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メモリー10

 ラミアの群れは早々に駆逐され、グロウ・イェーガーと三人のカノは一息吐く。

 ほとんどカノが圧倒的な火力をもって殲滅したためグロウの出番など無いに等しかったが、撒き餌にされた身としては精神的な疲労は否めなかった。


「さっさと移動するよ」


 新たなカノが指揮を執るように一行は移動を開始する。

 相変わらずラピスが先導を行き、その後にグロウとセイフ、最後尾にブルネットのカノが続く構図だ。

 先ほどの戦闘が嘘のように、通路は不気味に静まり返っていた。


「なぁ、旦那」


 不意にブルネットのカノに声を掛けられた。

 気付けば直ぐ後ろまで来ており、そばかすの似合う整った顔立ちに人懐こい笑みを浮かべていた。


「どうしたの?」


「アタシら、この個体にも名前を付けてくれよ」


「名前?」


「ほら、ラピスとかセイフってやつ。アタシらだけ付けてくれないのって、何か不平等じゃん?」


 先ほどは名前など無意味と言っていたカノとは思えないカノの個体の一つだが、グロウは束の間思案する。


「えっと、そうだね。君はルージュ、かな」


「ルージュか。いいね、サンキュー!」


「無駄口叩いてないで、警戒に戻りなさい」


「了解、ラピス」


 カノ・ルージュと名付けた個体は弾けんばかりの笑みを浮かべ、後方へ戻っていった。

 不思議そうに見送るグロウに、カノ・セイフが補足するように言葉を紡ぐ。


「私達は全て一つの個体から派生してるけど、それぞれに個性はあるの。姿形が違えば、趣味趣向も違うもの。楽しいでしょ?」


「同じ個体でも喧嘩するの?」


「喧嘩とは違うわ。マスターも経験無いかしら? 本来やるべき事があるのに、サボったり別の事をやったりして自分を叱り付けたくなることって」


「あぁ、あるね」


「それと一緒で、感覚的には自分を諭しているようなものよ」


 そんなものかと、グロウは無理矢理に得心する。

 納得しようがしまいが、どうせ人智を超えた存在であるため理解できるはずがないのだ。

 そんなセイフはグロウと手を繋いで歩いていた。この個体はグロウから離れようとしないため、必然的に守るような行動を取ることになる。つまり、片手は常に塞がるし、いざというときは身を呈してしまうということだ。

 非常に危険だし動きづらい。


「そう言えば、急にラミアが消えたね」


「えぇ、予想以上に子供の数を減らされて打ち止めになったのでしょう」


「あの蛇人間の親玉が勝てないと見越して撤退を指示したの? 随分と理性的だね」


「そうでもないわ。子供の数が足りなかったため、打ち止めにせざるを得なかったのよ」


「どういうこと?」


「そのうち分かるわ」


 蠱惑的な笑みを浮かべるセイフ。

 秘密の多さにうんざりするグロウだが、非難の声を上げたところで何も解決しないと思い、黙って通路を歩いていくことにした。

 やがて一行は、入場制限の表示がされたドアの前まで辿り着いた。

 施設利用者の中でも、特別な権限が無いと入れない区画のようだ。ドアの脇には『エナジー』を測定する器機が取り付けられており、対応する『エナジー』の波長でないと解錠されない仕組みとなっている。しかも、無人となった今でも術式は稼働していた。

 『エナジー』は全ての人間がそれぞれ別の波長を持っているため、部外者のグロウやカノが対応しているわけがない。


「ここに用があるの?」


「そうよ」


「けど、僕たちじゃ開かなそうだ」


「イェアリ・ク。そうでもありません」


 そう告げると、ラピスがドアの方へ歩み寄る。

 すると、褐色肌のビキニアーマー姿の女性が黄緑色のゲル物へ変化。次いでゲル物が変身し、ラピスとは別の女性の姿を象った。

 その姿にグロウは反射的にハンドガンを構える。


「待て、マスター。私達は敵ではない」


 青いローブを身に纏った『ウィザード』が、両手を上げて敵意の無いことを示した。

 とは言え、グロウの目の前に居る女性は、教祖と一緒に現れグロウを捕縛しようとした女性『ウィザード』で相違無かった。


「一体、どういうこと?」


「説明したでしょ? 私達は取り込んだ相手を完全に模倣することができるの」


「取り込んだ? つまり、この『ウィザード』を喰ったのか?」


「まぁ、そういうことね」


 セイフの説明に眼前のカノが不適に笑む。


「イェアリ・ク。この女は不敬にも我等がマスターに抱き付くなんて真似をした。生かしておく理由など無い」


「だから、丸呑みにしたんだよ。転移の瞬間に、な」


 グロウが転移させられそうになった瞬間、『ウィザード』を捕食した。

 あの瞬間、鳴き声が聞こえたのはそういうことだったようだ。


「それで、この施設や『教団』に詳しかったんだね。捕食した相手の記憶を、そのまま受け継いだんだ」


「その通り、おかげでこんな芸当もできる」


 『ウィザード』のカノはドアに歩み寄ると、『エナジー』を検知する装置へ手を翳す。

 すると、承認されて頑強に閉ざされていたドアが自動で開いた。


「『エナジー』の波長までコピーできるんだ……」


「便利だろ? さ、中のお宝を戴くとしよう」


 唖然とするグロウの背中を軽く叩き、ルージュは意気揚々と部屋の中へ足を運ぶ。


「さぁ、マスター、こちらへどうぞ」


 『ウィザード』からラピスへ姿を戻したカノが、恭しくグロウを先導する。


「入りたくはないけど」


「ここで突っ立ってるよりはマシよ」


「まぁ、そうだね」


 グロウは意を決してカノ達と共に部屋の中へ足を踏み入れた。

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