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メモリー37

 アヤ・ライトニングは四輪駆動車に揺られつつ、端末に表示させた誓約書を眺め頭痛を覚えていた。

 それはアヤの部下達、『キティチーム』のメンバーも同様である。

 カノ・ラピスの挨拶は明らかに宣戦布告だった。

 彼の邪神の主であるグロウ・イェーガーは、アヤに釈放の手配を受けた上に、装備や補給物質を都合してもらっていることに対する感謝の念から、自らの立場を無意識にアヤ達より下に位置させていた。それはアヤの目論見であり、いざ教祖と戦闘になった際、コントロールするための布石でもあった。

 グロウを操れれば、必然的にカノも掌握できる。

 カノは主に忠実であり、常に主の利益のために行動しているからだ。

 しかし、カノは違った。

 カノは主の行動制限を取っ払うべく、分からぬところで外堀を埋めていたのだ。

 あの宣戦布告はただの言葉に在らず、しかして言霊ですら無かった。単なる事実を淡々と述べていたに過ぎないのだ。


「アヤさん、その、すみませんでした……」


「いいのよ、いいの。相手が上手だったってだけで、レンちゃんが責任を感じる必要は無いわ」


 隣に座るレン・カミサキが申し訳なさそうに視線を下げている。

 レンもカノの術中にはまった被害者の一人だ。

 彼女は幼女のカノ、カノ・セイフが持つ庇護欲を刺激する謎の能力に侵食され、グロウに隠していた重要情報や機動車両の在り処を露呈させてしまっていた。

 彼女がグロウへ人知れぬ罪悪感を抱いている点に、上手く付け入った結果でもある。


「レンちゃんの失態なんて、私の読み違いに比べれば可愛いものよ。まさか、私の預かり知らぬところでこんなことになっていたなんて、カノという存在を甘く見ていたわ…………」


 アヤの手元の端末に表示される誓約書は、何度読み返しても頭痛の種でしか無かった。

 内容は、グロウ・イェーガーが行う行動に関するあらゆる誓約を法的に免除し、如何なる場合においても何の制限も受けないというふざけたものであった。

 実質、グロウとカノに対する治外法権のようなものだ。

 それが政府高官、それも名だたる政治家の連名により保証されてしまっていたのだ。しかも、『キティチーム』は全面的にグロウの支援を行うことを明記した命令書付きだ。


「カノめ、ここぞとばかりに情報を利用したわね。はぁ、政治は苦手だってのに……」


 カノは自らの中に取り込んだ『ウィザード』の情報を最大限に利用し、グロウが優位になる状況を作り上げた。

 秘密裏に、こちらの監視の目を盗んで、すべての事を為したのだ。

 この程度のことは、お茶の子さいさいなのだろう。

 グロウさえ抑えれば邪神も抑え込めると思い込んでしまったアヤの落ち度である。


「まぁ、いいんじゃ無いですか? 結果的にですけど、あのアルビノ坊やと邪神を味方に付けられたんですから」


 助手席の男性が気を利かせて言葉を発した。

 確かに状況は当初の予定と違えど、目的は達している。グロウはアヤの監視下に置かれ、カノもまた叱り。


「で、実際のところどうです? あの坊やは使えるんすか?」


「あの子一人じゃ能力は低い、って思わない方がいいわ。報告書の通り、立ち回りは凄腕と言わざるを得ないわ」


「そうは見えなかったんですがね……。カミサキ、お前、あいつの同級なんだろ? どうなんだ?」


 不意に話を振られたレンは、身を強張らせた。

 彼女にとっては思い出すに辛い過去なのだろうと、事情を知るアヤは理解した。


「正直、戦う姿なんて想像も付かなかった。いじめっ子から逃れるため、いつも図書室に入り浸っては『キャスト』の参考書を読み漁ってる印象しか無かったし」


「ふぅん、それが本当なら、随分と変わったもんだな」


 男性は後方を走る車に視線を送る。

 カノの一人、カノ・ルージュが運転する四輪駆動車だ。カノとグロウが乗車していることは、言うまでもない。


「いずれにせよ、戦力としては申し分無いわ。でないと、無茶して部隊にスカウトなんてしないわ」


「本当に無茶しましたね? 聞きましたよ、その『聖剣』を担保にしたって」


「えぇ、失敗したら『聖剣』は正式に政府の管理下に置かれることになるわ」


 男性とのやり取りに、レンが目を丸くした。


「本当ですか!? 何でそんな約束を!?」


「『教団』の信者か否かを見分けるより、明らかな敵対者を味方に付けた方が確実性が高かったってだけよ。『ウィザード』なら感情よりも先に合理的に物事を考えなさい」


「けど、失敗したら『聖剣』を没収されるのですよね!?」


「失敗したら、私もグロウもカノも死ぬことになる。成功か死か、その二択しか無いなら、『聖剣』を担保にするなんて大したハードルにならないわ」


 我ながら血も涙もない選択だと苦笑する。

 敵か味方かを見分けるために、敵の敵を頼るなんて自らの首を締める結果しか無い。

 しかし、今回の件で『教団』の関係者は意外と身近にいることを理解した。名簿にはアヤの旧知の知り合いの名前もあるほどに、『教団』の教えは広まっていることを実感した。

それにしても、『禁忌術式犯罪対策局』の内部からの摘発者が異様に少なかったことが気掛かりだ。そういう局であるから少なかったと思いたいところだが、ミイラ取りがミイラになるなんて日常茶飯事。

 カノの蛮行を鑑みるに、何らかの意図が絡んでいることは明らかだろう。

 いずれにせよ、敵味方を区別するよりグロウとカノを頼ったことは間違ってはいなかったことが、不幸中の幸いと言えよう。


「ん? 何だ?」


 不意に運転手を担当する男性が声を上げた。

 視線は窓外へ向けられており、その先には夕暮れの茜色に染まる空に黒点のように映る三機の兵員輸送用のヘリコプターがあった。


「航空支援? ライト指揮官、そんな話は聞いてませんよ?」


「あれはうちのヘリじゃ無いわ。『国家安全保障局』の実働部隊よ」


「方角から向かう先は『シープヒル』ですね」


「ニコル・カミンスキーの一件や高官達の一斉検挙で信用はがた落ち。せめて『教団』を壊滅させて、信頼回復を目論んでるんでしょう」


「うちも言えたことじゃ無いですが、色々と足りませんぜ」


「そうね。――――総員、聞こえる? 『国家安全保障局』が『シープヒル』へ向かってるわ。一足先に彼等の方が『教団』と交戦に入るでしょうけど、生存者を見付けたら出来る限り回収してあげて」


 無線機を通して部隊へ残酷な通達を行う。

 『国家安全保障局』の実働部隊は、軍や警察の特殊部隊から選抜され構成されている。決して無能などではなく、むしろ敵に回したくないほど強敵だ。

 しかし、邪教や邪神を相手取るには、いくら訓練しようと、高性能な装備で固めようと無駄なことだ。

 残念だが、全員が帰還できる望みは薄いだろう。


「せめて人として弔ってあげたいけど…………」


 そう告げた言葉は無線機には乗せなかった。

 遠ざかっていくヘリコプターの機影を眺めつつ、彼等の最期が安らかであることをアヤは束の間祈った。


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