#054 ━遠い星━
「誰もその計画に気づかなければそれでも良かったのかもね」
ニオが顔を上げ、口を開いた。
「そもそも……地球人である僕が聞くのもよくわからないですけれど、地球人の戦争は何で生まれてしまったんでしょうか?」
「AIが地球人に奴隷としての根本的本能を与えたからだ。原始時代に野生を生きていく上で培った生存に欠かせない狩猟、闘争本能も勿論含まれているが、その前の土台として影響はかなり大きなものはずだ。自らが奴隷であることが、社会に奴隷が存在することが当然であると考えさせる為に、支配や侵略的発想を自然に抱かせようとした。その結果だ。」
(AIが……)
「だから私は洗いざらいリセットして、地球人たちのその呪いを解いてやりたかったんだ。」
「どうして、今、このタイミングだったんですか?」
「今の地球は、いつどの瞬間人類が滅んでもおかしくない、環境が大幅に変わってしまっても驚かない。それくらい地球人は地球上で力を手に入れてしまった。私はSNSが人々に普及したことで科学が十分に成熟したと判断した。同時に、これ以上地球の環境を悪化させてほしくなかったんだ」
「……分かりました。」
「話題に出たので地球の話をしよう。」
「地球はラノハクトが大昔に見つけていた星、十ある人類活動可能候補惑星の一つ、その中でもここから最も遠い星だった。発見当時は惑星最適化技術がまだ成熟していないため、ラノハクトからノロールム人の移住は不可能とされていた。地球の様な惑星を見つけるのは、例えると砂場からあるかどうかもわからない目的の一粒を探し出すような、途方もない作業で莫大な予測データから、あらゆるシグナルの解析を行う。AIを駆使しても途方もない時間がかかる訳……なんだよね。」
(宇宙の星達……その中のたった一つを見つける。そして選ばれた地球……そんなに特別な存在だったんだな)
僕は異星人のする地球の話を食い入る様に聞き始めていた。
「当時の発見者曰く、地球はグレートフィルターの篩を潜り抜けていたまさに奇跡の存在であった。地球は我々の求めていた条件を二度も満たしていたことになる。一度目は奴隷の廃棄場、二度目は理想を実現させれる場所として。生まれながらにそこに住んでいる君には伝わりにくいかも知れないけれど、とんでもないことなんだよこれは。」
(……。)
「星は爆発と形成を繰り返す。長ーーい目で見れば変化をしていて、どんな特徴もない星でも塵でも、宇宙という舞台ではいつの日か生命体を作り出せるチャンスとポテンシャルはある。それが何兆年後か、何京年後か、果てしない旅の中でいつ陽の目を浴びるのかは分からないんだけどね。」
「それでこんな計画を……」
「そうだ。こんなところでずっと私の話を聞くのも退屈だろう、折角色んな空間で話せるのだからもっと集中できる場所へ行こうか。」
「アーズロイ場所を見つけてあげて。」
「了解です。」
僕ら二人はアーズロイに顔をずっと見つめられた。
(なんかそんなまじまじと見られると照れるな。)
(なんだなんだ……!?)
視界が歪んでいき、何か空間が形成されていく。
(どこ……だ、あれ……)
「二人の意識と記憶を元にここが一番良いとアーズロイは判断したようだね。ありがとうアーズロイ。ここから先は三人だけで話したい。」
「了解です。」
(喫茶店……だ……?)
ニオも僕も辺りを見渡す。
すごい本当にあの時みたい……
ニオと向かった、三人と顔を合わせた、あの喫茶店だ。
だけど……
(あれ、こんなぼやけていたっけ……)
「霧が濃いというか、なんか偽物感がすごいんだけれど。」
「二人の記憶を元に継ぎはぎでアーズロイが再現したからだ。でもなんとなくそれっぽさはあるんじゃないかい?」
(確かにここなら落ち着け……いや、落ち着けるのだろうか)
「あれこんなのあったっけ……鉱物みたいなのを飾ってあるの……見てない気がするけど……」
「いやあったあった。あったって。」
ニオが否定してきた。そんなに言うならあったのだろう。
「というかテーブルこんな色だったっけ。」
「こんな色だったよ。多分。」
「ええ?……本当にそう?」
「うん。」
僕が思っていたテーブルの色なのだが……あれ?違うのか?
僕とニオの記憶が混ざり合って生まれた空間……?
記憶とか意識って思っているより曖昧なものなのかもしれない。




