メモリー14
グロウ・イェーガーが施設に入居して間もない頃、時折、廊下を駆ける女の子を目撃した。
五歳くらいの子で、何かしらの難病を患っていると思われるが、いつも元気そうに走り回っていた。
この頃、グロウは既に『エナジー障害』の症状で『エナジー』がかなり蓄積されており、高熱などの症状に悩まされベッドから起き上がれず、女の子の姿を開け放たれたドアから見ることが日課のようになっていた。
しかし、グロウが儀式に利用される数日前から、女の子の姿を見ることは無くなっていた。元気そうであったので施設から退去したと、そんな楽観的な考えで女の子の幸せを願ったりしていた。
ただの一度も話したことのない女の子は、他人と言っても差し障りは無い。けれども、そのハツラツでいて眩しい笑みを、グロウはよく覚えていた。
少なくとも床に散らばったカルテの中から、彼女の顔写真を見付け出せるほどには記憶することができていた。
「…………倒す!」
グロウは駆け出す。
複数のラミアと処刑人が真正面から迫るが、お構い無しに猪突猛進する。
戦闘のラミアが異様に長く鋭利な爪で突き刺そうとするが、それを紙一重でかわし胸部へ『カミラ』の銃口を突き付け至近距離で発砲。二発撃ち込み、確実に倒す。
倒したラミアの背後から別のラミアが迫るが、単調な攻撃なために最初と同じく紙一重でかわし頭部にマゼンタ色の弾丸を撃ち込み屠る。
そうやって全ての攻撃を紙一重で避け、ラミアに対しては少ない手数で確実に倒しながら前進していく。
問題の処刑人も頭部はラミアほどの強度しかないことは確認済みのため、刃を避けて懐に入り込めば容易に対処できた。
そうして前進するうち、ゴルゴーンとの距離が徐々に詰まっていく。彼の邪神からしてみれば、獲物が自ら近くに寄ってくるのでこれ以上に都合の良いことは無いだろう。
その凶悪な面相の口角がニヤリと吊り上げる様子をグロウは見て取った。
「笑ってんのも今のうちだ」
『カミラ』を魔物達へ撃ち込みつつ、グロウは頭の中で必殺の一撃をイメージする。
ゴルゴーンの表皮は鋼鉄よりも固い。
カノ・ラピスの放つ『キャスト』を無傷で堪えきる程の強度だ。ならば、それを貫通する威力を持つ攻撃を仕掛ければ良い。
そのグロウの意思に呼応すべく、右腕から黄緑色半透明のゲル物が滲み出てきた。カノの一部であるそれは、右手に握る『カミラ』を包み込み別の形へと変化させていく。バレルが延長しストックが追加され、全体的に巨大なフォルムへ変貌し肩掛けしなければ保持できないほどの重量となった。
「セイフ、ルージュ! 援護しろ!」
「イェアリ・ク! 任せな!」
「分かったわ!」
グロウの指示を受け、二人のカノが防御に回る。
具体的に何をするかも伝えていないが、感覚的に理解してくれたようだ。
そんなことを頭の片隅で考えつつ、グロウは巨大化し最早ハンドガンからアンチマテリアルライフルか対戦車用ランチャーへ変貌した『カミラ』を構え、左側にセットされたスコープを覗き込む。
ゴルゴーンの頭部、口の部分へ照準を合わせていく。と、ゴルゴーンは巨大な『魔法陣』を描き、ラピスを消し飛ばした『エナジー』の砲弾を放つ。
「させない!」
カノ・セイフが『エナジー』の障壁を何重にも重て造り、砲弾を阻む。
十秒と持たず一枚一枚が突破されていくが、グロウが攻撃の準備をするには十分だった。
照準を定めトリガーを引こうとした瞬間、ラミアと処刑人が躍りかかって来た。
「邪魔すんじゃないよ!」
カノ・ルージュがショットガンで魔物を駆除する。
