#045 ━体感━
「ほら、人と実際に会って口で会話するべきなんだよ、きっと。細かな仕草とか表情とか──」
「現に今、仮想空間を通じて会話しているじゃないか。現実と遜色なく……」
「そうすると外出しなくなって皆引きこもっちゃうからじゃない?」
「君たちの技術力なら住民一人ひとりの健康状態くらい常に安定させれそうだけど……」
「とにかく、ここがないと私はクラスメートと出会えなかっただろうし、あなたとも出会えなかったはず。違わない?」
「——真実は現実で、この目で、見ないと。」
「まぁ、……たしかに。」
僕はこの最後の言葉で折れた。
その言葉に今のニオの思いの全てが詰まっているのだろう。
学校に集まる別の理由が残されてそうだけど、ここで考えたことも無い事を突きつけられたニオと話を掘り下げても良い議論になりそうもない。
とりあえず、納得はできない訳ではないので次のヒントを待とう。
「はい!じゃあ、言ってた所に向かいますか。」
ニオは足早に教室を出た。紹介するような見所はもう他に無いのだろうか?
「パン、パン、パン」
「すいませんコミューターチューブ二つ!」
(???)
外に出た途端、ニオは空を見上げ頭の上、顔の前、胸の前、と計三度拍手をし、何かを注文したようだ。
どこからともなく鞄サイズの何かしらをぶら下げたモノレールのようなものが、光輝く筋と共にやってきた。
(かっこいい……未来だ。何だこれ……)
どういうわけか良くわからないまま、格好いいのは伝わった。
箱を開けるとよく分からない管が入っていた。
「言った物を届けてくれたのか!?」
「そう。キミ、腕力とか握力に自信はある?」
(え?)
「何?どういうこと?自信があるかと聞かれたら無いけど……」
「じゃあ座った方がいいね。」
「ん???」
ニオは徐にその管をねじ曲げ始めた。
二人分の管が取り出し終わると、箱が瞬時に吸い付くように折り畳まれ、現れた光の筋がどこか向こうへ消えていく。
「輪っかにして、歪ませて……」
(なにが始まるんだ?)
「よし、これでいいかな?」
「浮いてる!?」
ニオが曲げていた管が、いつの間にか手を離していても浮き始めた。
(この重力に抗っている感じ、なんか……デジャヴだな……。)
(!)
「あ、これあそこで先生が座っていた椅子か?」
「ザッツライ!その通り。」
「へぇすげぇや。」
「座れるかどうか試してみてよ」
「よいしょ」
「もっと深く……はまるように。」
言われた通りに自らのヒップをホールドさせる。
(……この格好、ベビーカーみたくてダサくない?)
「これで前に進もうとすれば進めるはず」
「うおぁ!」
「よし、湖へ出発だ!」
「ちょっま!」
展開が早い。
ニオも輪っかを両手で掴んでぶら下がりながら進んでいる。
(なんだと!絶対にそっちの方が気持ちいいし、見た目はクールに映えるじゃん。)
道沿いにこの世界を進んでいく。
(速いなぁ……。)
僕はもっとゆっくり味わいたいのだが、誰もいない道を駆け抜けていくのも悪くない爽快感がある。
「この星にさ、娯楽とかはあるの?」
「この仮想空間でほとんど済んじゃうの。だから、それ以外は……全く無い。」
「まぁ、そうだよなぁ。」
「だから仮想空間が前提でない環境の地球も私にとっては羨ましいなーとか。思ったり。」
「そんなもんなのか。それはどうも。」
(テクノロジーは圧倒的に進んでいるのに羨ましく思うもんなんだな。こんな無い物ねだりもあるんだな。)
ニオのスマートな背中を追いかけるようにを道沿いにきたが、なぜか湖につく前に綺麗な道は途切れていた。
「着いたよ。」
「あれ?ここか?」
錆び付き歪んだ鉄塔の下。
それに絡み付くように色んなガラクタらしきものが宙ぶらりんに垂れ下がっている。
輪から降りた。目の前には学校で見た湖だと思われる……




