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メモリー34

 『教団』の信者が次々に発覚した。

 政府組織の官僚から大手企業の重役、テレビに引っ張りだこのタレントなどの有名人から、警察官や軍人、果ては未成年の少年少女まで、『ミドシティ』の住人のほとんどが信者なのではと錯覚するほどの人数が『禁忌術式犯罪対策局』の参考人リストに名前が記載された。

 カノの捕食した信者から抽出した情報をもとに、局員が裏取りを行った結果である。

 大半は邪神を崇拝しているだけであったが、一握りは邪神を『召喚』するために生け贄として殺人を犯したり、立場のある人物は『教団』の冒涜的な行為を隠蔽するために動いていた。

 そう言う人物のみ別の罪状で逮捕され、それは『ミドシティ』を様々な理由で騒がせる切っ掛けとなった。


「罪状は違えど、『教団』の信者がこれだけ摘発されたんだ。何かしらアクションはあるだろうね」


「えぇ、時間は無いわ。直ぐにでも出撃したいよ」


 グロウ・イェーガーはアヤ・ライトニングの尽力とカノの情報提供、ドクター・ヨハンソンの計画書によって無事に牢獄から解き放たれ、アヤの部隊へ臨時で入隊することとなった。

 アヤの部隊、『キティ隊』は明け方には出撃すべく準備を進めているが、グロウは『キティ隊』とは別に、ドクターの研究室に立ち寄っていた。

 ドクターの設備でカノ・スペックが開発した装備を受け取るためである。


「グロウ、カノはこの先だ」


 ドクターは研究室の奥の扉を指差す。

 プレートには試験室と書かれていた。


「試作品の試験をする部屋だ。ちょっとくらい騒がしくしても、こっちには分からないぜ」


 何やら意味深にサムズアップをするドクターに呆れ顔のアヤという構図をを横目に、グロウは試験室へ足を運ぶ。


「グロウ、集合は三十分後よ」


「了解」


 アヤの言葉に短く返答し、グロウは試験室の扉を開いて中へ入る。

 中は思いの外広く、様々な設備が整然と並べられていた。

 入り口に近い場所ではカノ・ラピスが装備品の一覧を並べていたが、グロウの姿を確認すると深々とお辞儀をする。


「ラピス」


「イェアリ・ク。我等がマスター、お久し振りにございます。このカノ・ラピス、マスターの命に全力で応えるべく、ご注文の装備をご用意いたしました」


 厳かに語るスペック。

 見慣れた目のやり場に困るビキニアーマーでなく、白いニットの長袖にジーンズ姿をしていると、また違った魅力があるなと場違いにもそんなことを思ってしまった。

 グロウは笑顔で応えると、ラピスの目の前に設えられたガラス製のテーブルへと歩み寄る。


「君の能力を疑うまでもないよ。さぁ、始めて」


「イェアリ・ク」


 早速と言わんばかりに、ラピスは手元に置いていた『エナジー式ハンドガン“カミラ”』を手渡す。

 『カミラ』は黒いボディに赤いラインが走るような意匠の変化が見られる以外に、ボルトアクション式ライフルのような給弾と排莢を行うボルトが右手側に増設されていた。


「先ずは『カミラ』の改良型をお試し下さい」


「改良というより再設計した感じ?」


「流石はマスター。改良前の『カミラ』はマスターとの相性が悪く、『エナジー』の循環効率に問題が生じていました。そちらを改善し、連射性能を向上しています」


 グロウは『カミラ』を手にして試し射ちを行うべく試射場へ足を運ぶ。

 射撃位置に着くと射撃態勢を取り、セーフティを外してトリガーを引き絞る。連動して銃口よりマゼンタ色の『エナジー』で形成された弾丸が射出された。

 違いは直ぐに分かった。

 身体から『エナジー』を吸い取られる感覚は同じだが、チャンバーへ次弾が装填される速さが実感できるほどに上がっている。

 次いで標的へ向かい、ダブルタップで銃撃した。二発のマゼンタ色の光弾が、寸分違わず人の形に設えられた的の胸部を穿つ。


「コンペンセイターを装備し、反動を抑えています。バレルの冷却システムも新調したことで、グルーピングは格段に向上したかと」


「トリガープルが軽くなったね」


「少し調整いたしました。片手でも十分に扱えるかと」


 ラピスの言葉通り、片手で連射してもブレが少なかった。

 何発か発砲することで感触を確かめたグロウは、セーフティをかけ直して彼女のもとへも戻る。