ゴルゴーンには力不足だが、小物に対しては絶対的な脅威となるルージュ。安心して背中を任せられる。
「マスター、早く!」
やがて『エナジー』の障壁が全て消し飛ばんとした一瞬前、グロウはトリガーを弾いた。
同時にグロウの中に蓄積していた『エナジー』のほとんどが『カミラ』へ吸収され、その全てがマゼンタ色の光弾へと姿を変えて銃口より射出された。
大容量の『エナジー』が圧縮された高濃度の光弾は、ゴルゴーンが放った『エナジー』による砲弾へぶつかるやそれを霧散させた。驚くべきことに光弾は威力を失うことはなく高速で飛翔し、ゴルゴーンの頭に直撃し、上半分を毛髪の蛇ごと吹き飛ばした。
「どうだ……見たか…………」
狙い通り化物の頭を吹き飛ばしたことを確認したグロウは、急激に『エナジー』を消費した反動で行動不能に陥るほどの疲労感に襲われ、その場に突っ伏すように倒れかける。
その体を支えたのは、褐色肌にエルフ耳、ビキニアーマーを装着した艶かしい見た目の美女だった。
「ラピス…………」
「イェアリ・ク。お見事にございます、マスター」
カノ・ラピスの豊満な胸元に顔を埋めながら、グロウは笑みを浮かべた。
それはゴルゴーンに勝利したことより、ラピスにまた会えたことへの歓喜の笑みであった。
見れば巨大化変形した『カミラ』は元のハンドガンに戻っており、ラピスがグロウの意思に応えてくれたのだと感覚的に理解した。
「よし、ラピス! そのまま旦那を守ってろよ!」
そんな脱力するグロウをよそにルージュが駆け抜けて行った。
気付くと、頭の上半分を失くしたゴルゴーンが、足元に『魔法陣』を描き『自己再生』の『キャスト』を行使していた。損傷箇所がみるみる修復されて行き、完全に戻りまで後数秒といったところであった。
「マジかよ……何だよ、あれは…………」
あれこそが邪神。
人智を超越した存在であり、決して人間が敵うような存在ではない。
『自己再生』により回復したゴルゴーンを相手に、グロウはもう戦えない。体内の『エナジー』を消費し尽くしたからだ。
仮にもう一撃、先ほどの弾丸を撃てたとしても、同じく手が二度も通じるとは思えない。
完全に手詰まりであった。
「結局、何にもできないのか…………」
「いいえ、マスター」
「ここまでやってくれれば、私達が食べるには丁度いいわ」
次の瞬間、ゴルゴーンへ向かい駆け抜けるルージュの体が黄緑色半透明のゲル物へ変化した。
「イェアリ・ク。イェアリ・ク」
それはカノの本体だった。
言葉をかわし共に戦い心を通わせたことで忘れてしまっていたが、ここにもう一つの邪神があったのだった。
カノは急激に増大していき、ゴルゴーンすらも越える巨大なゲルへと急成長する。そして四方へ大きく広がり、黄緑色の巨大な女性の顔を形成すると、回復する寸前の邪神をその巨大な口で丸呑みしたのだ。
「邪神ゴルゴーン! その邪な力、私達が貰い受ける!」
セイフが大きく宣言すると共に、ゴルゴーンは完全にカノの中へと取り込まれてしまった。
何事か理解の及ばないグロウをよそに、しばらくうようよと地面を這っていたゲル物が急速に収縮していき女性の姿を象った。
カノ・ルージュがそこに立っていた。
「目標、達成ね」
セイフは満足げに言葉を紡いだ。
そう言えばと、そもそもゴルゴーンを倒す目的とはカノが食べるためであったと思い出す。
確かに目標は達成されたが、その咀嚼風景を目の当たりにしたグロウは、呆然とするほかに無かった。
カノ・ルージュのモデル
カントリー娘で姉御肌なお姉さんをイメージしてます
→名前はストライクルージュから抜粋してます
→ゾンビに強いショットガン娘です




