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メモリー44

 グロウ・イェーガーは空となった薬莢を『カミラ』に増設されたボルトを引くことで排出する。と同時に、チャンバー内に残留していた『エナジー』が白煙のように噴出した。

 グロウの放った弾丸は、実弾を『エナジー』でコーティングされていた。

 『エナジー』を防御に使う相手に被弾した時、コーティングの『エナジー』が防御の『エナジー』と反発し合うことで一部分に穴を空ける。そこを弾丸が通過することで、『エナジー』の防御を無効化し直接相手にダメージを与えることができるのだ。

 リリのツーハンデッドソードは刀身に黒い瘴気のような『エナジー』を纏い、威力と強度を向上させていた。しかし、その『エナジー』を破れれば、後は鉄製の刀身が待つのみだ。

 刀身が全く未知の鉱物である可能性もあり賭けではあったが、見事にグロウは刀身を砕くことができたのだった。

 バレルから『エナジー』が消え去ったことを確認したグロウは、次弾をバレルに納めボルトを元の位置へ戻す。チャンバーに銃弾を装填すると、無感情に砕けたソードを眺めるリリへ銃口を向ける。

 それに反応した彼女はソードを放り捨てると、次いで漆黒のリカーブボウを手中に呼び出した。

 弓だけで矢は無い。

 しかし、彼女が弓の弦を引く動作をすると、黒い『エナジー』で編まれた矢が出現した。

 構わずグロウはリカーブボウを無力化すべく弾丸を放つ。同時に彼女も矢を放ち、マゼンタ色の『エナジー』を纏った弾丸と漆黒の矢は中空でぶつかり合い相殺したのだった。


「マジかよ! もう対策された!?」


 グロウは先ほどと同じ要領で空の薬莢を排出したところで、悪寒に促されるようにシールドを構え直した。

瞬間、凄まじい衝撃が左腕を襲う。


「――――ッ! これ不味いって!」


 グロウは体内のカノ・ルージュに『加速』の『キャスト』を行使させ、超高速で連続して放たれる矢から逃れる。

 大きく横に逸れて駆け抜けるグロウの背後の泥濘に、黒い矢が突き刺さる。すると、矢から『エナジー』が溢れ出して黒い火炎を上げながら爆発した。

 一撃で被弾した物を溶かしてしまうほどの威力を持った爆発から逃れるように、更にスピードを上げて行く。呼応するようにリリの矢による爆撃も激しさを増し、やがて直ぐ後ろにまで追い縋るようになった。

 更にはグロウの行く手を塞ぐように、泥人形の群れが前方に現れた。

 爆撃を避けているつもりが、泥人形の方へと誘導されていたのだ。

 このままでは泥人形へ頭から突っ込むか、爆撃で身を散らすかのどちらか一つ。


「イェアリ・ク……!」


 しかし、リリはグロウへ構い過ぎていた。

 泥人形を振りほどいたカノ・リッパーが、リリの背後を取り巨大なサバイバルナイフで斬り付ける。

 流石に装甲を削ることはできなかったが、不意討ちに反応できなかったリリの横腹にナイフの刀身が命中し吹き飛ばされた。


「リッパー、やるじゃん!」


 リッパーによって背後の爆撃を気にしなくて済むようになったグロウは、前方の泥人形にのみ集中する。

 『カミラ』をショートバレルのショットガンへ変身させながら一気に距離を詰めると、至近距離で『エナジー』で編まれたマゼンタ色のショットシェルを撃ち放った。

 眼前の泥人形の腹部を貫いたショットシェルは数百というペレットを放出し、背後に控えていた泥人形を余すことなく吹き飛ばす。


「間一髪だった……」


「マスター、油断しないように」


 セイフの声が聞こえた瞬間、グロウの右足が何者かに掴まれた。

 それが倒したが直ぐに再生した泥人形と理解するより早く、どす黒い感情の奔流がグロウの中へと流れ込み始めた。

 恐怖、憎悪、怨嗟といった負の感情が掴まれた部分からグロウを蝕むように心の中を満たして行き、気が狂わんばかりの人間の悲鳴が音波とは違う形で鼓膜を震わせる。


「は、放せ!」


 『結界』を身体に纏わせていたことで致命傷を免れたグロウは、泥人形を蹴り付けることで掴まれていた手から逃れ、矢継ぎ早にショットシェルを撃ち込んだ。

 泥人形は容易く吹き飛ばされ、身体を蝕んでいた負の感情が嘘のように消え去った。


「マスター、生きてるわね?」


「生きてるけど、あれも、いや、そんな……」


「気付いたわね? けど、助けようなんて思わないことよ。ヨーグという泥に呑まれた時点で、もう二度と人には戻れない。仮に戻れたとしても、正気を保ってはいられないでしょう」


