#061 ━救済━
とてつもない上空から飛び降り、何処までも……風を切る。
瞬く間にトリアンドルスが離れていく。
(やっぱり、でかいなぁ……)
バッシャーン!
音を立て、大きな水飛沫が上がり、視界が泡だらけになる。
「え?水じゃん」
塩辛いものが口の中へ飛び込む。
(っ……!)
(足、背中、耳、どこも痛すぎる……)
死ぬ前の空が綺麗すぎて、最後に目に焼き付けておきたかった。
……から、ちゃんと下をよく見て無かった……。
(えぇと、冷静になれ……。)
(どういうことだ?)
(ここは海……か?)
あんな別れ方をしといて、これはダサすぎる……
海の上ではボトルを壊せないし、
ボトルを壊さずに溺れ死ぬのは違う気がする。
(詰んだ……?)
幸い、ボトルのおかげで海の上で浮けているので、このままどうにか漂い続けて陸に辿り着き、そこで、こいつを壊せる……のを期待するしか無い。
水面への落下の衝撃で体を動かすと、ものすごく痛む。
このボトルにしがみついた体勢なら痛くなく、ちょうど良い感じに顔を出せる。
(何だよこの格好……最期までこんなって、どれだけ情けなければ気がすむんだ?僕の人生は?……)
そういえば、ポケットの中でスマホが水の泡になっている。
これでどうにかボトルを叩けないか?
「ガンガンッ」
……まるでダメなようだ。こんな状況では割れる気配は無い。
遠くに島が見える……あそこに辿り着ければ……
ある程度波に身を任せ少しずつ近づく……
(もう少し、もう少しなのに……)
(目の前に陸がある、でもまだここから時間がかかりそう……)
波に揉まれ食らいつくこと一時間くらい。ようやく砂浜にたどり着いた。ここまで諦めなかった。何か工事をしていたのだろうか、海岸から微かに重機の原型がわかる。
立ち上がる事すら叶わない。奥にあるコンクリートはどろどろに溶けきっている。ゴツゴツした岩場まで力を振り絞って進む、限界は近い。
「はぁ、はぁ」
これを壊せば地球は元通りだ——
「よっしゃ!おりゃ!」
勢いよく叩きつける。
(待てよ?これを壊すと元の五秒に戻るんだよな……?またこの物語は繰り返されるんじゃ無いのか?——)
破片が飛び散っていく。ボトルはその中身と共に粉々になった。
一瞬過った考えは飛散したそれを無かったことにするのには遅すぎていた。
粉々に壊れたボトルは取り戻せない——。
過ぎていった時間は——?
「キーンコーンカーンコーン……」
鐘の音が響き渡る。一番大きい音で僕に届く。
フェンスを越えた僕は同時に全身の力を抜き、体を前に傾ける。最期に宙にのめり込む足が見えた。
──これで終わりだ。何もかも。じゃあね……
僕は大嫌いな自分と世界に別れを告げていた。
人生に夢と希望と奇跡が足りなかった。
そして、両足を宙につけて僕は落下した。
「い“っ!!」
(──骨がっ。)
骨の衝撃音が何度も僕の耳でループし、周りの生徒たちの悲鳴とざわつきを掻き消す。
体内がどろどろと気持ち悪い。体中が熱い、目の前が眩しい。
かと思いきや、目の前が真っ赤に染まる。
(ああ、血ってこんなに光を通さないんだ……)
(僕は本当にあの星に照らされる運命だったのだろうか?)
熱を帯びた体温は目を閉じると少しずつ寒くなっていった。
冥闇の中……何かを求め彷徨う……
「あー?あはは、おーい。」
「ん?」




