敵と侵入(1)
退院してから半月。
俺は退屈な生活を送って居た。
本当であれば、クインと青春をするために今事、拠点捜しをして居る筈だったのだが。
交換した電話番後は、ずっと電源が切れたまま。 見舞いに行っても、門前払いされる日々である。
「社交辞令だったのか」
クインの顔を思い出すと、そうでは無いと思う。
「じゃあ、何かがあったのか」
解らない。 こんな事ならクインが自殺未遂を犯した理由を聞いておくんだった。
「今日も、見舞いに行こ。 今日は何のフルーツにするかな」
俺は、日課になった見舞いの為に、クインが住む豪邸へ向かった。
★★★
「ちわーす」
クインが住む、緑銅院家。 その入り口に立っている警備員に声を掛ける。
「今日も来たのか」
「この屋敷に戻ってすぐに、誰にも会いたくないって、部屋に閉じこもってるんすよ。 気になって」
「だからって、門前払いされているのに毎日来るか普通」
「約束もありますし」
「約束ねぇ。 反故にされてんのに、健気過ぎだろう。 ちょっと待ってろ」
警備員が、無線を使って会話をし始めた。
「やっぱり、帰ってくれだそうだ。 お嬢も何を考えているんだろうな」
無線を使った会話が終わると、何時もの様に門前払いされた。
「じゃあ、何時ものように、これ渡しといときますんで」
俺は、来る前に用意したフルーツを警備員に渡す。 ここまでが、日課になってしまった。
本当に、クインはどういしたのだろうか。
「わかった。 すまねぇな。 本当はお嬢と会わせてやりてぇんだが、お嬢が会いたくないって言っているなら、俺には如何する事も出来ねぇ」
警備員は苦い顔をして、心苦しそうに言った。 警備員もクインの事を気にはなっている様子。
「いや。仕事なんすから、仕方なですって」
クインを気にかけている人は多いってのに、一体、クインは何をやってるんだ。
モヤモヤとした思いが立ち込める。
「じゃあ。 今日は帰ります。 また明日来ます」
「ちょっと待ってください」
俺が、帰ろうとした時、敷地内から声を掛けられた。
「誰?」
声の方を振り向くと、小柄なメイドが立っていた。
「椛じゃあねぇえか」
警備員から椛と呼ばれた彼女は、走って来たの荒い息をしている。
「えっと、椛さんでしたっけ。 何か御用ですか」
「お嬢様…をたす…助けてなの」
息も絶え絶えに、椛さんはそう言った。
★★★
俺は、警備員室に通された。 話をするなら使えと、快く通してもらえた。
「それで、椛。 お嬢を助けてくれってどういう事だ」
「その前に、確認したいの。 フルーツの人が、ケイさんで間違えないの?」
フルーツの人。 俺ってそんな風に思われていたんだ。
「えぇ。 赤木座恵って言って名前なんで、多分、俺の事っすね」
「じゃあ。 やっぱりおかしいなの」
「何がおかしんだ。 椛」
警備員が、眉をひそめ椛に問い詰ている。
「ケイさんのフルーツ。 お嬢様に届く前に捨てられてるの」
「それって、確認前って事か」
「そうなの」
「はぁ。 おかしいだろう」
「ちょっと、待ってください」
えっ。 俺が持ってきたフルーツが捨てられてるのか。 それに、何処がおかしいのかが解らない。
「悪い。 悪い。 あんたには解らないよな」
「うっかりなの」
「どんな嫌いな人からの贈り物でも、届いたことを伝えて、確認を取ってから処理するのが決まりだ」
「それをあの爺は、お嬢様に確認を取る前に捨ててたの」
どういう事だ。 よくわからない。
「つまりだ。 『届いたもの全部捨ておいて』ってお嬢が先に命令してても、勝手に捨てるなんて事は許されないんだ」
「届いたことを伝えて。 それから確認をとってから処理するの。 たとえ、主人から、煙たがられてもそれがルールなの」
「つまり、ルールを破ってるって事は、何か疚しい事があるかもしれないって事」
「そうなの」
うーん。 理由としては弱くないか。 でも、おかしい可能性がある。
「主人に報告するような事では無いけど、おかしいから、俺に助けてくれって事っすか」
「そう言う事なの」
なるほど。 納得がいった。
「でも、どうするつもりだ。椛」
「正面突破」
「いや。 無理だろう。 執事長が許さねぇよ」
「そうっすね。仮に、会いに行けたとしても、会ってくれるかどうか。 毎回、門前払いされてますし」
「いや、それは解らないぞ」
警備員は顎に手を当てて、考えている様に続ける。
「会いたくないって言うのは、執事長伝手に聞いてるだけだからな。 お嬢が本当に言っている証拠はねぇよ。 むしろ、お嬢は、あんたが来ている事すら知らないかもしれないぞ」
「それは、あり得るなの」
「ほぉぉん」
無性に、執事長に対して苛立ちが沸いてくる。 確証も無いが不思議だ。
「どこっすか。 クインが居る場所は」
「あそこなの」
椛は窓から顔を出し3階の角部屋を指さした。
「なるほど。 あそこっすか」
「待て待て。 如何するつもりだ」
「いやぁ。 クイン本人に聞くまでの話っすよ」
「つまりは、侵入するつもりか」
警備員の顔が厳しくなり。 『あー。 うー』とうめき声上げる。
「解った。 今回だけだ。 今回だけ見逃してやるが、どうやって会いに行くつもりだ」
「アレぐらいの壁ならの登れるっすよ」
「なんでだ」
「ちょっとした、一発芸って奴っす」
一度見たものは大抵出来るのだ。 それが、例え映画で見たアクションでもだ。
「まって。 私も連れて行く事は出来るの?」
「あー。 多分可能っすが、来るっすか」
「もちろんなの」
「くれぐれも、怪我だけはすんなよ」
警備員は見送ってくれた。