 淡々と語るセイフの言葉を聞きながら、グロウは泥人形の群れへと目をやる。

 無感情に、機械的に動く土塊に対し、悲哀の感情を抱いていた。

 あの泥人形は、彼らは、驚くことに生きた人間であった。自由を奪われ身体を変質されながらも、精神は健在で無限の責め苦を受け続けていた。死ぬことも狂うことも許されない悪逆と贖罪の泥の中で、彼らは苦しみ続けているのだ。


「残酷過ぎる……」


「そうね。残酷過ぎるわ、本当に」


「リリがやったんだよね?」


「えぇ、そうでしょう。恐らく、教祖に誑かされたとは思うけど、最終的には自らの意志で為した所業よ」


「何が彼女をそうまでに追い込んだんだ? 彼らはリリに、何をしたんだ?」


「考えるだけ無駄なことよ、マスター。教祖の言葉を借りたくは無いけど、真に恐るべきは無垢なる者。リリは貴方の思うような被害者ではなく、打ち砕くべき悪なの。……覚悟を決めなさい」


 グロウはリリへと目を向ける。

 リッパーと斬り結ぶ彼女に、初めて言葉を交わした時のような無邪気さは感じられない。


「僕は……僕は…………」


「マスター、全ての罪を私達が背負うわ。私達はそういう存在なの。だから、貴方は苦しむ必要などない」


 セイフがそう告げた瞬間、グロウの体内で別のカノが蠢動した。

 巨大にして凶悪なカノは、グロウの保有する『エナジー』のほとんどを費やして顕現しようと蠢いている。

 グロウは静かに腰に手をやり、弾帯から一発のライフル弾を抜き取った。


「マスター……」


「君に責任を全て押し付けるなんて、そんなことはできないよ」


 グロウの決意にカノの蠢動が止まる。

 それと同時に、リッパーの胴体が黒いバトルアックスによって横なぎに両断された。


「イェアリ・ク……」


 無念の込められた声を発しながら、リッパーは黄緑色のゲル物となって消え去った。


「見てて。これが僕の決断だよ。きっと君達は気に入らないだろうけど」


 グロウは『カミラ』へライフル弾を装填すると、即座に発砲する。

 『エナジー』でコーティングされた弾丸は、リッパーを倒して油断したリリのバトルアックスに命中。先ほどのソードと同じく、アックスは粉々に砕けて壊れた。


「見てるわ、マスター。きっと私達が気に入る方法で無くとも、私達はグロウ・イェーガーを否定しない」


 次いで『カミラ』のボルトを引いて薬莢を排出する。

 その間、リリがリカーブボウを喚び出し、黒い矢をつがえる。

 グロウは『加速』の『キャスト』を用い、高速でライフル弾を装填した。それとほぼ同時に引き絞られた弦から矢が放たれ、弾丸と見紛うほどの速度で撃ち出される。

 しかし、矢はグロウの方ではなく天高く撃ち放たれた。何のつもりかは直ぐに分かり、矢は空中で四つへ分裂すると、グロウ自身と周囲へ着弾するように空中で軌道を変えた。

 直後、リリがランスを成形しグロウを串刺しにせんと駆け出した。

 直撃コースの黒い矢を撃ち落としてもリリの刺突に貫かれ、逃げようにも分裂した矢により爆撃される。


「――――ッ!」


『加速』の『キャスト』を行使している中であれば、放たれた矢を撃ち落とすことは可能であった。

 しかし、グロウはただシールドを構えて待つのみであった。

 やがて黒い矢とリリの矢がほぼ同時にグロウを射抜かんとした瞬間、一発の銃声が轟いた。

 瞬間、リリの纏う鎧が弾けるように消え去った。


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