#059 ━道━
「本当に……?嘘、だよね……?」
「ごめん、嘘じゃないんだ。」
「ドンッ!」
ニオはテーブルを叩いた。
「はっ?そんなの嫌なんだけど!」
テーブルに顔を伏せ、そのまま声を荒げた。
僕はわかっていたくせに、どうすることもできないままだった。
「……僕も苦しかった。だけど、五十年もずっとここに君と僕とで拘束されてたら飽きちゃうでしょ?そんなのよりも尾を引かずにスッパリと決めたいんだ。」
「……いやいやおかしいって……。他にも……」
「僕はすでに死んでいたんだ。これ以上延命しても君に迷惑なだけだ……。」
「……私は……今の私には……」
押し切るように決断してしまった。悲惨な空気になるのはわかっている。
辛い。辛いさ。二人とも。
ニオの意見に引きづられて自ら落ち込んでしまうのは避けたかった。この道が正しいと思いたいだけかもしれないけれど。
(ごめん。少しだけ収まりの良い僕を見せたかった。最期くらいは。)
「言いたいことは……言えたかな?」
「……はい。」
「楽園凍結のような永遠の命っていうのもね、人間からかけ離れていて、なかなか難しいものなんだよ。私自身とてつもない時間の人生にうんざりして自ら命を絶った人々を目の当たりにしてきた。それは自ら凍結の解除を望んだ命の数で、地球のそれとは違うけれど。本質は変わりないのかもしれない。」
「へぇ、そういうものなんですね。」
「だから私から人の決断にどうと言うことは出来ない。」
永遠の命——か。
僕が当事者になったらどう思うのだろうか。
「最後に一つ質問をしたい。君は科学に終わりがあると思うかい?」
「科学に?無いんじゃないですか?」
「そうなんだよ。少し前まで私は終わりがすぐそこにあると思っていた。そう考えていたのは人類のほとんどは楽園凍結によって科学力に満足していて、私が目的がないまま闇雲に道を引いてきたからかもしれない。だが、宇宙遺跡の解体をしていて、幾つもの遺物から出会ったんだ。芸術に。」
「芸術には終わりは無い。その発想を科学に結びつければ永遠。そのことに私は気付いたんだ。はは、単純だろ。」
「この計画は現実世界でユートピアを実現するという科学の、私たちの唯一見えていた目標だった。」
「そうだったんですね。」
「あぁ。君に出会えて良かったと思う。思いを君たち流の行為で示させてくれ。」
彼は僕に向け手を差し伸べる。
その手を握りかえした。
これでよかったのかは……わからない。
「じゃあ、この偽物の喫茶店から出ようか。」
言い終えた彼は席を立った。ここで僕らに伝えるべきことはもう残されていないらしい。
「どうやってここから出れば?」
「そのまま息を止めていてごらん。しばらくすればここから現実へ出られるから。」
「スゥー……」
「……」
(呼吸を止めているはずなのに全く苦しくない……)
喫茶店の床に吸い込まれるように足がするすると沈んでいく。
僕が空間に染み込んでいく——
(おぉ、すごい……また知らない感覚だ……)
飲み込まれきって真っ暗。




