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メモリー4

 グロウ・イェーガーはアサルトライフルに備えられたフラッシュライトの明かりを頼りに、地下水道を歩いていた。

 グロウが前衛、アヤ・ライトニングが後衛という図だ。

 何故、グロウが先に立っているかというと、狭い空間で素人に援護射撃されて背中を撃たれては困るからとのこと。恐らく、信用されていないと思って間違いないだろう。


「表向きは療養施設ってなってるけど、本当の目的は儀式の生け贄を集めるための『教団』の施設なの」


 背中にアヤの声を聞きながら、暗がりを進んでいく。

 先頭に立って歩く見返りに、状況の説明をしてくれているのだ。どういう取引だと反発したかったが、少しでも自分の置かれている状況を理解したかったグロウは大人しくしたがっていた。


「『教団』って、名前は無いの?」


「『教団』が名前よ。特定の名前を付けないことで、他のカルトに隠れることができたわけ。おかげで追跡が大変だったわ。ようやく本拠地まで突き止めて、教祖まで特定できた。千載一遇のチャンスだったのに」


「返り討ちにあってたね」


「正直、あそこまで厄介とは思わなかったわ。あの『キャスト』、人間だけじゃ到底扱えない。何か善からぬモノを、体に宿してるわね」


 アヤの言葉に教祖が行使した『キャスト』を思い出す。

 水を用いた『キャスト』ばかりだが、人を貫くほどの鋭い水の刃に、分身、転移、半魚人の召喚など並大抵の『ウィザード』では扱えないものばかりだ。


「そいつらは、僕に何をしたの? 殺されかけたのは確かだけど」


「そうね。私も予想外だったんだけど、おそらく貴方はーーーー」


 不意にアヤが言葉を切った。

 疑問に思わずとも、グロウも気付いた。

 暗がりの奥、ライトの光が届かぬほどの奥で、何かが蠢いた気配を感じたのだ。

 静寂が地下水道を満たす。

 グロウは慎重に指を動かし、セレクターをセーフティからセミオートの位置へ移動させた。カチリと乾いた音が静寂を震わせたその時、何かが牙を剥いて暗がりより飛び出してきた。


「また半魚人か!」


 ライトの中に映ったその怪物は、先ほどの半魚人で間違いなかった。

 しかし、先ほどとは違い妙に黒くて曖昧で、まるで影のようである。

 グロウは反射的にトリガーを引き絞り、突撃してくる半魚人の先頭を狙撃する。弾丸は通用するようで、半魚人は霧のように霧散した。

 背後ではアヤも同じくサブマシンガンでバースト射撃を加え、怪物の群れを確実に倒して行く。

 それでも半魚人の勢いは止まらず、やがて鼻先まで迫り生臭い臭いが鼻腔を刺激した。


「マジかよ!」


 グロウは掴み掛かろうと迫る半魚人にライフルに備えられた銃剣で横薙ぎに斬り裂き、左右から伸びてきた腕を掻い潜って次々と迫る半魚人へ銃撃と斬撃を加えていく。

 しかし、それを上回る数の半魚人が暗がりから溢れ出てくる。


「前進して突破しろ」


「冗談でしょ!?」


「この先に広間があり、奴等はそこで召喚されている。そこを叩かない限り、この状況は改善されない」


「ったく、最悪だ!」


 グロウは空になったマガジンを交換すると、意を決して前進を始めた。

 捉えようと伸びる腕を避け、前方を阻む胴体を斬り裂き、飛び掛かってくる化物を銃撃する。そうして化物の軍勢を突破し、確実に前進していく。


「ちょっと、待ちなさい!」


 背後でアヤの声が響くが、止まってしまっては包囲されてしまうため駆け抜けるしか無かった。

 構わず通路を駆け抜けるグロウは、急に視界が開けて驚いた。先ほど言われた広間に出たらしく、その中央には『魔法陣』が描かれており、今まさに半魚人が産み出される最中であった。


「あれか!」


 グロウはすかさず『魔法陣』へ弾丸を数発撃ち込んだ。

 すると、陣形を維持できなくなった『エナジー』が霧散し、召喚の『キャスト』が無効化された。同時に影のような半魚人も消え去り、地下水道には再び静寂が訪れた。


「実体の無い『エナジー』の塊だったのか……」


 『魔法陣』の残骸を眺め、グロウは半魚人の正体を理解する。

 『召喚』の『キャスト』は誰でも使えるものではない。特に別の世界や時代から実体を伴った『魔物』を召喚することは、優秀な『ウィザード』でも生け贄を捧げてようやく一体召喚できるほどだ。

 教祖の人並み外れた『召喚』の『キャスト』を見た後だったから感覚が麻痺していたが、あの数を召喚し制御するのは不可能だ。

 頭数だけ揃えるなら、その影を『エナジー』で投影し使い捨てにする『投影』の『キャスト』を使う方が遥かに効率的だ。


「勝手に『魔法陣』が描かれるわけはない。どこかに『ウィザード』が居るはずだ」


「油断するなって? 忘れてるかもだけど、僕は一般市民だからね? ドンパチはそっちの仕事ーーーーん?」


 ふと違和感を覚えたグロウは、周囲を見渡す。と、背後で足音を殺しながら近寄る気配を感じた。

 振り返ると、アヤが訝しんだ表情で立っていた。


「急に走り出して、貴方、何のつもり?」


「何って、君が先に行けば『召喚』の『魔法陣』があるって……」


「そんなこと言った覚えは無いわ」


「けど、じゃあ誰が……」


「それ、本当に私の声だった?」


 確かにグロウは女性の声を聞いた。

 しかし、アヤの声かと問われれば、似ていたが違っていた気がする。この空間女性の声がすれば、先入観でアヤの声と判断してしまったのだろう。

 困惑するグロウの眼前まで歩み寄ったアヤは、肩越しに破損した『魔法陣』を見やる。


「的確に起点を撃ち抜いてるわね。それも教えてもらったの?」


「あぁ、いや、僕は『キャスト』を使えないけど、『キャスト』に関しては人より勉強してるから」


「そう、勉強熱心なのね。その戦闘能力も、人より勉強した成果かしら?」


「戦闘の訓練は、一応やってたんだ」


「一応? 歴戦の勇士みたいな戦闘能力だったけど?」


 問いに答えようとして言い淀む。

 グロウは今日が初陣だ。しかし、全く怯みもせずに行動できていた。まるで自分とは別の何かに突き動かされるように、戦いに身を投じていた。


「僕に何が起こって……?」


「貴方のような状況に陥った人を何人も見てきたわ。貴方の中に、化物が巣くっているの。そいつは貴方を乗っ取るか利用するか、悪いことは言わないわ」


 そう言ってアヤは刀の柄に手を掛けた。

 何をしようとしているのか、直感的に理解する。


「化物なんてものじゃない」


 不意にあらぬ方から声がした。

 グロウとアヤは同時にそちらへ視線を向けると、いつの間にか白装束に身を包んだ教祖が立っていた。


「彼の中には神が宿っている。それは彼に叡知を授ける存在だ。決して害を為すものではない」


 教祖は笑みを浮かべ、グロウを見る。

 その不気味な笑顔にグロウは警戒心を強くするのだった。

●アヤ・ライトニングのモデル

 The 3rd Birthday の主人公アヤ・ブレア

  →めちゃくちゃハマったゲームから名前を拝借してます

  →性格はポニテ美少女をイメージした時、明るく快活な印象になったのでそっちを採用しました

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