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メモリー27

 通路に隊伍を組んで進行を阻ぶ兵士が八人。

 各々が備えるアサルトライフルから放たれた弾丸は、何らかの『祝福』を受けたものであり、アヤ・ライトニングのような『祝福』を受けた者にとっては天敵となり得る代物であった。

 致命的では無いにせよ、十分に注意して対策を取るべき脅威である。

 しかし、グロウ・イェーガーはそんなことなどお構い為しに、ホームベースを引っくり返したような形状をした黒いシールドで弾丸を受け止めつつ兵士達の隊列へ突撃をかけた。

 その勢いのまま、先ず正面の兵士をシールドアタックで弾き飛ばす。次いで反応した両サイドの兵士の銃撃をかわすように身を低くすると、左サイドの銃撃をシールドで防ぎつつ右サイドの兵士へ『カミラ』ハンドガンで銃撃。瞬く間に三人の兵士をほふった。

 残る左サイドは、グロウの後ろにピッタリ着いてきていたアヤが不意を突くように飛び出し、『聖剣ミズキ』を二振りし四人を斬り捨てた。


「良い太刀筋だね」


 グロウはそう告げながら最初に弾き飛ばした兵士へ、二発の『エナジー』で生成された弾丸を撃ち込み鎮圧する。

 アヤは刀身に飛沫したわずかな血痕を振り払い、『ミズキ』を鞘へ納める。

 兵士を斬った時に理解した。

 てっきり人間でいることに堪えられなくなったウィザードが変異した『魔人』の類いかと思っていたのだが、この兵士達はただの人間だ。

 彼はただの人間を、手際よく殺害したことになる。


「よし、移動しよう」


 周囲に敵影が無いことを確認したグロウは、足早に通路を進んでいく。

 殺人に対して動揺も狼狽も見せない。

 まるで作業の一貫と言わんばかりに、次の目標のため行動している。


「驚いた。貴方、人を殺せるのね?」


「ん? もしかして、君の世界の僕は人を殺せない?」


 アヤはグロウの後を追いながら問い掛ける。

 しかし、返ってきたのは問い掛けであった。


「そうよ。貴方が手加減したせいで、余計な戦闘に巻き込まれたわ」


「そいつは申し訳ない。けど、人を殺さないに越したことは無い。っていうか、大抵の人間は人を殺さないで人生を終えるもんさ」


「時と場合に寄るわ。私達のような非日常を生きて超常的な存在を相手にする人間は、人を殺せないと世界を滅ぼすことになる。個人を殺して世界を救えるなら、安いものでしょ?」


 簡単な算数だ。

 一を見捨てることで六十億を救えるなら、誰だって迷い無く取捨選択する。

 いつだって誰だって天秤の重い方を救って軽い方を見捨てて、そうやって世界を維持してきたのだ。

 それが人間社会のシステムである。

 いや、自然の摂理と言って過言ではない。


「その考え方は間違っている」


 アヤの言葉を、グロウは迷い無く否定した。

 殺人を躊躇い無く実行できる彼は、アヤの知る彼では無い。が、やはりグロウ・イェーガーはどの世界でも同じようだ。

 甘ったるい考え方を捨てきれていない。


「そう思ってるから、君はそんなにイラついてるんでしょ?」


「は?」


 しかし、思いがけない言葉にアヤは困惑してしまった。


「私がイラついてる?」


「その『聖剣』に選ばれた者の宿命として、世界の『裁定者』として害ある者を斬り捨てて来たんだろう。それこそ機械装置の如く、ね」


「知ったようなことを…………!」


「知ってるよ、僕も同じだからね。ーーーーけど、君は僕と違って優しい人なんだろう。だから、多数を救うために少数を犠牲にする考え方を受け入れ切れない。ずっと痛んでるんでしょ、ここが」


 グロウは自らの胸を拳で叩く。

 指摘されて初めて気付く。

 心にできたささくれのようなものが、明確な痛みとしてアヤを苦悶させていたのだ。しかし、アヤはその事実を受け入れるわけにはいかなかった。


「そんなこと無い! 私はーーーー!」


「おっと、次が来た!」


 抗議の言葉を遮ったグロウのシールドが、『エナジー』による砲撃を防いだ。

 見ると何もない空間から『ウィザード』が四人、通路を阻むように現れた。

 『エナジー』を粒子状に散布し光を屈折させることで姿を隠匿する『隠密』の『キャスト』だ。

 不意打ちを狙ったのだろうが、グロウはアヤと喋りながらにも関わらず看破し、見事に攻撃を防いだのだった。

 『ウィザード』達は次々に『キャスト』を行使し、火炎や光弾など様々な攻撃が飛来する。


「甘い!」


 グロウはシールドを構えつつ、『カミラ』から光弾を撃ち放つ。

 それらは相手の攻撃の合間をすり抜けて行き、四人の『ウィザード』を撃ち貫いた。

 残るは攻撃の『キャスト』だが、尽くをシールドで防ぎ切り傷一つ付くことは無かった。


「お次だ!」


 その言葉の通り、『ウィザード』に変わってまた兵士が現れた。

 今度は十人以上で隊伍を組み、アサルトライフルだけでなくライトマシンガンやアンチマテリアルライフルを備えている。放たれる弾丸は全て『祝福』を受けており、アヤはとっさにグロウの背中に隠れた。

 それを確認するよう肩越しに視線を投げた彼は、シールドで弾丸を防ぎつつ前進を試みる。が、先ほどとは段違いの弾数に強力な弾丸の一撃が容赦なくシールド表面を叩くため、その歩みは遅々としていた。


「ーーーー! グロウ、グレネード!」


 後ろで待機していたアヤは、兵士の一人がフラググレネードを投げようとしている様を目にした。

 流石にシールド一枚で防ぐには荷が重いだろう。

 グロウは『カミラ』を構え、投擲体勢に入った兵士を狙撃。頭を撃ち抜かれた兵士はグレネードを足元に落として倒れ、数秒後にはそれが隊列の中心で爆発。

 兵士を一掃した。が、その後ろから増援の兵士と『ウィザード』の混成部隊が現れる。


「随分と手厚い歓迎ね?」


「この先に命がけで守る重要なモノがあるんだよ。落ち着かないから、話しの続きは任務を終えてからね」


 そう告げるとグロウはシールドを構えたまま突撃を開始した。

 アヤは黙ってその後ろに続き、十分な距離まで接近した瞬間、二手に分かれそれぞれが敵を殲滅していく。

 薄暗い通路に斬撃と銃撃が響き渡り、数分の内に死体で埋め尽くされることになった。

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