#041 ━事故━
僕はほのかに気になっていた人体模型に近づき、周回しているホログラムを読む。えーっと、
"あなたの体がまるわかり。"
そこでホログラムの文字は途切れ、再び同じ文字列が戻ってきた。
(はぁ?これじゃあ説明になってないじゃないか。)
「……これやってみるか?」
「それ、多分一人用だよ。やってみれば?」
「あぁ、そうなの?じゃあ行ってみる。」
「いってらしゃい。」
単調なやりとりの後、しばらくして目を開けると僕の目の前に僕がいた。
嘘じゃない本当だ。
他は何もない。まっさら。
それは無表情でただそこに突っ立っていた。
まじまじとそれを見つめていると、なんとなく気味が悪く嫌な感じである。
精巧な僕の顔を殴ってやりたいという感情も芽を出した。が、本当にはしない。
「おーい。」
返事はない。
特にすべきことはないし、何にも聞かされていない。
握手をしてみようか。手を突き出す。
「ひやぁ!?」
(ぐわぁぁ!なんだこれ。)
どんな感触、温度なのかと思ったが想像が足らなかった。
手が突き抜けて指や手首の内部が見える。
僕はその場で飛びあがり、二、三歩下がった。
(酷くグロテスク。怖い怖い。)
何かの罰ゲームだとしてもなにも知らない僕は恐怖でしかない。
少しずつ触れている手をお腹の方にずらしていく。
「あああああ!無理だ!駄目だ!」
これ以上は見てはいけないと本能が言っている。顔を手で覆った。自分の充血した眼でさえ見ることができないのに、自分を目の前にして顔がひきつり、体が縮む。血の気が引いた。拳もうまく作れない程に。
(あなたの体がまるわかりってこういうことだったのね。)
「あ、もういいです!帰りまーす。戻してください。」
……ということで急いで戻ってきた美術館。
心はズタボロだ。
ここまで来ると寧ろ当たりを引くまでやりたくなってくる。
(うううう。)
「……僕が楽しめそうなの無い?」
奥歯同士を仲良く合わせながらニオに訊ねる。
「楽しめそうなのねぇ……これとか?」
「これは怖くない?」
「怖くないよ」
「本当に?」
「怖いと思う基準が違うからなぁ、私も全部は知らないし、やらせてみないとわからないなぁ」
(絶対に僕を怖がらせたいよねこの人。意図的だよね。)
……ニオに知っている作品を一通り話してもらった。
その上で非常に伝えにくいのだが、僕が楽しめそうなものは一つもなかった。
(どれにしようか。)
あれだけ嫌な思いをしたのにニオと次のアトラクションを相談している諦めの悪い僕。
表面には見えない腹の底にある意地っ張りというのはどんな状況でも悍しい。
説明は信用できないので直感で選ぶのみ。
僕たちは浮いている白い球体に触れてみた。この作品にはニオも触れたことはないらしい。
(今度こそ。頼む。)
心の中で祈る僕の声。神さまへ届いてほしそうに。
……なにも起きない。
「あ!それはそのままじゃ起動しないのです!」
どこかから聞いたことのある声が聞こえてきた。
「これは何?そのままじゃ起動しないってなんでそんなものが──」
「ぶつけなきゃだめなのです。」
「ぶつける?」
「試しにあそこの絵画に向かってその丸いのをぶつけてみるのです」
「おりゃ!」
それを聞いた途端ニオが球体を投げつけた。
そして、絵画にぶつけると変な効果音と共に跳ね返り、床に転がった。
「おぁ、何か変わってる。」
球に色が付き天体の様に回っている。
(これは?)
突然場面が切り替わった。
ニオとアーズロイのやり取りの途中なのだが……
「なんだぁ、ラノハクトじゃん。」
「え!これが……」