「お気に召されましたか?」


「いいね、いい感じ。このボルトは何の役割が?」


「『エナジー』が切れた際、実体弾を使用できるよう設えました。ボルトアクション式を採用することで構造的な脆弱性を廃止し、ハンドガンでライフル用の銃弾を使用することができるようにしています。バレルとマズルを共通化することで本体が肉厚になることを防ぎ、重量変化もほとんど無いはずです。ただし、バレルはハンドガンの物を使用していますので、射程に期待は為されませんようご注意下さい」


「なかなか面白い機構だね」


「遊び心と捉えていただきければと」


「そういうの好きだよ。けど、『カミラ』は君がいなければ、ただのハンドガンだ。もっと火力が欲しいかな。見た目で威圧できるようなやつ」


「それでしたら、『スカーレット』をお試し下さい」


 そう告げるとラピスは黒いアサルトライフルを差し出す。

 『教団』の施設の地下水道でアヤから渡されたアサルトライフルに酷似しているが、マガジンの大きさが全く違っていた。


「七・六二ミリのアサルトライフルです。防弾ベストも貫けるよう、銃弾はアーマーピアシングに改良しています」


 グロウはチャージングハンドルを引いたり、マガジンリリースボタンを押したりと操作感を確かめる。

 マガジンやチャンバーに弾薬は入っておらず、あくまで動作確認だけに留まった。

 操作感はアヤから渡されたアサルトライフルと類似しており、特に気になる点は無かった。


「スコープの倍率は四倍?」


「中距離に対応できるようにしております。近距離は右側にオフセットしたアイアンサイトをご使用下さい」


 説明を聞きながら『スカーレット』を構えスコープを覗き込んだり、左に倒したりしてサイトの具合を確認する。


「まぁ、近付かれると僕は弱いんだけどね」


「そうでしょうか? マスターは近距離戦闘がお得意かと?」


「…………あぁ、そう言えばそうだね」


 『エナジー障害』を患うグロウは『キャスト』による防御手段が無いため、基本的には距離を取って戦いたいと思っている。が、これまでの戦歴を思い出すと、化物と肉薄することが多々あった。

 不本意ながら、近距離戦闘の腕もそれなりに磨かれているようだった。


「他にご注文はありますでしょうか?」


「そうだね、ラピスのオススメは?」


 苦々しい思い出を振り払うように告げると、ラピスは端正な表情に不適な笑みを浮かべる。


「私共のオススメは、『メンズフォーマル』です」


 そう告げて取り出したのは、黒を基調とした紳士服であった。

 どこからどう見ても普通の紳士服であるそれを、ラピスは恭しくグロウの前に広げて見せる。


「普通の服? あ、何かのブランド? ごめん、僕ってファッションに疎くて…………」


「こちら、私共のオーダーメイドです。記事に『キャスト』による加護を施し『エナジー』による攻撃に対応するのみに留まらず、裏地にタングステン複合材を用いることで物理的な攻撃にも相応の耐久性を発揮いたします」


「なるほど、普段使いできる防具ってことか」


「イェアリ・ク。ぜひ、我らがマスターにご試着願いたく」


 ラピスの頼みに断る理由の無いグロウは、『メンズフォーマル』と名付けられた物の中からジャケットを手に取る。

 触り心地や重量は、一般的なそれと同じだ。

 用途を説明されなければ気付かないだろう。


「かなり軽いね。まるで普通の布と同じだ。複合材って言ってたけど、他の材料って何?」


「イェアリ・ク」


「…………ラピス?」


「イェアリ・ク」


 ラピスはただ笑みを浮かべていた。

 直感的に聞かない方がいいとグロウは思い至り、黙ってジャケットを羽織ることにした。


「なるほど、機能性も優れてるし通気性も良い。素晴らしい装備だよ。流石はラピス」


「お褒めに与り光栄です」


「ところで素材はーーーー」


「イェアリ・ク」


「…………なるほど」


 結局、素材は教えて貰えなかったが、満足の行く装備を設えてもらったグロウは他にも幾つか装備を紹介してもらった。

 そして集合時間が近付いてきたことを確認すると、ラピスを連れて実験室を後にするのだった。

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