#064 ━結末━
「今から全て話すよ……僕のこと——
僕はここの世界で大学生だった。
大学生を名乗るのもおこがましいくらいの落ちこぼれだった。
どうせ僕なんか。
将来のこともこれっぽっちも考えていない。
考えたく無い。
だけど親にも迷惑かけたく無い。
だからずっとしたく無い勉強を無理に頭に入れてきた。
身についているとは言えなくて、
なんでこうなるのか、なんで上手くいかないのか、
打ち明けれなくて、頼れなくて、いつも諦めて終わる。
だから講義もついていけず、分からないまま。
課題はウンザリするほどだ。優しくない。
社会からは甘えだとか怠慢だとか言われるだろう。
モチベーションも無ければ環境も良くはない。
何かになるのは怖かった。
何もしたくなかった。
何もできなかった。
奴隷のように働くのは想像できなかった。
お金ってそんなにいいものなのだろうか。
無ければ生きていけない。そんなことぐらいわかる。
でも働き過ぎて死んでしまう人がいる。環境が合うかも分からない場所でなんて、
イメージ出来なかった。
そんなくらいなら……。
変な目で見られるのも嫌だ。わがままだ。
生きている意味あるのかなぁ、と思うようになった。
無気力で何もかも熱意を失ってしまった。
学校には行けなかった。もう足も踏み入れたくない。自分のせいでこうなったのに。
学校に通うフリをして色んなところに行った。漂うように。
何か答えが無いか探し続けた。でも、視野が狭くなっていた僕には見つけられなかった。
嫌なこと、嫌いなことから逃げ続けた。現実逃避に夢中だった。
今度もまたできないんだ。みんなのようにはなれないんだよ。普通、ですら遠いんだ。
辛いという言葉だけじゃ辛さは伝わらない。
悩み、苦しみ、圧迫感から解放されたかった。
やめちまおうか何もかも。
こんな奴必要ないんだ。馬鹿が一人居なくなる。地球も僅かにマシになる。
無気力で体が重くて考えるのも疲れて、正しいことも分からない。自分の心はブレブレで、ヒビだらけで霞んでいたんだ。
でも、そんなある日だった。
僕は今日を命日にするために自転車を漕いでこの屋上を選んだ。
そして今、君に手を掴まれた。
死ねなかった。
でも思い切って今こうやって君に話している。泣きじゃくりながら曝け出している。
このクソ野郎な僕を見つけてくれて、引っ張ってくれて、嬉しかった。
どうしてだろう、死にたかったはずなのに。死ねなかったのに。
やっとの思いで衝動的に踏み出した一歩を掻き消されて、嬉しいなんておかしくないか?
次いつ死ねるか分からない、でも僕は今生きているんだよ。」
今まで言葉にしていなかった思いを今無理矢理繋げた。長く、酷く、乱雑に。
それでも心は真っ直ぐだった。
「自分の心を虐待しないであげて。キミ自身を大切にしてよ。」
虐待か。何で気に入らないと攻撃しちゃうんだろう——。
「毎日、一日が始まるのが嫌だったんだ。今日も同じ気持ちでここに来たんだ。」
「そうだったんだね。話してくれてありがとう。キミに会えて直接聞けて良かった。」
「はぁ……僕がこんなこと喋る時が来るなんて……」
「辞めちゃいなよそんなこと……。」
「そんな……簡単に言われても……。」
「命を投げ打つ覚悟があったのなら、簡単でしょ?違わない?」
……。
(そんな——)
(辞めちゃいなよ——か。)
そこまで切れ味のある言葉が降りかかると思わなかった。
「キミなら出来るよ」とか「大丈夫だよ」みたいな安直だけれど、温かい言葉をかけてくれると思っていた。
僕自身を信じてあげれなかった僕がかけて欲しかった言葉なのかも知れない。
「困れ、恥ずかしがれ、そんな姿を見せれる人間になれ。」
「……ああ、うん。」
動揺したままの僕に、心に響く言葉をもらえた。
「大丈夫だ。キミならなれるよ。」
「そう言ってくれて嬉しい……。出会ってくれてありがとう……見つけてくれてありがとう。」
僕の心の底からの言葉だった。
「キミは私たちに優しく接してくれた。見ず知らずでお互い混乱していたけれどすぐ打ち解けれた。ここにいるのもキミのおかげなんだって。」
