を弾帯へ戻すと、自由となったラピスの指先がグロウの下腹部を撫でた。


「ラピスさん!?」


「また、被弾者を離れた攻撃に対しては無効ですので、ご使用の際はご注意を。では、続いてはレクチャーをーーーー」


 やがてグロウの限界を迎えようとしたその時、不意にラピスの身体が離れていった。厳密には引き剥がされたのだ。

 振り返ると、カノ・ルージュがじとっとした目でラピスの襟首を掴んでいた。


「気持ちは分かるがやりすぎだ」


 ルージュは一言注意すると、グロウに一礼するとむくれるラピスを回収して去っていくのだった。






 非殺傷性の弾丸を受けたリリの鎧は纏っていた『エナジー』ごと弾けるように消え去った。

 しかし、駆け抜けてきた勢いまでは消えることは無く、グロウへぶつからんと慣性のまま突っ込んできた。グロウはシールドの構えを解くとリリを優しく抱き止めると、次いで身を低くしシールドを頭上へ構える、上空から迫り来る黒い矢の衝撃に備え、歯を食い縛る。

 直後、シールドを支える左腕に強い衝撃が走った。

 それに呼応するように、グロウの周囲で三つの爆撃が為され、爆発に弾け飛んだ泥と瘴気に身体を煽られた。


「……終わったかな?」


 顔を上げたグロウは、周囲に敵に成り得る存在がいないことを確認する。

 リリはグロウの手中にあり、泥人形はいつの間にか消え去っていた。遠くで『キティチーム』と教祖が戦う戦闘音が聞こえるが、周囲は静かなものであった。


「殲滅ではなく無力化を選んだのね?」


 カノ・セイフがしゃがんでグロウとリリを見詰めていた。

 その顔にいつもの不適な笑みは無かった。


「私達のマスター。貴方は優しすぎるわ」


「分かってる。アヤさんも同じことを言うさ。怒られるのは覚悟の上だよ」


 グロウは苦笑しながらリリを見下ろす。

 『エナジー障害』を患った痩せすぎの少女は、丁度目を覚まして見上げていた。そして囁くような声で問いかける。


「あれ、私は何を……?」


「心配しないで。もう大丈夫だから」


 グロウは努めて優しく笑顔を作り、リリの頭を撫でる。

 この無邪気な少女の行った凶行を思うと胸の中にしこりのようなものを感じてしまうが、それとは別に彼女を教祖の行使した『催眠』から解放できたことに安堵の吐息を漏らした。


「お兄さん? 何でそんな悲しそうな顔してるの?」


 本当に何もわからないように小首を傾げるリリに、グロウは胸を締め付けられる思いをした。


「マスター、休んでる暇は無いわよ」


 返答に困っていたグロウだったが、セイフを見た瞬間に戦闘がまだ終わってないことに気付いた。

 幼女を構成する『エナジー』が酷く乱れ、自身の体内で暴れ狂っている様子が目に入ったのだ。小さな身体のあちらこちらに亀裂が入り、そこから黄緑色透明のゲル物が吹き出している。

 人間だったら大量出血で既に命は無いだろう。


「セイフ!?」


「私達よりも、あっちの方を心配して」


 事も無げに告げるセイフの指差す方を見ると、そこには驚愕の光景が広がっていた。

 教祖と戦闘しているはずの『キティチーム』の面々、それを束ねるアヤ・ライトニングが、膝を着いて暴走する自身の『エナジー』に苛まれていたのだ。

 怪人と化した教祖が、その様子を愉悦に満ちた表情で眺めていた。


「お兄さん、何か変だよ……?」


「うん、けど、何が起こってるんだ……?」


 何事も起こらないグロウとリリは、お互いに顔を見合わせるのだった。


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