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メモリー19

 体が螺旋状に捻れた信者、スピナーは左腕を槍状の武器に変化させ、それを高速で撃ち出した。

 グロウ・イェーガーを狙った一撃。

 槍は弾丸ほどではないが超高速で飛翔し、グロウを穿たんと迫る。

 間一髪、カノ・スペックがグロウを抱えて跳躍しそれをかわした。


「僕を狙ってる!?」


 廃病院の邪神ゴルゴーンとその眷属はともかく、『教団』はグロウを生かしたまま捕獲し儀式の生け贄にするつもりだったはず。

 しかし、スピナーは明確にグロウの急所を攻撃してきた。殺すつもりなのだ。


「イェアリ・ク。奴らに意思は無い。自らの体を贄に超人的な存在へと昇華させたイカれだ。攻撃に対して反応しているだけに過ぎない」


「貴方がきちんと殺しておかないから、こうなるのよ」


「そんなこと言われても…………って、奴ら?」


 スペックが複数系を使ったことに嫌な予感を覚えた。

 次の瞬間、あらゆる方向から槍がグロウを串刺しにせんと飛翔した。またもやスペックのおかげで回避できたが、スピナーが複数体姿を見せた。

 全員、グロウが『カミラ』で銃撃した信者らしかった。


「こうなったら戦うしかないわよ。グロウ・イェーガー、その武器をスタンモードから変更なさい。でないと、今度こそ死ぬわよ」


「分かってるよ」


 グロウは『カミラ』の射撃オプションをスタンモードから通常モードへ切り替える。と言っても特別な操作など無く、そう頭で想像しただけだ。

 アヤ・ライトニングを救出する際、グロウに信者を殺害する度胸など無かった。

 怪物を殺すことはできても、殺人だけは倫理観が拒否してしまっていたのだ。その拒否反応はとっさの判断を鈍くしてしまうため、人を殺さない『エナジー』によるスタンで作戦を遂行したのだ。

 相手が普通の人間ならそれで問題無かったが、人に擬態した化物となれば話しは別だ。

 見事に窮地へ追い込まれてしまったと言うわけだ。


「スピナーは計六体。全員、化物だったのかよ」


「スピナー?」


「こいつらの名前。他にあるの?」


「名前なんてどうでもいいわ。ともかく、切り抜けるわよ」


 アヤはどこからか刀を喚び出し、鞘から抜き放って銀色の刀身をスピナーの一人へ向ける。

 スペックはサブマシンガンを装備し、グロウは『カミラ』を構える。


「一人三体、邪神様ならヤれるでしょ?」


「イェアリ・ク。マスターもいる、百人力だ」


「アンタのマスターがどれだけ役に立つか分からないけど、足だけは引っ張らないでよ。坊や」


「坊や?」


 次の瞬間、アヤとスペックが動いた。

 二人とも『加速』の『キャスト』を用い高速で動き、ヒットアンドアウェイを繰り返しスピナー六体を翻弄する。

 二人はそれぞれ三体ずつのスピナーを受け持ち、斬撃と銃撃で牽制しつつ的確に致命打を与えていった。

 息の合った戦闘に、グロウはこの短期間で二人の間に芽生えたコンビネーションに舌を巻いた。

 スピナーもやられっぱなしではなく、鋭い槍を振り回し二人の攻撃に追随するように反撃する。が、その戦力差は歴然であり、スペックとアヤに軍配が挙がるのは時間の問題であった。


「これは、僕の出番は無いかな……?」


 そう思って傍観に徹していたグロウは、不意に頭上からおぞましいほどの悪意を感じ横っ飛びに回避した。直後、何かが落下しグロウが居た場所を穿った。

 七体目のスピナーだ。


「まだ居るのか!?」


「マスター!」


「こっちで何とかする!」


 グロウは『カミラ』を構え、銃撃を開始する。

 七体目がどこから現れたのか分からない。もしかすると、教会から先に逃げていた信者が変異したのかも知れない。いずれにせよ、二人が六体のスピナーを受け持っている最中、その攻撃の輪から外れたこの個体はグロウが相手取らなければならなかった。