「キミが人間らしく動く姿を見てきた。私のところまで駆けつけてくれた。光線から私を庇ってくれた。友達を心配してくれた。だから私はラノハクトの人工現実でありのままを伝えた。ずっとキミから生きようとする意思を感じていた……死なせてはならない、失ってはいけないって強く感じた。このままだと絶対後悔するって。後悔しながら生きていたく無いって。」
「僕でも役に立ててたんだ。」
「キミを本当に救えるのはキミしかいない。」
「だからキミを救って欲しい。」
「そうだよ、どんな背景があっても、一生残ったとしても、変わらず暮らしていけるよ。」
「自分を信じてあげて欲しい、認めてあげて欲しい——。大丈夫。」
(信じるとか認めるとか考えれなくなった……のは、いつからだろう。)
考え事をしているとニオはこの屋上からの景色を眺めていた。
「私この空の色、気に入っちゃってさ。」
「また、もう一度見たかったんだこの星のここの景色。」
「私帰らなきゃ……ラノハクトに。知らなかったフリをしてまたあの日常に。記憶は無くなっちゃうかもしれないけれど。」
(僕も忘れたくない、ニオにも忘れて欲しくない。)
「君との出会いを忘れないように。これ。」
見せたくなかった顔を背けながら、御守りをまた……渡した。
ニオは空のボトルをくれた。
「これで忘れないよ!」
背後に回り込み、笑顔を見せてくれた。
僕は少しずつ前を向いて生きていこうと思えた。
この経験は何にも代えられない。
死んだ僕とは違う生き方をしていきたいな……。
言ったことで心の中の何かが変わった。
お別れは辛くなかった。
……
人が居なくなった学校。日が暮れたあの道を帰る。
(この世界ってこんな綺麗だったんだな。)
風に吹かれ、拭き切れなかった涙を感じながら。
不器用で適当ですぐ落ち込む。誇れるようなことなんて成し遂げていない、僕自身上手く操作できていないけれど、それでも生きていたんだ。
今まで生きてきた自分に申し訳ない——。
そう感じられるようになっていた。
(ただいま……)
家に着いた。家を出て一日も経っていないのに何日ぶりのように感じた。
あっという間だった。
やっと生まれたような気分だ。
おやすみ。僕は生まれ変われたよ。
6月15日から毎日投稿を続けて64話「結末」にて『うつうつつ』は完結しました。
『うつうつつ』をこれまで読んで下さった方、これから読んで下さる方、
本当にありがとうございます。感謝。
本作では病の当事者である方でもそうでない方でも楽しんで頂けるよう、
自分なりの思いや経験をを交えながら、自分なりの言葉で物語を書き進めていきました。
「うつ」は要因が人によって違い、一概に一括りで表せない難しい問題でありながら、
条件が重なると心が疲れて「誰にでも」起こり得るものです。
とある人にとっては効果的な言葉、対応であっても、別の人にとっては違うんだよなぁと思う部分があると思います。
物語の構成が積み重なっていく内に、直接的な表現を避けるため、本来のテーマであった「うつ」とは随分と遠回りに関連するようになったり、突飛な要素と絡まってしまいましたが、もう少しだけ生きてみようと思える「糧」となるちょっとしたヒントを物語の中に散りばめているつもりです。
だからこそ一文にじっくり時間をかけて読んで貰えたら嬉しいのです。
私の書いた文章で救われる。なんて大層なことは思ってはいませんが、ほんの少しでも勇気づけれたら、和らいだらと思いながら書いていました。
そしてこれは初めて私の書いた作品であり思い入れもあるので、
個人的にこれからも単語、表現、間隔の修正は納得するまで行いたいと思っています。もちろん物語の筋道を大幅に変更をするつもりはありません。
あくまで未熟な部分に対する「アップデート」です。
本作品はここで一旦終了となりますが、次作『私がキミを殺すとでも?』という作品へと繋がっていきます。どうやら『うつうつつ』の「裏側」の視点……。みたいな作品になる予定だそうです。
気楽に生きていきましょう。ではまた。




