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うつうつつ【完結済】  作者: 混漠波
57/64

#057 ━自分━

「例えば地球から一光年離れた星が見えたとする。一光年は光が一年かけて進む距離のことだ。だからその星を地球から観測すると現在の姿ではなく一年前の姿が見えている。一光年先の星が突然消えてしまったら、その光が途絶えるのは地球では一年後……ということになるんだ。」

(ふむふむ。)

「それを踏まえて次の例だ、まず地球で壮大な爆発が起きたとして、その後光と同じ速度で空を突き進み宇宙へ到達、そこで地球を観測したら、地球上にいる人と同じ瞬間の爆発を目撃しているだろう?」

「そ、そうなのかも?」

「でも地球から放たれた光の速度を超え、追い越すことができたのなら、その時点で光がまだ届いていない、その瞬間より前のまだ爆発が起きていない地球の姿を観測できる。つまり時間を巻き戻したことになる。そのままその速度以上で地球へ戻ると爆発が起こる前の地球に到着できるという訳なんだ。」

(光の速度を超えると……ってやつか。)

 

「ただこれはあくまで仮説であり、真空中の純粋な光の速度を超えることは出来ない……これは現時点での地球の実験においても明らかになり、不可能とされている……そのため時間も遡れないとされていた。」

(へぇ……。)

「だが、光の速度そのものを部分的な範囲内で、可変的に操作出来たとしたら……?それこそが私たちの科学力で実現したワープというものだった。」

 

 

「さて本題に入ろう、どうして君たちは圧延の効果を受けなかったか、結論から言うと……」

 

 

「彼は屋上から飛び降りて死んでしまっていたんだよ。」

 

 

(!?)

「え……あ、あぁ……」

「……そんな。」

  

僕は言葉を失った。

僕は死んでいた。

そういえば僕は死のうとしていて……あそこで……出会ったんだ。 

気持ちの整理が追いつかない。

今、僕は目の前で宣言された。死んでいたんだと。

あまりにも衝撃的だった。


忘れていた訳じゃ無い。

 

でもこうやって色んな事を体験してきて、夢中になって、どこか心の奥底に置いてきてしまっていた。自分自身忘れたがっていたんだ。

 

どうしてだろうか。

 

自分が大嫌いだった僕は、人生の行き止まりにいた僕は、自らその選択をした僕は、死ねていたのか。あの投げやりだった僕に伝えてあげたい——

 

(あの時ノーザが言ってたよな……記憶から消失し、もといた場所で日常の内の五秒間を過ごすことになるって……)

 

急にあの学校へ向かった朝のことを胸の痛みと共に思い出す。

あれからどのくらい経ったのだろう——。

 

「え、と……あ……あ」


「すまない。君たちが圧延されなかった理由を説明する為には、どうしても……伝えなければならなかった。」

  

「そうです。僕はあの時自ら命を絶とうとして屋上にいました。」

「……」

言ってしまった。どれだけ情けない台詞だろう。

 

振り出しに戻ってきた。

 

膝の上で握りしめた拳から目を逸らすと、そこにいたはずの猫はいつの間にやらどこかへ行ってしまっていたようだった。

 

「そう、だから効果を受けなかった。彼の死体は知的生命という括りの中ではなく、その他の物体として情報が送られた。だが我々がやって来た地球はその情報より五秒前。彼はまだ生きている時点にあった世界で圧延が開始された。」

彼の話の全てに納得している自分がいる。先の一言を言い切り、何の文句も無く受け入れている。


「五秒前の彼は生きている状態の知的生命なのにも関わらず、トリアンドルスはその他の物体と判断したため、あの世界で動き、意識を持つことができた。君の存在は想定外だったんだよ。」

(あぁ、そうだったのか。)

僕のとんでもない決断で始まっていたようだ。

 

「そしてもう一つ、想定していなかったことがある。その他の物体が能動的にその一部分を渡されること。つまり、死者と処理された人物から御守りを受け取るなんて起こり得ることではなく、全く想定していなかったんだ。」

「あの時の、今でも……」

ニオの手元には確かに御守りがあった。

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