 マゼンタ色の光弾が銃口より矢継ぎ早に放たれ、スピナーへ襲い掛かる。が、スピナーは左手の槍で『エナジー』の弾丸を全て弾く。

 それは予想できていた。

 次いでグロウは駆け出し、銃撃を加えつつスピナーへ接近する。

 防戦一方の化物は、グロウが懐に入り込むまで防御を解くことができなかった。

 肉薄した瞬間、スピナーが腕を横薙ぎに振るう。が、動きが単調であったため避けるに易く、グロウへ無防備な捻れた体を晒すこととなった。


「いただき!」


 至近距離で放たれた殺傷力の上げられた『エナジー』の光弾は、スピナーの体に幾つもの穴を穿った。

 あっという間にスピナーを片付けたグロウ。

 動かなくなった化物を警戒することしばらく、やがて息を吐いて銃口を下げた。


「へぇ、やるもんね」


 振り返るとアヤが傍まで寄っていた。

 その背後にはスペックも居り、さらに後ろには倒された六体のスピナーの亡骸が転がっていた。

 グロウが一体倒している内に、二人はその三倍の数を倒してしまっていたのだ。実力の差に、少し辟易としてしまう。


「見直したわ、グロウ・イェーガー」


「あぁ、まぁ…………」


「貴方は警戒して然るべき存在のようね」


 そう告げながらアヤは刀を鞘へ納めた。

 今のところ敵対する気は無いらしいが、味方になるつもりも無さそうであった。

 一時的な協力関係、アヤとスペックがそうであるように、グロウともその様な関係性であるつもりなのだろう。


「我らが主、移動しよう。他のカノも集めて」


「うん、そうだね」


 スペックに言われるまでもなく、グロウはカノ・セイフとカノ・リッパーへ召集を掛けるべく『念話』を飛ばしていた。と言ってもグロウは『エナジー障害』を患っているため『キャスト』は使えないため、カノに対する限定的な特殊能力である。

 次の瞬間、アヤが何かの接近を検知した。

 それは白い霧の中をゆっくりと痙攣しながら歩く黒い影であった。


「あぁ、大丈夫。味方だから」


 アヤにとっては違うだろうが、その影はカノ・リッパーであった。

 彼女は霧の中から姿を現すと、アヤへ一瞥をくれつつグロウのもとまで歩み寄る。

 アヤは警戒しつつも、刀は抜かないでくれていた。


「イェアリ・ク…………」


「お疲れさま、リッパー」


「イェアリ・ク…………」


 リッパーは体を痙攣させつつ片膝を着く。

 グロウへの忠誠を示しているようであったが、実際は違った。


「私達のことも忘れないで欲しいわ」


「セイフ、忘れてたわけじゃないよ。敵の増援は来なさそう?」


「霧が深くて何も見えないわ。まぁ、この霧は自然現象じゃ無いんだけどね」


「そんな気はしてた」


「あら、もう少し驚いて欲しかったのだけど」


 リッパーの背中にカノ・セイフがしがみついていた。リッパーにここまで運んでもらったようだ。

 セイフはよいしょっと地面に降りると、役割を終えたと言わんばかりにリッパーは黄緑色透明のゲル物へ変化しグロウの中へと戻って行った。

 今さらながら、邪神が自分の体を出たり入ったりしているのに全く健康への被害が無いことに驚く。『精神汚染』の弊害くらいはありそうなものだが、グロウはいつにも増して落ち着いていた。


「貴女ーーーー!」


 不意にアヤが声を上げた。

 彼女はまるで幽霊でも目の当たりにしたような驚愕の表情を浮かべ、セイフを見詰めていた。


「何かしら?」


「いえ……いえ、他人の空似みたいね」


 そう言って自嘲するような笑みを浮かべた。

 アヤの様子は気になったが、それよりも移動しなければならなかったために、グロウ達はとりあえず信者達が利用しようとしていた車を拝借し、町を出ることにした。

 グロウにとっては、ようやく『教団』の支配領域から脱する機会を得られて、ほっと胸を撫で下ろしていた。

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