#058 ━決断━
渡した御守りによってニオは圧延の影響を受けなかったのか……。
そしてニオは僕をここまで導いてくれた。
「二回目の圧延直後、トリアンドルスはビームを放った。これは人間が触れたものを感知し、その物体の結合を解いて液状化するというものだ。これはこのフェーズの間はビームを放った後からでも人間が触れれば溶ける。これについては大昔に作り上げた物でも壊せるよう人間が触れたか、触れていないかという差異で検知していたので、時間圧延時に用いた括りとはまた別だった。だから君が触れたものは無理矢理溶かすことが出来た。というわけなんだ。」
「そんな仕組みだったんですね……」
(あの時の僕の考察は合っていたみたいだ。)
「もし仮にこの計画を中止するとして、彼を圧延される前の世界の住人に戻したら、ここまでの記憶は無くなって……そのまま死んじゃうってこと……?」
「そうなってしまう。」
「私たちも圧延される五秒より前の時点に戻るの?」
「ボトルを壊せば……トリアンドルスでのワープ前、地球の圧延開始前の時点にそれぞれ戻る……はずだ。」
「このまま計画を続けたとしたら……?」
「五十年後に地球は我々と共にユートピアになる……はずだ。」
「勝手に地球を……変えるの?また人々に記憶操作をするの?」
「あぁ、元々その予定だった。楽園凍結されている人々も解放される。君の両親も、ずっと前に生きていた未来に託した人々も……」
「そんなの……彼を失うのも、五十年も待った挙句美しい地球を奪うのも、どっちも嫌だよ。選べない。」
「……だから、ここにいる三人で話し合って一つ選択を決めなくてはならないんだ。無責任なのはわかっている。こんな私に少しでも罪を償わせてくれたら……」
「他に方法は……」
「この計画がここまで進んだ以上……トリアンドルスを壊して計画をリセットするか、このまま何もせず出来上がるまで待つか……だけだ。」
僕は、悪いのは彼ではない気がした。
むしろあんなタイミングで死んでしまった僕さえいなければ、とさえ思うほどだった。
「君はどう思う?」
「そんなの……」
「記憶を消されて私たちの一員になるか、元の地球で決断通り死ぬか。君の好きなユートピアを選んでくれ。」
脅迫にしてはずいぶんと寄り添うような優しい言い方だった。
「待って、まだ他に選択肢があるかもしれないでしょ……」
「私たちを楽園凍結させるとか、どうにか五十年間を過ぎさせられないの?」
「楽園凍結者たちはスカフェーナではないもう一つの衛星、「アムギス」で凍結されている。地球のトリアンドルスにいる二人は凍結出来ない……かつ、トリアンドルスはすでにフェーズが変わっていて、成熟し計画での役割を終えるまでワープは出来ない……」
「どうにか今から遠隔で修正できないの?」
「動き始めた以上、こちらから操縦も停止もできない。現時点でトリアンドルスは与えられた役目を全うすることと、コネクター等で信号を送受信することしか……そして余りに遠過ぎるんだ。地球とラノハクトは……。トリアンドルスのような最大規模の転移装置じゃ無い限り、簡単にワープ出来るような距離じゃ無い。」
「本当にこの二つしか選択肢は無いの?ねえ!ねえ!」
五十年かけて地球をユートピアに変えれば記憶は消えて僕は助かる。
ラノハクトの人たちも楽園凍結から解放されるはず——
僕はどうして……こんなに震えているんだ?
ラノハクトで見た景色を変えたかったんだろう!?
僕は生まれ変わりたかったんだろう!?
違う形で実現しそうじゃないか!
どうしていつまでも……自分を信じれないんだ!
選びたくない……我儘だけど。この中で僕が選ぶべき正解は……?どちらだ?
冷静になれ……冷静になって……胸の鼓動を……
(自分を信じてあげなよ)
そう、もう一人の僕は言った。
僕はこの物語を終わらせるべきなのかもしれない。
……いや、最初から終わらせたかった。
「僕の決断通り死なせてください!——」
「ちょっと……待ってよ……」
僕は死ぬ前の僕の決断を信じてあげた。
ニオを五十年も拘束するわけにはいかなかった。




