#052 ━隙━
「それならノートの内容と合致していますね。」
「暴走と言っても、詳しくはずっと前に起きたらしい出来事で、噂しか残っていない。恐らくラノハクトの上層部以外は……もしかしたら上層部すらもわからないんだ。AIと何度もコミュニケーションをしてきた私は暴走というのはAIが何らかの手段で、第一次思考操作を含む真の歴史を当時のラノハクトの人々に言いふらしたんじゃないかと考える……まぁこれはあくまで私の思いつきの範囲なのだけれど。」
「ええと、つまり……そのAIが真実を言いふらしたからラノハクトから追放したと……?」
「現にニオラス君を含め、ラノハクトの住人はAIの存在を知らなかった、そしてこの研究所とAI、関連データが何よりも証拠としてこのスカフェーナに存在しているんだ。そういうことだ……当時のAIそのものが自発的に真実を述べたのか、もしくは誰かが述べさせたのか定かでは無いが……」
「いやいやいや、信じられない……気持ちがついていけないんですけど……」
やっぱりこのニオの様子じゃあ、教わってきた歴史とはかけ離れたものなんだろうなぁ。
(はぁ、聞いてらんないや。何なんだよこれ。)
アーズロイのどうすることも出来ない恐縮な困り顔を見つめるしかなかった。
(本当に可哀想だなアーズロイは。)
(君のご主人が丁寧に事実を話していて、ニオがそれを締め付けるような眼差しで聞いている。そんな所なんてAIである君は見たくなかったよな。)
僕も見たくなかったよ。
僕は事実を知りたかった。
事が起こった理由を。根本を。
そのために進んできた……流れに任せて漂ってきた、と言った方が正しいかも知れないけれど。
現に今、こうやって説明して貰っている。
思っている空間と違った。残念だ。と言い切れれば楽かもしれないが、それはニオにもハイドさんに対しても失礼だ。
漂着できたけれど、ただ酷く悲しかった。疲れた。心も体も。
もちろん僕はここまでの体験した全ての謎を解きたかった。真実を知りたかった。
だけれど、それを知った上で僕は何が出来るんだ?
選ばれし者でも能力者でもなんでもない。ただの被害者で漂流者じゃないか。
そんな僕を置き去りに話は続いていく。
「ここは上層部にバレないよう、トリアンドルスの仮想空間内にスカフェーナの研究室の仮想空間がある、云わば空間の二重構造という状態なんだ。そうすることによって、内側の仮想空間内での監視、解析行為が非常に困難になるんだ。惑星側の知識程度じゃ仮想空間は確認できても多重仮想空間は実態の把握が出来ないはずだからね。もちろんここはラノハクトじゃないから今のシステム上、思考統制も出来ないわけだ。」
(なるほど……はぁはぁ。難しくなってきたけれど、ある程度理解は出来る。)
「要するに、ここでの会話は向こうには聞こえていないってことで良いの?」
「まぁ、そう思ってもらって構わないよ」
「なにせこの星は人口減少に伴って科学技術が何万年前からじんわりと緩やかに発展しているからね。地球の発展速度が羨ましいよ。それでも現実を置き去りにしたユートピアンたちの楽園の方はいまだに目まぐるしく発展しているのだけれどね」
(環境がまるで違うというか、そんなもんなのか。)
「私はAIに言われるがまま“知的生命たちが暮らしているのが確定的な星の調査を生徒たちとしてみないか”という提案を実際に先生の前で行った。それは今の世界を変えるためだった。実際に上層部に見つからないよう私が幾つか細工をして、惑星独自の計画であるかのように仮想空間内で説明した。皆納得していて、彼も他の先生たちも疑う余地は無かった。」
「あなたはAIのそんな提案を従ったの?」
「私はラノハクトの一員として本当に世界を変えたかったんだ。記憶も思想も子供たちの将来も制限されるような世界は好奇心も育めないし、どんな産業も豊かにはならない。現実がこの有り様じゃあ科学も歴史も近いうちに途絶えてしまう……あの星なら一から文明をやり直せると思ったんだ。ユートピアを現実に作れると思ったんだ。」
(……。)




